2 / 6
2
しおりを挟むー王宮にてー
「…ついにこのときが来たか…。」
キアナの父であるリモーツ候爵はキアナの侍女からの通知にため息をつく。
するとそばにいた青年が声をかける。
「ため息なんてついてどうしたんですか?」
「…誰のせいだと思っているんですか。」
「おや、キアナ嬢が婚約破棄されたのは私にあると?彼が独断で決めたことでしょう。」
「…いえ、そうですね。」
はぁ………。
リモーツ候爵は頭を抱える。
キアナがリハルトと婚約破棄したいというのはずっと知っていた。
はじめて会ったときのキアナとリハルトを見て、お互い好きあっているのだとおもった。
その勘違いで婚約を決めたのは悪かったと思っている。
だから、早々に婚約を解消する手筈だったのだ。
そして、次の婚約者探しをしようと考えていたのだ。
それでもリハルトと婚約していたのには明確な理由がある。
「彼が平民の女子生徒に惚れこんでキアナ嬢に婚約破棄を告げたそうではないですか。ライバーン候爵の承諾も得ずに。慰謝料がたくさん貰えて良かったですね。」
「……どの口がそんなことを。」
「なにか?」
「…いえ。」
「ライバーン候爵令息の目はやはり曇っていたのですね。キアナ嬢と婚約破棄するなど社交界から消えたいのでしょうか。」
「それに関しては同意しますが、彼は何も考えてないでしょうね。」
たった今娘の専属侍女から来た知らせをなぜ目の前のこの男が事細かに知っているか。
全てはこの男が仕組んだからであるほかない。
彼はリハルトに自分に迫ってきた平民の女子生徒を紹介し、まんまと惚れさせ、娘との婚約破棄まで持ち込んだ。
自分と彼女の邪魔になる存在を一気に消したのだ。
自分は気づいてないが、キアナは美しい顔と誰にでも手を差し伸べる、淑女に相応しい振る舞いで社交界の妖精と呼ばれ、とても人気があった。
そんな彼女を自身の浮気で婚約破棄するなど社交界から抹殺されるだろう。
それがこの男による策略だと気づかずにいることに、候爵はリハルトにもほんの少しだけ同情した。
それ以上に娘に傷をつけたという怒りはあったが。
「では、私に彼女を口説く権利を与えてくれますね?未来のお父上。」
「…そういう契約ですからね。あとまだ違いますのでそれはやめてください。」
「絶対に彼女を私の妻にしますので難しいかと。」
「…ですがお約束どおり娘が貴方を拒絶したら潔く引いてくださいね。」
「わかっております。まあそんなことはできないと思いますが。その前に彼女に惚れてもらうまでです。」
「娘には誠実にお願いします…ハリオルド殿下。」
「もちろん。彼女に嘘はつきません。家名と剣に誓ってね。」
そう笑顔で言うこの国の王太子に、娘もとんでもない方に目をつけられたものだと候爵は思う。
20
あなたにおすすめの小説
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
旦那様の愛が重い
おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。
毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。
他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。
甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。
本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
これは王命です〜最期の願いなのです……抱いてください〜
涙乃(るの)
恋愛
これは王命です……抱いてください
「アベル様……これは王命です。触れるのも嫌かもしれませんが、最後の願いなのです……私を、抱いてください」
呪いの力を宿した瞳を持って生まれたサラは、王家管轄の施設で閉じ込められるように暮らしていた。
その瞳を見たものは、命を落とす。サラの乳母も母も、命を落としていた。
希望のもてない人生を送っていたサラに、唯一普通に接してくれる騎士アベル。
アベルに恋したサラは、死ぬ前の最期の願いとして、アベルと一夜を共にしたいと陛下に願いでる。
自分勝手な願いに罪悪感を抱くサラ。
そんなサラのことを複雑な心境で見つめるアベル。
アベルはサラの願いを聞き届けるが、サラには死刑宣告が……
切ない→ハッピーエンドです
※大人版はムーンライトノベルズ様にも投稿しています
後日談追加しました
【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!
ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」
それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。
挙げ句の果てに、
「用が済んだなら早く帰れっ!」
と追い返されてしまいました。
そして夜、屋敷に戻って来た夫は───
✻ゆるふわ設定です。
気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる