28 / 30
後日談2② プロポーズやりなおし
しおりを挟むそうして、村から城にまた戻ると思っていたのだったが、想像とは違う場所に連れて行かれた。
その場所というのは、城が立つ崖の下にある、海岸だった。
磯の香りが鼻腔をくすぐる。潮風が、わたしの金の長い髪を巻き上げた。
普段はエメラルドグリーンに輝く海は、夕陽の光を反射し、マリーゴールドのような輝きを帯び、幻想的にゆらゆらと揺れる。
波は時化てはおらず、穏やかに引いては寄せる。遠くに一隻の船が見えるが、それ以外に人の姿は見えなかった。
「ルビー」
「アイゼン様」
波打ち際まで歩いたわたしたちは、海に沈む太陽を横目に向きなおった。
砂浜に、長い影が伸びる。
「左手を――」
彼に促され、手を差し出すと、長い指にからめとられた。
「ルビー」
そうして彼は、わたしの指の一本一本に口づけていく。
夫婦になってから、毎日彼がおこなう儀式のようなものだった。
口づけが終わった後、彼は懐に手を伸ばし何かを取り出す。
「それは……」
そうして彼が、そっと左手の薬指に何かを嵌める。
そこにあったのは――。
「ルビー、君と同じ名前の宝石だよ」
――一粒のルビーが輝く、金の指輪だった。
夕陽がルビーを反射して、きらきらと黄金色に煌めかせている。
「アイゼン様……」
砂浜の上、私の前に跪いたアイゼンは、恭しく左手に口づけながら告げる。
「初めて出会った時から、君の穏やかで優しくて、だけどしっかりしていて――そんなところに惹かれていったんだ」
夕陽と空が交じり合ったような、アイゼンの瞳。
いつになく美しい彼の想いが、胸を震わせてくる。
いつの間にか、彼の姿が涙でぼやけていた。
「改めて、私の妻として、一生そばにいてほしい。誰よりも、いや、この世で君以外の女性が見えない。実際に、愛することなどできなかった」
婚姻関係を結び、妻として迎えた偽のルヴィニ夫人に手を出すことが出来なかった、潔癖なアイゼン様。
「これからは、自身の気持ちに正直に生きていきたい。愛している、ルビー。君が真の妻、永遠に君だけを愛し続けるよ――」
彼の想いを紡ぐ声が、鼓膜を震わせる。
寄せては返す波の音が、まるでわたしたち二人を祝福しているようだった。
夕陽に照らされた二人の影が重なる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる
マチバリ
恋愛
貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。
数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。
書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
コワモテ軍人な旦那様は彼女にゾッコンなのです~新婚若奥様はいきなり大ピンチ~
二階堂まや♡電書「騎士団長との~」発売中
恋愛
政治家の令嬢イリーナは社交界の《白薔薇》と称される程の美貌を持ち、不自由無く華やかな生活を送っていた。
彼女は王立陸軍大尉ディートハルトに一目惚れするものの、国内で政治家と軍人は長年対立していた。加えて軍人は質実剛健を良しとしており、彼女の趣味嗜好とはまるで正反対であった。
そのためイリーナは華やかな生活を手放すことを決め、ディートハルトと無事に夫婦として結ばれる。
幸せな結婚生活を謳歌していたものの、ある日彼女は兄と弟から夜会に参加して欲しいと頼まれる。
そして夜会終了後、ディートハルトに華美な装いをしているところを見られてしまって……?
【完結】 初恋を終わらせたら、何故か攫われて溺愛されました
紬あおい
恋愛
姉の恋人に片思いをして10年目。
突然の婚約発表で、自分だけが知らなかった事実を突き付けられたサラーシュ。
悲しむ間もなく攫われて、溺愛されるお話。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる