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本編

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「落ち着いてください、アーサー兄さま!」

 アーサー兄さまの愚行を止めようと初級氷魔法を使った。

「なんだ……!?」

 ゴン!

「ぐっ……!」

 コントロール下手なので頭二つ分の大きな氷がアーサー兄様の頭に直撃してしまった。
 アーサー兄さまの手から小瓶が離れて、ベッドの上に転がる。
 同時に、彼の頭が私の胸の谷間に突っ込んできた。

「きゃあっ……! あああ、ごめんなさい、アーサー兄さま、お怪我はないですか!?」

 微動だにしなくなったアーサー兄さまの頭を抱きかかえる。

「今のは効いたよ、リーリア……」

 先ほどはだけられたため、乳房がまろびでたままだったことも忘れてしまっていた。
 いつものような知性を取り戻しはじめたアーサー兄さまに向かって私もまじめに返す。

「……アーサー兄さま、私に惚れ薬を使っても無意味です」

「無意味……?」

「はい、無意味なのです。だから、どうか、第二王女様にお使いください」

 そう――惚れ薬の効果を試そうとしたって無駄なのだ。

(だって……惚れ薬を使わなくたって、私はアーサー兄さまのことが好きなんですもの……)

 昔から大好きだったお兄様。
 どうか周りを見失わずに、本当に好きな女性と幸せになってもらいたい。
 けれども、相手は悲しそうに眉を顰めた。

「そうか惚れ薬を使ったところで、俺はお前からすれば恋愛対象外ということなんだな」

「そうではなく……」

「だったら――」

 アーサー兄さまの翠玉の瞳には決意の炎が見える。

「尚のこと、お前に惚れ薬を試すしかないだろうさ」

 結局堂々巡りになってしまった。

(昔から猪突猛進でちょっと周りが見えなくなるところがあるんだった……!)

「待ってください、兄さま。惚れ薬は一度しか使えないのです、お試しで私に使ってしまっては、本当に使用したい時に使用できなくなります」

 まっすぐに見据えた。

「お前に効果がないようなら、そもそも惚れ薬としての意味がないからな……それに、まだ残りもあるだろう、先ほど俺が何度か挑戦したように、お前に何度か挑戦するまでだ」

「それはそうですけれど……」

 どうにか説得しなければ……

「そうだ! そもそも私の魔力が高いのだって知っているでしょう? 惚れ薬にだって耐性がある私には使っても意味がないのです」

「お前が生まれた頃から知っているが、耐性があるとかそんな話は今まで一度も聞いたことがない……」

「……っ……」

 どうしようもなく伝わらない。

「リーリアが、そんなにまで俺に使われたくないのは分かったよ……」

「そうではなくって……」

(アーサー兄さまにどうしたら伝わるの……? 元々好きな相手に使っても意味がないのに……)

 きっと嗅いだところで私に何らかの変化があるはずがないのだ。
 あるとしたら、もっと好きになるぐらいでしかない。
 こうなったら失恋覚悟で本人に言うしかないのだろうか。

(そうしたら、真面目なアーサー兄さまのことだもの、さすがに諦めてくれるような気がする。それとも、このまま嗅いで、変化がないところを見せたら納得してくれる……?)

 そもそも真面目な性格のアーサー兄さまだ。
 小瓶を私の許可なく使用するのに戸惑っている。

「わかりました、私に使ってください」

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