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この国の王太子であるハリオルドは、幼少期にあったキアナに一目惚れした。
その後、彼女の自由を愛する心に憧れを持ち、より惹かれていった。
しかし、すでにリハルトと婚約していた彼女を王家の権力で横取りするわけには行かなかった。
だったら、婚約破棄させればいい。
幸いキアナはこの婚約に前向きではない。


この国の王太子は成人である18歳に婚約者を公に発表するしきたりで、それまでは婚約者候補として何人かの令嬢が選ばれている。
これは、幼い頃から決められた婚約者を有力貴族が自分の娘を王太子妃にするため暗殺が行われる可能性を消すためであった。
実際は一人に内定されているのだが、内定している令嬢以外の令嬢たちにも知らされず、発表のときにわかる手筈となっている。
選ばれなかった令嬢にはより良い嫁ぎ先を王家から選出するため候補になるだけでも素晴らしい名誉となっていた。

そんな理由ワケで、婚約解消ではまた別の誰かに横取りされるかもしれない。
それに比べて破棄ならば彼女の性格から誰とも婚約せず修道院にでも行くだろう。
その隙を自分が埋めればいい。
そう考えたハリオルドは今回の計画を持ち込んだのだ。


そして候爵に婚約破棄をしたら、キアナを自分の婚約者にとしていた。

候爵は娘を思い、もしリハルトから婚約破棄を告げられたら、キアナに口説く権利を与え、キアナが納得し、ハリオルドに好意を持てば婚約を承諾すると約束した。


そうして、ハリオルドはキアナとリハルトの婚約を破棄させるために動いたのであった。




「あぁ、やっと堂々と君を口説くことができるんだ。覚悟しててね、キアナ。」



ハリオルドが黒い笑みを浮かべてそう呟いた。







一方、キアナはというと、自室で優雅にお茶を楽しんでいた。


「今頃お父様は喜んでいるかしら。」


「どうでしょう。王太子殿下もいらっしゃったのでそうもいかないかと。」


「あら、それはどうして?」


「婚約破棄よりも大変なことが待ち受けているからです。」


「大変なこと?…それよりもこれからは自由ね。お父様に頼んで少しだけ別荘に行って休日を楽しもうかしら。それから旅に出るのも遅くないと思うの。」


キアナは、いくら相手の不義からでも婚約破棄すれば社交界でも笑いものになり、嫁ぎ先がなくなることを感じていた。
だから、旅に出ようと思っていたのだ。
これは父からも


「行けるのであれば行きなさい。行けるのであれば…。」


というよくわからないが了承を得たのでそのことに夢中であった。

その言葉にメラは、

「そうなることを願っております。」


「メラ、さっきからどうしたのよ?よくわからないわ。」


「私はお嬢様の幸せをずっと願っております。そしてどこまでもお嬢様についてまいります。」


「ええ、これからは自由の身になって世界中を旅したいわ!」


そう言いながらこれからのことについてゆっくり考えようと思っていたのである。
魔の手はすぐそこまで迫っているとは露知らず。
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