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第2章 同居人との距離――咬――

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「男はどいつもこいつも……結局、天狼も調子が良いだけの男じゃない!!!!」

 なぜだか、蘭花の胸の内はもやもやしていた。
 川に水を汲みに来ていた彼女は、桶を浸ける。
 ひんやりとした水が冷たく、周囲からは土の香りが漂っていた。

「花嫁だとか、子を孕むだとか言って、結局は身体目当てのクズ男!!!」

 誰ともなく、蘭花は文句を言った。
 そうして、しゅんと俯く。

(ちょっとだけ……本当にちょっとだけだけど……天狼はわたしのことが好きだから、あんなに口説いているのかなと思ってしまってた)

 ――このままでは、天狼ではなく、自分こそが自意識過剰の自惚れ屋だ!

 蘭花は首をぶんぶんと横に振った。

「違うわよ、あの変な男に身体を少し弄られただけで……別に興味があるわけじゃ……」

 だけれど、どうしようもなく彼のことが気になるのは……

 体質のせいなのだろうか?

 それとも、時折彼が見せる憂い顔のせいなのだろうか?

 ふと、蘭花の頭の中に何かが浮かぶ。



『蘭花』


狼大兄ろうにいさま


 思い出そうとすると、頭の中がズキンズキンと異端だ。

「今のは……なんなの……?」


 予言とは違う。

 それとは別の……。


 その時――。

『とても良い匂いがするな』

 突然、蘭花の耳に、男とも女ともつかない声が聴こえる。

「え……?」

 ザパンと水が跳ね、彼女の肌をぬらす。

 蘭花が顔を上げた先――川の中からぬるりと顔を表したのは――。

「きゃっ……! 何……!!!?」

 ――鱗のない、蛇とも龍ともつかない、大人五人分ぐらいの長さの生き物だった。



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