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後日談
後日談2 竜から戻れなくなった夫(後編)①
しおりを挟むエスト・グランテの霊峰の麓付近――。
洞窟を抜け、木々の間を抜けて、夫婦は屋敷へと向かっていた。
竜の姿から人間の姿に戻ったデュランダルに、横抱きにされたままのフィオーレだったが――。
彼女はちらりと、裸の夫を見る。
(竜になるとき、服は破れちゃうのね……竜になったりするから、山に隠れて暮らしていくのは合理的なのかも……)
「ああ……皆まで言うんじゃねぇ……何言ってもカッコがつかねぇから……」
恥ずかしがるデュランダルを見て、フィオーレはふふふと笑った。
そんなやりとりをしているうちに、屋敷に到着する。
木で出来た建物の中に入ると、想像以上に中は殺風景だった。
「兄貴を隣の華竜国に送ってから、こっちに戻ったんだが――この屋敷を建ててから、俺しかいなかったから、最低限のものしか置いてねぇんだよ――」
ふと、ハーブの良い香りがフィオーレの鼻をついた。
ちらりと台所が視界に入る。見ると、高いところに、塩漬けにしたと思われるくず肉を腸詰にしたものがぶら下がっていた。
(あの塩漬け肉も、デュランダル様が作ったに違いない……戦地に行くときなんかは便利そうだし……)
夫の計り知れない生存能力に、妻は感心したのだった。
「どうした、フィオ……?」
「いえ……その、デュランダル様なら、騎士をしなくても生きていけそうだな、なんて思っちゃいました」
「まあ、お前と一緒に楽に暮らすのも悪くはねぇが……出来ることから逃げるなって周りに言った以上、俺もしっかり頑張らねぇとな――まあ、俺がデュランダルだって気づいているやつにはだが――」
フィオーレは疑問に思っていることを、彼に問いかける。
「デュランダル様は、ふつうの騎士として城に出仕してるんですよね?」
「ああ、そうだな」
「皆さんに顔がバレてるんじゃ……?」
「石膏で作った面をかぶってるから、バレちゃいねぇと思う……」
フィオーレは首を傾げたまま固まった。
(ん……? 面をつけて騎士をしているの……? なんだか、すごく怪しい……剣筋とかでもばれそうだし……)
だけど自信満々な夫に水を差すのもなんだと思ったフィオーレは口をつぐんだ。
(きっと、古くからいる騎士の皆も、デュランダル様に合わせてくれてるんだわ……良かった、逆賊として嫌われたりはしてなさそう……やっぱり、デュランダル様ったら、戦術なんかはしっかりされてるのに、どこか抜けてらっしゃるわ……)
国が二分しないためにも、対外的にはデュランダルが死んだことにしないといけなかった。
彼を慕う騎士達も分かった上で接しているのだと思うと、フィオーレは面白くなる。
そんな彼女を見て、デュランダルは不思議そうだった。
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