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しおりを挟む「はは、社交界の女神がそんな顔をしたら台無しだよ。」
「っ。大変申し訳ございません。驚いてしまったもので…」
「構わないよ。予想外のことを言っているのはわかっている。」
いや、わかっているならなんで言ったんだ。
「王太子殿下、私は一度婚約破棄された傷物です。貴方様との婚約は角が立ちます。それに私には相応しくありません。」
「私の婚約者になれば、視察と題して市井にも行けるし、世界中を回れるよ。しかもより良い環境下で。」
確かにそうだ。
今の私が世界に行くには身分を隠して平民としていかなくてはいけない。
表向きは休養後修道院に行くという予定だからだ。
でも、この人と婚約すれば堂々と世界をまわれるし、学びの一環として処理され、それを咎められることもない。
私にとっては美味しい話だ。
でも殿下は?
なんのメリットがあってこんな話を持ち込むのだろう。
「それでは私に利がありすぎます。」
「そうでもないよ。君を手に入れられるから。」
「私などよりも他の令嬢のほうがよろしいかと。」
殿下は少し思案してから父に尋ねる。
「…候爵、少しだけキアナ嬢と2人で話しても?」
「…侍女は残させていただきます。」
「ありがとう。」
「あの、おとうさ…」
私が反論する前に父は部屋から出ていってしまった。
判断は私に委ねるということだ。
「キアナ嬢、私と婚約するのは嫌?」
「いいえ、滅相もございません。ただ、私はなんの柵もなく自由に世界を見たいのです。」
「できるだけ自由にできるように配慮しよう。最低限の公務はしてもらわないといけないけど、それ以外は君の好きに過ごすといい。心配だから護衛はつけさせてもらうけど。」
「…なぜそんなにも譲歩していただけるのでしょう?」
「単刀直入に言うよ。キアナ嬢、私は君に惚れている。」
「はぃ?」
「幼い頃から好きだったんだが、ライバーン候爵子息がいたから気持ちは伝えなかった。今回、婚約破棄されたと聞いて狂喜したよ。ゆっくりでいい、私を知ってから答えをくれないか?」
「っっ!!!!」
そんなこと突然言われても驚くだけだ。
殿下の気持ちになんてこれっぽっちも気づいていなかった。
王家からの婚約を断ることなど一介の貴族にできるはずもない。
それでも私の気持ちを優先してくれるのはとてもありがたいことなのではないだろうか。
「あ、あの…わたしは」
「良ければキアナ嬢が休養してる間だけでもいいんだ。私に君を口説く権利を与えてくれないか?それでも好きになれなさそうなら潔く諦めるよ。」
「そ、そんな…」
容姿端麗で文武両道のこの人は引く手数多であろうにこんなにも私を見てくれている。
「……休養している間だけであれば。」
「!ありがとう。振り向いてもらえるよう頑張るよ。」
「お気持ちに答えられなかったらごめんなさい…。」
「いいんだ。それは私の努力が足りなかったということだからね。これからよろしく。」
「は、はい…。」
こうしてハリオルドからの猛アプローチが始まるのであった。
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