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第3章 別れと旅立ち――白豚と龍帝――

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 蘭花が次に目を覚ますと、寝台の上にいた。

(私は、確か桂香に捕まって……)

 部屋の中には甘ったるい香りを放つ、怪しげな香が漂っている。

(逃げなきゃ)

 それを嗅いでいるせいだろうか、全身に力が入らなかった。
 必死に指先を動かすが、ダメだ。
 しかも、なぜだか妙に身体が火照る。

(まるで満月の日みたいになって)

 なんだか全身汗びっしょりで息もしづらいし、腰から下が疼いてしょうがない。
 どうやら薄衣で出来た衣服に着替えさせられているようだ。
 焦っていると、がちゃりと音が鳴る。

「蘭花、目覚めたのかい? どうかな、この香は? 身体が疼いてしょうがないだろう? やっと君を僕のものに出来る日が来たんだ」

 白豚のようなもっちりとした、地方領主の息子・桂香。
 はあはあ荒い息をしながら、こちらに迫ってくる。
 彼が薄い衣服を手で引き裂いた。
 蘭花の柔らかな二つの膨らみが、厭らしい瞳の下、顕わになってしまう。

「きゃっ……! こんなことして許されると思っているの!? 桂香!」

「恨むなら、借金を作った父親を怨むと良いよ」

 ぎしりとベッドの上に、桂香が乗り上げてくる。
 昔から自分に好意を寄せていたのは知っていた。
 だけど、気弱な彼がこんな思い切った行動をとるなんて――。

「桂香、辞めて!」

 だが、興奮した様子の彼の手は止まない。
 びりびり服を全部はがれてしまう。

「薬のおかげだ。下ももうビショビショだね」

 確かに桂香の言う通りだ。
 怪しげな香のせいで、脚の間からトロリと蜜が流れていた。

「今からの僕との行為に、蘭花も嬉しいのかな?」

 ――各々言い回しが気持ち悪くて、しょうがない。

 ふと、桂香の後ろに黒い靄のようなものが見える。

(まさか、妖に憑りつかれてるの――!?)

 そうして、ゆらゆら彼の身体が揺らめいたかと思うと、そこには白豚と人間が融合したような怪しい生き物がいた。

「ひっ……やっぱり、妖に……」

 桂香の手が乳房に伸びて、掴んでこようとする。

「心の弱いこいつに憑りつくのは簡単だった。さて、龍帝に気づかれる前に、お前を――」

 ふと、同居人・天狼の顔を思い出す。
 彼には嫌悪を抱かなかったのに――。

「あの天狼とか言う同居人が、蘭花に絡んできたせいで……なかなか近づく機会がなかったけれど、君の方から一人になってくれて本当に良かった」

「いや……」

 服を脱ぎながら、上にのしかかってくる桂香に向かって叫んだ。

「いやよ、桂香! あんたと結ばれるぐらいなら、天狼の方が何倍もマシなんだから!!!! 早く助けに来なさいよ!!!!!」

「黙れ! 蘭花!」

 私と桂香が叫んだ、その時、建物がぐわんと揺れた。
 
「なんだ――!?」

 ――同時に轟音が聴こえる。

「なに――!?」

 部屋の壁が、どおっと音を立てて崩れ落ち始める。


「せ、せっかく皆の税金をかき集めて作った、僕の城が――!」


 動揺した様子の桂香が叫ぶ。

 彼が私の身体の上から避けた。

 だが、ガラガラと天上が崩壊しはじめる。

 このまま建物の倒壊に裸のまま巻き込まれて死ぬのか――!?


 そう思った時、何かに身体が掴まれた。

 ふわりと身体が浮き上がる。



「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」



 桂香の声が耳をつんざいてくる。


 恐る恐る、瞑っていた目を開けた。


 そこには――。


「な――!」


 伝承で言い伝えられる。

 とぐろを巻いた巨大な生き物。

 黒光りする妖しい鱗に、ぎょろぎょろと碧の瞳をした――。



「龍――!?」



 一匹の龍が、蘭花の身体を掴んでいたのだった。



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