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本編

22 アーサーside

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 アーサーには小さい頃から大好きな幼馴染がいる。
 公爵夫妻である両親は王族の縁戚で忙しくしていて、一人っ子だったアーサーは公爵家で一人っきりで過ごすことが多かった。

『ええん、リーリアは一人ぼっちになっちゃったよ』

『リーリア、俺のことを本当の兄のように思ってくれて良いから』

 最初は妹が出来たみたいで嬉しかった。
 七つ下の無垢な少女は、自分のことを心底慕ってくれていて、そっと抱きしめると柔らかくて幸せな気持ちなった。
 人よりも何でもできたけれども魔力を持たなかったことで同年代の貴族たちからも浮いていたアーサーにとって、リーリアは本当の妹のような存在だったのだ。

『リーリア、高い魔力持ちなのに制御できない無能! お前が両親を殺したんだろう?』

『お前たち、おかしなことを言うな! リーリアのせいじゃない!』

『なんだよ、魔術師一族に生まれたくせに魔力なしの無能アーサー! 金があって顔だけ良いんじゃ話にならないぜ!』

『……っ……!』

 心が揺らいでいると――

『馬鹿にしないで! 魔法なんて関係ないぐらい、アーサー兄さまはすごいんだから!』

 そうして――そっとアーサーのところに来て抱きしめてくれた。

『アーサーにいさまは、昔っから私だけのヒーローなのよ!』

『リーリア……』

 自分がコンプレックスに思っていることだって跳ね飛ばそうと思えるぐらいに、彼女はアーサーに絶大な信頼を置いてくれたのだ。

『リーリアは騎士様が好きなのかい?』

『うん、リーリア、騎士様が好き! 強くてカッコいいの! アーサー兄さまみたいなんだもの! そうだ! リーリア、アーサー兄さまが騎士団長様になって、そうしたらけっこんするの!』

『ええ、俺が騎士団長……!?』

 真っ正直で真に受けたアーサーは騎士学校の門を叩いた。
 リーリアが褒めてくれるから、どんどんアーサーは強くなっていった。
 ずっと妹のように思っていたが、彼女が成長するにつれ、どんどん目が離せなくなっていった。どうやら大人になっていく彼女に恋をしてしまっていると気づくのに、そう時間はかからなかった。
 リーリアが十六で成人するまでは、公爵家で一緒に過ごしてくれていたが――父侯爵の住んでいた森の奥深くの塔へと移りすみ、父親の残した研究を引き継ぐことになった。

『リーリア、こんな場所に一人で大丈夫か?』

『ええ、アーサー兄さまも知っているでしょう? 私、魔力だけは高いから大丈夫よ』

『そうか……そうだな、お前は俺がいなくても強い人間だからな……』

 本当は寂しかったのは自分の方だ。


『リーリア、俺はお前が信じてくれるなら、どれだけだって強くなれるよ』

 そう決意して――がむしゃらに働いて、戦争で功績を上げて――気づけばリーリアが言っていた通り、騎士団長になっていた。

『リーリア、約束通り、騎士団長になったよ――』

 とはいえ――

(リーリアにとっては子ども時代によくわからずに話した約束だったんだろうな……)

 物心つくかつかないか頃の約束なんて、あってないようなものだろう。

 だけど――どこかに期待があった。


『約束通りになるまで時間がかかってしまった――なんとしてでも俺はお前を妻に迎えてみせる……』


 国王陛下に呼び出された、その日。

 一縷の望みをかけて、騎士団長となったアーサーは片思い中の魔術師令嬢との約束を胸に愛馬で塔まで駆けたのだった。


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