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ギルフォードside(過去〜現在)
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しおりを挟むそれから、たまに孤児院の慈善事業でルイーズとは顔を合わせたが、なかなか距離は近づかなかった。
(可愛いだけの女だな)
最初の出会いのショックもあって、ギルフォードはそんな風に自己防衛していた。
だけど、目では彼女を追ってしまう。
ルイーズは由緒正しき家柄の少女だったが、誰に対しても分け隔てなく接する。
理知的だが、時折お転婆に見えて――つかみどころのない令嬢だ。
ある時、「ギルフォードが髪を引っ張ってきた」と、高位貴族の息子が訴えてきた事件があった。
その子どもの髪を引っ張ったのには理由があったが、その親は聞く耳を持たなかったのだ。普段から高慢な態度をとるギルフォードのことを気に食わなかったのかもしれない。
(こんな目に合うのは慣れている)
ギルフォードの母は貴族だったが、父が商人出身だったので、たまに息子の自分に対して色眼鏡をかけて見てくる連中がいるのだ。
裏では成金の家だと、ギルフォードのことを蔑みながらも媚びてくる、しょうもない連中達。
(適当に聞き流すか……)
だが、そんな彼の態度が、貴族の癪に障ったのか、怒りはヒートアップしていく。
「ごめんなさい」
そんな中、ルイーズが声を上げた。
「ギルが髪を引っ張ったのは、その子の頭にバッタが乗っていたからです」
「え?」
まさか――ギルフォードをかばい、大人たちに意見をしてくれたのだ。
「他にも意地悪しているのには理由があります……。洋服の裾を引っ張ったのは、汚れを落とそうとしていたからで……」
はきはきと物を言う彼女が、まるで女神のように神々しくギルフォードには見えた。
結果、公爵家の孫であり、侯爵令嬢であるルイーズの意見を、相手の貴族親子は聞き入れた。
「結局、由緒正しき貴族様の意見を聞き入れたんだろう」
憮然とした態度をとっていると、あまり会話をしなかったルイーズが声をかけてきた。
「貴賤は関係ないわ。日頃の行いの問題よ」
そう言われると、ぐうの音も出ない。
すると、少しだけ頬を染めた彼女が、ぽつぽつ呟いた。
「ギルは態度は大きいけれど、本当は優しい人だって……私、知ってるわ。貴方がいつも、私が好きそうな本をお家から持ってきてくれてるの、分かってるから……」
ギルフォードは気恥ずかしかった。
(気を惹きたくて、家から本をたくさん持ってきたのがバレて……)
恥ずかしそうなルイーズの姿を見て、ギルフォード少年は陥落した。
とはいえ、やはりどうやって彼女の気を引けば良いか分からず、会うと彼は意地悪ばかりしてしまった。
だけど、そんなギルフォードに対して、相変わらずルイーズは優しかったので、ますます恋の沼にはまってしまったのだった。
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