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第2章 同居人との距離――咬――
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しおりを挟む衣服を整えた蘭花が出迎えた女性は、身長の高い綺麗な女性だった。
華龍国にしては珍しい、西域の女性のような白い髪に、どことなく猫を髣髴とさせるような切れ長の瞳を持った美しい顔立ちの女性だ。
「琥珀と申します。蘭花様、以後お見知りおきを」
挨拶された蘭花は、女性に向かって尋ねた。
「なんとなく、どこかで見たことがあるような――?」
「そうでございますか?」
「ええ、なんとなく見覚えがある気がしたのだけど……どこで出会ったのかはさっぱり思い出せなくって……気を悪くしたのなら、ごめんなさい」
「いいえ、お気になさらず……それに、私は客人ではございません。近所に住むことになったから挨拶に来たのです」
「そうなんですか」
蘭花と美女が挨拶を交わしていると、ふと天狼が口を挟んでくる。
「まあ、このようなぼろ小屋に客人が訪ねてくるなんて、めったにない――なあ、蘭花――?」
「黙りなさい、天狼――! なんで、あんたが人の家の事情を、知った風に喋ってるのよ――!」
「もう数日ともに暮らしている、君は私の花嫁なんだから、諦めよ」
「諦めたくなんかないわよ……!!」
ぎゃあぎゃあと言い争いをする天狼と蘭花の様子を見て、琥珀はくすくすと笑った。
「お二人はご夫婦なのですか? 仲がよろしいようですね」
彼女の言葉に、蘭花は顔を真っ赤にして訂正する。
「ち、違いますから! こんな変態と夫婦とか絶対的にあり得ません!」
必死に蘭花は首を振る。
(こうでも否定しないと、天狼のことだから、『いやいや、蘭花は我が花嫁、いずれは夫婦になる予定です』とか言いかねない――)
そんな風に思った蘭花だったのだが――。
「そうです。蘭花のいうように、我々は夫婦ではない」
――あっさりした天狼の琥珀への返答に、蘭花は目を見開いた。
(な――――)
いつもは蘭花に対して口説き調子の天狼のはずが、人前では全くそんな素振りを見せてこない。彼女は少しだけ拍子抜けしてしまった。
それどころか――。
(む――)
天狼は、美人な琥珀を見て、へらへらしているではないか。
(天狼……良いところがないなと思っていたけれど……。あんなに私に触れておいて……美人が現れたら、そっちが良いわけ――?)
なんだか、蘭花の胸の内は、もやもやして落ち着かなかった。
「わたしは水を汲んできますから――――! あとはお二人でどうぞ、ご勝手に――!」
客人の前で、子どもっぽいし失礼な態度だなとは思ったが――気持ちを抑え切れない蘭花はむくれたまま、桶を手に持ち、ぼろ小屋を後にしたのだった。
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