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第3章 新婚旅行

第21話 明るき星空の下で(前編)1※

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 宰相シュタールに、「視察がてらの新婚旅行」に向かうように言われたフィオーレとデュランダル。
 とはいえ、姫と将軍という身分は隠してのお忍びだ。

 二人は、デュランダルの愛馬であるローランにまたがり、緑の生い茂る草原を、風とともに駆け抜けていた。
 馬の脚が土のぬかるみを走る際に、むせ返るような草の匂いがフィオーレの鼻腔をくすぐる。
 時間はもう夕暮れであり、沈みかけた太陽がゆらゆらと揺らめいていた。

(連絡が返ってこないという村……大丈夫かしら?)

 通信が途絶えたという村に、二人は向かっている。

 村は、フィオーレの国オルビス・クラシオン王国と、デュランダルの国エスト・グランテ王国の国境北部に位置する場所であるらしい。
 王都から見て、北西にある街であり、二人が最初に出会った緩衝地帯よりも、さらに北に位置する場所である。
 そんな、馬でも数日かかる場所へと、白馬ローランの背に乗った二人は向かっていたのだった。

 乗馬の出来ないフィオーレは、馬を操るデュランダルに抱きかかられるような格好でローランの上に乗っていた。

(まさか、密命を受けた当日に旅に出るなんて思わなかった――)

 しかも、シュタール曰く「ちょうど都合が良かったから」と言って、将軍であるはずのデュランダル自らが向かうことになった。
 だが、デュランダル曰く、本当にそれだけの理由ではないらしく、「俺が向かわないとどうにもならないと判断したんだろう」と話していた。

 ちなみに、「問題が解決したら、綺麗な泉の観光名所で数日間なら遊んできて良いよ。今は平和だし、騎士達には適当に指示を伝えておくから」とシュタールに言われている。

(本当は宰相なのに、まるでエスト・グランテの国王陛下のような方ね、シュタール様は――)

 考え事をしながらフィオーレは、ふわふわとした亜麻色の長い髪を両手でぎゅっと握った。
 その時、彼女の頭上から艶めいた声が聴こえる。

「フィオ、危ないから馬の上で手を離すな」

「ごめんなさい、デュランダル様――」

 彼女の夫であるデュランダルが、心配そうに彼女に声をかける。
 フィオーレがなぶるような風を頬に浴びる。両手を離して、手綱を握るデュランダルの前腕に手を添わせると、彼女の亜麻色の髪が風にたなびいた。

 その時――。

 彼女の頭に、ちゅっと彼が口づける。


「まあ、お前が手を離しても、俺はお前を絶対に離さないがな――」


 それを聞いたフィオーレは、頬が熱くなる。

(優しいデュランダル様になかなか慣れないわ……)

 フィオーレが馬の上でドキドキしていると、デュランダルが今度は彼女の耳朶を甘く噛んだ。そうして、彼女の耳介に沿って舌を這わせる。フィオーレの身体がぴくんと跳ねる。

「ひゃっ……」

「ああ、早く街について、お前の中に入りてぇ――」

 そうして彼女の外耳孔へ彼の舌が出入りを繰り返す。

「あっ、んっ、ん――」

 デュランダルの色香のある声と舌遣いに弱いフィオーレの身体を、ぞくぞくと甘い痺れが走っていく。
 デュランダルは前方を見据えたまま、彼女の耳に愛撫を続けていたのだが――。

「街が見えてきたが――そう言えば、ここらは盗賊たちの根城があるとかいう話があったな……ちっ、邪魔しやがって……」

 夫の口から不穏な話を耳にしたフィオーレは前方を見やる。黄昏に揺れる街の影以外に、馬が数騎迫ってきているのが見えた。
 
(あれは――まさか、盗賊?)


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