32 / 45
本編
32
しおりを挟む素敵なクリスマスを贈ってから約二か月が経った。
あの後からも、新事実がいくつか発覚したんだよね。
実は牛口先生が怪しいと気づいていた羊谷校長先生から、旧知の仲だった大牙くんに相談した経緯があったらしい。ちょうど私と牛口先生のあれこれを犬塚さんに聞いていた大牙くんが羊谷校長に話に向かった時に利害が一致したとかで、潜入捜査兼新任教師として学校に来ることになったのだそうだ。
牛口先生の一件は受験シーズンの生徒たちに影響が出るからと内密にされた。もちろん、被害に遭った女の子たちのフォローは然るべき機関にお願いをしてある。理由不明で学校を退学してしまった子たちが牛口先生の毒牙にかかってたと思うと腹立たしい。退学は本人たちの意思だったのかもしれないけれど、私たちの学校に在籍していたわけだし、そういう子たちのアフターフォローもしっかりできればいいなと思ってる。
牛口先生と結婚予定だった女性とお子さんが心配だったんだけど、そういう手口で別れを切り出すようにしてたみたいで、そんな人たちは実在しないそう。
女子高校生たちに対して闇で色々やっていたことに関しては、司法でしっかり裁いてもらうことになった。
嘘つきだったり人を騙す人と一緒にいると自分まで嘘つき扱いされちゃうというか……嘘と現実の区別がつかなくなっていくから、本当にもうああいった類の男の人とは関わりたくないなって思った。
そうして平和を取り戻した後、私は大牙くんと教師生活を送っていた。
卒業式の準備も進んできた頃のこと。
高校の卒業式はちょっとだけ桜が咲くにはまだ早い季節にある。
夕暮れ時、生徒が帰った教室の窓から外を覗くと、雪がまだチラついている。
そういわれると、高校三年生の頃に大牙くんにフラれた場所と時期もこのぐらいの頃だったっけ?
あの時は理由も分からなくて悲しかったけれど、今はちゃんと説明もしてもらえたし、大人になって迎えに戻ってきてくれたし、だんだんと当時の傷は癒えてきているように思う。
また付き合いだしてからは私が不安にならないように、めいいっぱい愛情表現をしてくれる大牙くん。わんこみたいだなって思うんだけど、それは昼間だけ。
問題は夜……! クリスマス・イブに結ばれた時はすごく優しいなと思ってたし、今も優しいは優しいんだけど、あの時は初めてだったからかなり手加減されていたんだって、数日後に気付いてしまった。毎晩激しすぎてワンコやニャンコを通りこして、もはや獣……!
って、学校でそんな卑猥なことを思い出しちゃいけない。とはいえ、仕事に影響が出ないように躾ないといけない……!?
そんなことを思いながら過ごしていたら、ガラリと教室の扉が開いたものだから、びくりと体が跳ね上がった。
「まゆ――じゃなくて、兎羽先生!」
「……龍ヶ崎先生!」
扉の向こうから現れたのは大牙くんだった。
公私混同はしたくないっていうのを伝えたら、律儀に約束を守ってくれていて、ちゃんと名字で呼ぶし、見つけた途端に抱き着いたりはしてこない。
とはいえ嬉しそうにはしてきてたんだけど……
あれ?
なんだか今日はしんみりした表情をしてないかな?
「あのさ、もう終業時間でしょう? 話があるんだ」
「え?」
フラれた日のことを思い出して、なんだか胸がドクンドクンって嫌な音を立ててきた。
あの日もこんな夕暮れ時だったなって。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
328
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる