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第2章 同居人との距離――咬――
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彼の予想外に逞しい上半身が顕わになったのだが――。
(何――傷がいっぱい――!?)
彼の身体には無数の古い傷跡が残されていたのだった。
(今まで、天狼が服を脱いでいるところは確かに見たことがなかったけれど――)
あまりの傷の多さに、蘭花の胸が痛んだ。
「ああ、この美しい顔とは正反対に、身体は傷だらけだろう? 花嫁を怖がらせまいと、いつも着衣したまま、君の身体を喜ばせようとしていたのだがな――」
軽口を言う天狼を見て、蘭花は口を一旦噤む。自身の服を割いて包帯にしたものを、彼の上半身に巻き付けた後、彼女は唇を開いた。
「あなたに傷があってもなくても……」
彼女の頬が朱に染まる。
「花嫁であるわたしは怖がったりはしないから」
ついて出た言葉に、彼女自身が驚きを隠せない。
「は! 今のは、ち、違うのよ! 自分が彼の花嫁だって認めるような発言だったけど、そ、そうじゃなくって……!」
うろたえる彼女の頬に、彼の大きな手が添えられる。
顔を真っ赤にした蘭花に、天狼の綺麗な顔が近づいてくる。
いつものように、舌を出した彼が、彼女の唇をぺろりと舐めてくるかと思いきや――。
「そういえば、我が花嫁は、優しい口づけをご所望だったか」
そう言ったかと思うと――蘭花の柔らかな唇に、天狼の柔らかなそれが、ゆっくりと重なる。
(え――)
今までのように強引な、舌を絡ませるような口づけではなく――。
(なんだか身を委ねたくなるような――)
瞳を見開いていた蘭花だったが、そっと瞼を閉じる。
そうして、そのまま――唇を触れ合わせるだけの口づけを、二人は交わし合う。
どれだけの時間が経っただろうか――天狼の唇がゆっくりと離れた。
離れた時、なぜだか蘭花の中に一抹の寂しさがわく。
(え? なんで、天狼が唇を離しただけなのに……わたしは……おかしくなったんじゃ……)
「たまに、こういう口づけも風情があって悪くはないな――」
天狼が優美に語り掛けてきた。
彼の優しい声音に、またもや蘭花の心臓が跳ねる。
(だから、違うってば! 別に気になってなんか……!)
必死に彼女が首を横に振っていると――。
「きゃっ……!」
気づけば、蘭花は地面に仰向けにされてしまった。
黒髪が散らばる。
彼女の身体は、天狼に組み敷かれているようだった。
「何するのよ、天狼!!」
悠然と微笑む彼の片手は、彼女の乳房の上に乗っている。
(ん――?)
「さて、妖も倒したことだし、服も脱がされたことだし……野外だなんて、いつ誰が来るとも分からない。そんな中での情事!! 私の美しい体と性技を見せつける良い機会ではないか!! さあ、燃えるだろう? 我が花嫁!」
嬉々として述べながら、胸に乗った手を動かそうとする天狼に対し――。
眉をひそめた蘭花は、大きく息を吸い込んだ。
そうして――。
「そんなところで燃えるのは、あんただけよ――! この変態自分大好き男――――!」
「だんだんと、君の罵倒も褒め言葉のように聞こえてくるようになったぞ……」
蘭花と天狼はしばらく、わぁわぁと言い争った。
ふと、彼女の脳裏にひらめく。
『――我が花嫁は、優しい口づけをご所望だったか――』
(わたしが「こんな口づけばっかりで嫌」って言ったから――? まさか……まさかね……)
ちょっとだけ、天狼に惹かれつつある蘭花。
彼女に対してまだまだ何かを隠しているような彼。
ほんの少しずつ距離を近づけながら、二人の同居生活は、もう少しだけ続くのだった。
(何――傷がいっぱい――!?)
彼の身体には無数の古い傷跡が残されていたのだった。
(今まで、天狼が服を脱いでいるところは確かに見たことがなかったけれど――)
あまりの傷の多さに、蘭花の胸が痛んだ。
「ああ、この美しい顔とは正反対に、身体は傷だらけだろう? 花嫁を怖がらせまいと、いつも着衣したまま、君の身体を喜ばせようとしていたのだがな――」
軽口を言う天狼を見て、蘭花は口を一旦噤む。自身の服を割いて包帯にしたものを、彼の上半身に巻き付けた後、彼女は唇を開いた。
「あなたに傷があってもなくても……」
彼女の頬が朱に染まる。
「花嫁であるわたしは怖がったりはしないから」
ついて出た言葉に、彼女自身が驚きを隠せない。
「は! 今のは、ち、違うのよ! 自分が彼の花嫁だって認めるような発言だったけど、そ、そうじゃなくって……!」
うろたえる彼女の頬に、彼の大きな手が添えられる。
顔を真っ赤にした蘭花に、天狼の綺麗な顔が近づいてくる。
いつものように、舌を出した彼が、彼女の唇をぺろりと舐めてくるかと思いきや――。
「そういえば、我が花嫁は、優しい口づけをご所望だったか」
そう言ったかと思うと――蘭花の柔らかな唇に、天狼の柔らかなそれが、ゆっくりと重なる。
(え――)
今までのように強引な、舌を絡ませるような口づけではなく――。
(なんだか身を委ねたくなるような――)
瞳を見開いていた蘭花だったが、そっと瞼を閉じる。
そうして、そのまま――唇を触れ合わせるだけの口づけを、二人は交わし合う。
どれだけの時間が経っただろうか――天狼の唇がゆっくりと離れた。
離れた時、なぜだか蘭花の中に一抹の寂しさがわく。
(え? なんで、天狼が唇を離しただけなのに……わたしは……おかしくなったんじゃ……)
「たまに、こういう口づけも風情があって悪くはないな――」
天狼が優美に語り掛けてきた。
彼の優しい声音に、またもや蘭花の心臓が跳ねる。
(だから、違うってば! 別に気になってなんか……!)
必死に彼女が首を横に振っていると――。
「きゃっ……!」
気づけば、蘭花は地面に仰向けにされてしまった。
黒髪が散らばる。
彼女の身体は、天狼に組み敷かれているようだった。
「何するのよ、天狼!!」
悠然と微笑む彼の片手は、彼女の乳房の上に乗っている。
(ん――?)
「さて、妖も倒したことだし、服も脱がされたことだし……野外だなんて、いつ誰が来るとも分からない。そんな中での情事!! 私の美しい体と性技を見せつける良い機会ではないか!! さあ、燃えるだろう? 我が花嫁!」
嬉々として述べながら、胸に乗った手を動かそうとする天狼に対し――。
眉をひそめた蘭花は、大きく息を吸い込んだ。
そうして――。
「そんなところで燃えるのは、あんただけよ――! この変態自分大好き男――――!」
「だんだんと、君の罵倒も褒め言葉のように聞こえてくるようになったぞ……」
蘭花と天狼はしばらく、わぁわぁと言い争った。
ふと、彼女の脳裏にひらめく。
『――我が花嫁は、優しい口づけをご所望だったか――』
(わたしが「こんな口づけばっかりで嫌」って言ったから――? まさか……まさかね……)
ちょっとだけ、天狼に惹かれつつある蘭花。
彼女に対してまだまだ何かを隠しているような彼。
ほんの少しずつ距離を近づけながら、二人の同居生活は、もう少しだけ続くのだった。
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