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ハネムーン前日譚
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しおりを挟むそうして数日間。
彼が私に触れてくることはなかった。
あれから冷静になって考えれば、理由も説明せずに怒った自分にも非があるのは明らかだった。
(昔と違って、ギルフォードは大人びてしまった。私だけ拗ねてて、いつまでも子どものまま)
喧嘩というよりも、私が一方的に怒っているだけだ。
ギルフォードには呆れられたかもしれない。
現状を打破したいと思ったものの、自分から触れるなと言っておいて、今更前言撤回も出来ない。
仕事終わりにモヤモヤしていると、マダムモリスンが声をかけてきた。
「ギルとまた喧嘩かい、ルイーズちゃん?」
「ええっと……」
核心をついてこられ、私は動揺を隠せない。
ギルフォードの叔母でもあるマダムモリスンも、昔から私に優しくしてくれる。
相談すると、しばらくふんふんと彼女は話を聞いてくれて、少しだけ過敏になっていた心が落ち着きを取り戻した。
「だったら、そんな、ルイーズちゃんとギルにはこれだ!」
彼女が懐から何かを取り出してきた。手に握られているのは茶色の小瓶。
ド派手なラベリングがされていて、なんとなく胡散臭い。
「海外から取り寄せた、新しい香料だ。素直になれない恋人同士を素直にさせると言われている、素敵な代物だよ! おまじない代わりに、ちょっとだけ垂らしてごらん」
「素直になれる?」
すると、マダムモリスンが大仰に首を縦に振る。
「取り寄せたばかりだけど、消費期限が短いから、早めに試してごらん」
「はい、分かりました!」
魔法の香料を手にした私は、菓子工房を後にしたのだった。
※※※
帰宅すると、私は調理場にてチョコ菓子を作ることにした。
作業のために、職場と同じ格好――黒いワンピースに白いエプロンを羽織る。
湯せんにかけたとろとろのチョコへと生クリームを加える際に、貰った香料を入れることにする。
(素直になれるおまじない)
小瓶の蓋を開けると、妙に甘ったるい香りがした。少しだけ垂らした後、型に流して冷やして固める。
そうして、完成したチョコを箱にしまい、寝室へと戻ったのだ。
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