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第2章 同居人との距離――咬――
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しおりを挟むまだ、そんなに一緒に過ごした時間は長いとは言えない。
けれども、母を失って孤独だった蘭花の元に訪れて、彼女に関心を持ってくれた。
(死なれたら、さすがに目覚めが悪いわ!)
蘭花も腰を落とし、天狼の肩に手を添える。
しばらくうずくまっていた彼だったが、彼女にちらりと視線を送ってくる。
「良かった、天狼……」
彼女はほっとした。
「蘭花、私の心配よりも、かの妖の心配をしてやった方がいい」
彼は不敵に微笑んだ。
「え? どういう意味なの?」
意味を確かめるべく、彼女がくるりと妖の方へと振り返る。
すると――。
『ぎぎぃ……人間……お前、その血は……!』
咬という名の妖の頭部は、苦しそうに地面をのたうち回る。
蘭花を地面に降ろした天狼は、呪言を唱え始めた。
『まさか、お前は――龍て……』
何か言いかけた咬だたったが、それよりも早く、身体が炎上しはじめる。
「な、何が起こっているの……妖が燃えて……!!」
肉があぶられる匂いが鼻腔をついてきた。
炎は天高く舞い上がっていく。
煙が風でごうごうと揺らいだ。
そうして――。
妖は、跡形もなく消え去ったのだった。
しばらく静寂が二人を包み込む。
「さて、蘭花よ、咬を祓うために華麗な演技をしていた私のことを怒るんじゃぁないぞ。いいか――ぐえっ……!」
途中まで言いかけた天狼だったが――。
「この馬鹿!!! 大馬鹿!!!」
「なんだ? あまりにも見事な演技に花嫁も見事にだまされたのだろう? さすが私――」
「死んだと思って……」
「ん?」
彼女の声は震えていた。
そのことに、彼も気づいたようだ。
「心配したじゃない……!!! この馬鹿!! うぬぼれや!!! 馬鹿馬鹿馬鹿!!」
――座り込む彼の身体に、蘭花が抱き着いたのだった。
「おやおや、想定外の反応だったな……」
天狼は、蘭花に抱き着かれたまま、しばらく呆然としていた。
涙をほろほろと零す蘭花の背を、彼はそっと抱き寄せる。
「悪かったな、蘭花……」
いつになく真摯な声音の天狼に、蘭花はぴくんと反応した。
彼の真剣な碧の瞳と出会った彼女の心臓が大きく高鳴る。
(あ……)
気をとりなおした彼女は、ぱっと相手の身体から離れ、わたわたと告げた。
「え、えっと……あの……そ、そうだ、噛まれたところの手当てをするから! ちょっと見せなさいよ」
そういうと、蘭花は天狼の上衣をするりと脱がせる。
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