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しおりを挟む島に帰郷した幼馴染――大神竜聖ことリュウちゃん。
今をときめく俳優になった彼とミサは今、なぜか――駄菓子屋の裏手にある庭で、流し素麺を食していた。
昼下がりのため、ミンミンと泣いていた蝉のやかましい声が、今はツクツクボウシの声にとって代わられつつある。
先ほどまで庭先の物干しざおに洗濯物がかかっていたが、ミサの母親が慌てて片付けていた。草木の匂いに混じって、少しだけ石鹸の香りが残っている。
「リュウちゃん、おそうめんを食べているだけなのに、様になっているわ……! 和服も似合うけれど、カジュアルな服も似合うわね!! テレビではそっちの格好の方が多かったかしら!」
ミサの母親が興奮して捲し立てる。
すっと背を伸ばし、ちゅるりと麺をすする美青年リュウセイは確かに様になっていた。
割りばしの持ち方も綺麗で上品だ。
呉服店の跡取り息子だが、今はサックスブルーのリネンシャツに黒のテーパードパンツを合わせた格好をしていた。
「おばさん、相変わらず若々しくって面白いな。それに素麺も美味いよ」
「まあ、リュウちゃんったら、小さい頃からお世辞がうまいんだから! 素麺は職人さんが作ったものだし、美味しいのは麺つゆが良いものだからよ!」
ミサの母親が頬を火照らせながら、娘の幼馴染の背をバシバシ叩く。
昔と変わらない幼馴染の態度に、ミサはほっとした。
(リュウちゃん、夏休みか何かなのかしら?)
果たして芸能人に休みがあるのか分からない。
彼女が気になっていると、リュウセイが答えを教えてくれる。
「ちょうど舞台の準備で忙しいんだが、俺の母さんが入院したらしくてな」
「え? タエコおばさんが?」
リュウセイの母親のタエコ。
さらりと流れるような黒髪に、きりりとした瞳をした美人の女性。
(子どもの頃、私に着物の着付け方を教えてくれた女性でもある)
そんな彼女が入院だなんて――ミサの心の中に不安が生じた。
帰省してから自分のことしか考えていなかったなと落ち込んでしまう。
だが、次の瞬間、そんな考えが吹き飛んでしまった。
「そう、それで『ミサちゃんも入院先に連れてきなさい』って」
「私?」
リュウセイの言葉に、ミサは目を白黒させたのだった。
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