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本編

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「リーリア、出る……」

「はい!」

 五度目の挑戦。
 なんとか無事にキャッチ!
 フラスコに慌てて「特別な体液」を閉じ込める。

「完成しました!」

「良かった、無事にできて……」

「さすがに五回目だから大変でしたよね、兄さま」

「いいや、そんなことはないさ」

 アーサー兄さまは言葉通り、爽やかな笑顔を浮かべていた。

(魔獣よりも体力があるのね……)

 感心しながらも、これでアーサー兄さまと過ごす時間は終わりなのだと思うと胸が軋んだ。
 下衣を履き直した彼に向かって、そっと惚れ薬を入れた小瓶を渡す。

「はい、兄様、どうか兄さまの恋が実りますように……」

 悲しいけれど仕方がない。
 そっと彼が小瓶を受け取った。

「ありがとう、リーリア」

「いいえ、お役に立てて良かったです」

 その時――

「リーリア」

 アーサー兄さまが私の手首を掴んできた。

 ドキンと心臓が跳ねる。

(あ……)

 そうして、彼が問いかけた。

「無事に完成したのは良いが、お前は俺のこんな様子を見て……こう嫌悪感を抱いたりしなかっただろうか?」

「え? 嫌悪感ですか……?」

 私はフルフルと首を横に振った。

「そうか、良かった……」

「だって、依頼の一環ですもの」

「……っ……」

 アーサー兄さまが苦虫を潰したような表情を浮かべた。
 そうして、こちらを真摯な表情で見つめてくる。

「リーリア……立ち去る前にお前に確認しておきたいことがある」

「なんでしょうか?」

「お前にとっては……俺は血の繋がらない兄のようなものか?」

 ドキン。
 見透かされているようで怖くなってしまう。

「それは……もちろん、そうです……」

「そうだな……そうでなければ、惚れ薬を作るのを手伝ったりはしないよな……悪かった、リーリア」

 それだけ言うと、彼の手が手首から離れる。
 彼の体温が去って少しだけ寂しさが募った。

(脈がないのは分かってる……だけど、気持ちだけでも伝えて振られた方がスッキリする……?)

 どうしようか考えていると……
 ベッドからアーサー兄さまが立ち去ろうとしていた。

「あ、お兄様……待っ……きゃっ……!」

 その時――

 視点が反転した。

(いったい何が起こって……?)

 ギシリ。

 ベッドが弾んだ。

 身体の上に何か重みがかかる。

 気づけば、アーサー兄さまに押し倒されていた。

「アーサー兄さま……?」

 すると、いつも通りの優しい手つきで私の髪を撫でてくる。

「リーリア」

 もう片方には惚れ薬の入った小瓶。

 ドクンドクン。

 心臓の音が大きくなってくる。

 どことなく苦しそうな表情を浮かべた兄さま。

「お兄様……」

「なあ」

 やけに色香を孕んだ声音に聞こえた。



「惚れ薬、本当に効果があるか試させてほしい」



 そこにはもう、いつもの優しいお兄様の姿はなかったのだった。


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