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本編

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 心臓がドクンと跳ね上がる。
 扉の向こうに立っていたのは、幼馴染のアーサー兄さまだった。

「どうして? 忙しいんじゃなかったの……?」

 私が塔の窓から見下ろしているのに気づいたのだろう。

「リーリア!」

 大きく手を振りながら、朗らかな笑顔をこちらに向けてくる。
 嬉しくなって最上階から階下まで一気に駆け下りた。
 扉を開けると愛しい彼の姿が目に飛び込んでくる。
 胸の内にまるで花が咲いたかのような気持ちになった。

「久しぶりだな、リーリア」

「アーサー兄さま!」

 思わずアーサー兄さまに抱き着いてしまった。
 すると、彼も翠玉エメラルドの瞳を和らげながら私の頭を優しく撫でてくれる。

「お前が元気そうで良かったよ、俺の可愛いリーリア」

「お兄様ったら……!」

 せせらぎのような穏やかで優しい声が私の鼓膜を震わせてくる。
 久しぶりの彼の腕の中、幸せな気持ちでいっぱいになった。

「仕事終わりに来たの……? 王都から森の奥まで大変だったでしょう?」

「仕事終わりだが急用でな」

「急用……?」

 ひとまず馬で駆けてきたアーサー兄さまに休んでもらおうと思って、私は塔の中にある客室へと案内した。

「お兄様、はい、疲れがとれる薬草茶よ」

「リーリアの淹れる茶は最高にうまいからな」

 幸せそうに微笑むアーサー兄さまの姿を見ていると胸が高鳴ってくる。
 ふと、彼の視線が机の方へと向いた。

「……ケンダルとのお見合いの話は本当だったようだな……」

「え?」

 聞き間違いかと思うぐらいの低い声音に、私の身体はびくりと跳ね上がった。
 相手から一瞬剣呑なオーラが漂った気がするが、気のせいだろうか。
 そう言われてみれば、公爵様にお見合い話をされた時の絵画を置いたままにしてしまっていた。

「おじさまが勧めてきていて……」

「そうは聞いていたが、本当だったようだな」

 なんとなく空気が良くない気がして、話をそらそうと無理やり笑顔を作る。

「あ、そうだわ、アーサー兄さま、急用ってなんだったの?」

 すると、真剣な表情を浮かべた彼が私に向かって告げてきた。

「お前に頼みがある」

「……何?」

 そうして――至極真面目な声音で告げられる。


「どうか俺に惚れ薬を作ってほしい」


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