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第8章 将軍夫婦の結末
第69話 革命の夜明け4
しおりを挟む遡って、夕刻頃――。
酒場の地下にて――。
突き立てたレイピアに身体を預け、何度も肩で呼吸を繰り返すシュタールが、息も絶え絶えに口を開いた。
「……デュランに勝てないのなんて……そんなことは分かってる……だけど、ここで退くわけにはいかない……苦しむ国の民のために……何よりも、愛する女のために……あの女が、表立って幸せに暮らせる国を作るために……」
「シュタール……」
デュランダルは、従兄弟であり親友であるシュタールの覚悟のほどを問いかけた。
結果、親友の覚悟と思いが、どれほどまで強いものなのか、デュランダルはまざまざと知らされた。
一応シュタールは宰相ではあるが、国の中では有数の剣の腕前の持ち主として知られている。
とはいえ、明らかに剣の腕はデュランダルが強い。
だが、何度打ち負かされても、シュタールはデュランダルに挑み続けた。
「お前が、兄貴と王太后から、国を取り戻したいのは良く分かった」
デュランダルが、話を切り出した。
「聖女だと言われて祭り上げられている、奴隷の少女……あの少女が、兄貴の愛妾になるのが今日なのか……?」
呼吸の整わないシュタールが返す。
「本当……デュランダルは、直接話でも聞いてきたのかってぐらい、なんでもよく分かってるね……そうだよ、今日の真夜中に、あの娘は――ラピスは成人を迎える。早々と、彼女を王の手籠めにして、王太后は、真の王が聖女を手に入れたから国は安泰だと言いふらしたいらしい」
悲し気に話すシュタールのことを、デュランダルは少しだけ憐れんだ。
「……ラピスがデュランの妹だって知っていて……しかも、金の瞳を持っているから利用価値がある……血がざわついたから、彼女が俺の番だってことも分かってた……だけど、動物じゃあるいまいし、理性で制御ができる……最初はその程度の気持ちだったんだ……だけど――」
デュランダルとは違った意味で、幼少期からシュタールも孤独な存在だった。
友であるというだけでは分からない一面が、シュタールにもあるはずだ。
何があったのかデュランダルには知る由もないが、シュタールが平素の冷静さを欠くほどに、少女のことを愛してしまったのだろう。
この国の将軍デュランダルは、ゆっくりと口を開いた。
「分かった、シュタール。手を貸してやる」
「デュラン――!」
シュタールの表情が瞬く間に明るくなっていく。
「ただし――俺は絶対に『真の王』にはならない」
デュランダルの話を聞いたシュタールは、首を横に振った。
「言っただろう、デュラン……『真の王』とは、なりたくてなれるものではないし、なりたくないからならない、という立場の者ではないんだ……君が『真の王』である事実を覆すことは出来ない……現に、伝承通り、竜の姿になれるのだから……」
「なら、俺が伝承通りの『真の王』で良い――だが、新生エスト・グランテの国王は――シュタール、お前がやれ――」
友の言葉に、シュタールは驚き、紫色の双眸を見開いた。
「な……! だめだ、デュラン! 俺じゃあ、竜にはなれない……」
呆れた様子でデュランダルが返事をする。
「俺は兄貴の治世のままで良いんだよ――王太后の息のかかった兄貴が国王のままじゃ、国民が納得しないようなことを言い出したのはお前だろうが……だったら、お前が国王になればいい……」
「だけど……!」
「言い出したことには、ちゃんと自分で責任をとれ、覚悟を決めろ――竜になる必要なんてない、お得意の情報操作なりなんなりして、自分の王位の正当性を主張しちまえ……」
親友デュランダルの提案に、しばらくの間返答できなかったシュタールだったが――。
「相変わらず厳しいな、デュランは……」
――ゆっくりと頷いたのだった。
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