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後日談1※

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 ヴァレンス様も黒猫になることが発覚して以来、お互いにネコ可愛がりする間柄になった。
 ますます夫婦仲は良くなっていって、これまでの二年間が嘘のようだ。
 大体満月の日になると、夫婦のどちらかがネコになる。
 これまでのところ、ネコから人間に戻るにはどちらかの口付けあれば大丈夫だということが分かった。

(ネコから人間に戻る条件はキス……人間からネコになる条件は満月だけ……?)

 ちなみに今日の満月――私は白ネコ姿になってしまってる。

「ユリア、お前はどんな姿になっても可愛らしいな……」

 大きな手でふさふさの頭を撫でられると、きゅうんとなった。

「にゃあん(ヴァレンス様)」

 長い指でゴロゴロと喉を転がされる。
 ベッドの上で思わ寝転がって、お腹をゴロンと見せてしまう。

(あ……私ったら、なんてはしたない真似を……!)

 そんなことを思っていると――。

 ヴァレンス様がものすごく冷酷無慈悲な表情でこちらを見下ろしているではないか――。

「にゃッ……!」

 思わずビクンと身体が震える。

 だけど――。

 彼と両思いになった今なら分かる。

「にゃあん(ヴァレンス様は……)」

 ――私の行動の意図を深読みして――ああでもないこうでもないと脳内で考えておられるのだと――。

(『お腹を出してきたら喜んでいるのだろう、いいや、ユリアは元は人間だから、もう俺の相手はしないという宣戦布告!?』とか深読みしていそうな表情だわ……!)

 一昔前の自分なら分からなかったが、今の私はヴァレンス様の表情がだいぶ読めるようになっていたのだった。

(ヴァレンス様を安心させないと……)

 そう思って、夫の頬にスリスリとすり寄る。

「ああ、すまない、ユリア……」

「にゃあん(ヴァレンス様)」

 そうして――私が人間に戻るためにと思って、ちゅっと相手の唇を奪ってみたのだけれど――。

「にゃ?」

 いつもならば――白ネコ姿から人間のユリアに戻れるのに戻れなかったのだった。

「にゃん?」

 どうしてだろう――?

 考えたがなかなか答えが出ない。

「今日、お前が元に戻れないのはなぜだろうな……」

 ヴァレンス様も理由が分からずに不思議そうにしているではないか。
 
「ユリア、すまない……」

 そういうと、黒髪紫瞳の美青年が私の唇をチュッと奪ってくる。

(にゃあ―――――――!!!)

 心の中は気恥ずかしさでいっぱいだ。

 だけど――。

「ユリア……やはり戻れないようだな……」

 少しだけ困惑しているヴァレンス様の姿を見ていたが――。

「せっかくだ、綺麗な満月の夜だ。一緒に散歩でもしよう」

「にゃあん……!」

 そうして――広い肩の上に乗せられて、私は夜の散歩に出かけることになったのだった。



***
 


 秋も深まってきて、だいぶ風も冷たくなってきている。
 雲の隙間から覗く月光が私たちを照らしていた。
 白庭の片隅を夫婦でゆっくりと進む。

 しかしながら、会話はなく終始無言だ。

(昔なら、ヴァレンス様は怒っているのかしらと不安だったけれど……)

 今ならば分かる。
 少しだけ不器用なヴァレンス様が、一生懸命言葉を選んでいることを――。

(ヴァレンス様は強面だけれど、本当はとってもお優しい御方……)

 ――幅広の肩の上で、柔らかな振動を感じる。

 夫の端正な横顔を見ていると胸がきゅうっと疼いた。

 しばらく後、彼がゆっくりと口を開く。
 
「ユリア、お前とこうやって夜の散歩に興じることが出来るようになって本当に良かった」

 ――その言葉にますます胸がきゅうんっとなる。

(ヴァレンス様も同じ気持ちで良かった……)

 嬉しくなった私は思わず――。

 彼の唇の端をペロンと舐めてしまった。

 すると、夫が微動だにしなくなる。

「にゃあッ……!」

(――私ったら、なんてはしたない真似を……!)

 白ネコになって以来、身も心も動物になってしまっているのかもしれない。
 
 やはり人間の姿には戻れないまま、ネコの姿でにゃあんと身悶えしていると――ヴァレンス様が早口になった。

「ユリア! 気にしなくて大丈夫だ! ああ! ほら見てごらん――お前のように愛らしい花が咲いているな」

「にゃッ、にゃにゃん……!!(そうですね!)」

 恥ずかしさを隠すように、ヴァレンス様が指さす花の方へと私は飛び降りて駆ける。
 水辺だ。
 彼が教えた花は――白くて愛らしい花びらが五枚咲いていて――。

「あ! 待て! しまった! ユリア! それは――!」

 草花の香りを嗅いでいる間に、なんだか身体がふにゃあんとなってきた。

「にゃあん……」

(あれ? なんだか身体が火照って……?)

 ふにゃんと意識が朦朧とする中――ヴァレンス様が慌てた様子で続ける。

「ユリア! それはマタタビだ」

 ――マタタビ――!?

 ネコにマタタビと言えば……。

 だが――時すでに遅し。

「にゃあん……!!」

 出てきたのは高い声。

 挙げ句――ネコの私の身体は勝手にお尻を突き上げてしまい――。

「ユリア、すまない――ッ……!」

 近付いてきたヴァレンス様を見るや飛びついて身体をすりすり擦りつけてしまう。

「ふにゃあん(ヴァレンス様……)」

「遅かったか……」

「にゃあん……」

(ああ、どうしよう……私……)

「ユリア、マタタビを嗅いで発情してしまったか……くッ……」

 ヴァレンス様の嘆く声を聞きながら――自制の効かなくなった私は、白ネコ姿のまま、彼の唇を奪いに襲いかかる。

「にゃあん(ヴァレンス様、好き)」

「ユリア――」

 互いの唇がチュッと重なった瞬間――。

 ――淡い光が我々を包みこむ。

 そうして――。

「ヴァレンス様……」
「あ……」

 ――神の悪戯か――。

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆ、ユリア……」

「ヴァレンス様あ……」

 ネコの感覚のまま旦那様にしなだれかかった。

(あれ?)
 
 先ほどまでと感覚がなんだかおかしいことに気づく。

 火照りきった身体のまま、のろのろと池の畔を覗いて、自分自身の姿を確認すると――。

 人間の姿に戻ってしまっている――もちろん裸だ。

 そうして――頭の上にはネコの耳、お尻にはふさふさの尻尾。

(私……まさか……)

 ――ネコ耳にネコ尻尾がついた真っ裸の姿のまま――。

 私はうっかり発情してしまったのだった――!!

 
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