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貶めるのは誰のため

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意識のない彼女を腕に抱き、完成した絵を検分する。

「いいね、素晴らしい」

描き上げられた絵に満足の笑みを浮かべる。
画家を労うと次回作への意欲を語りだしたので、とりあえず身を清めて休めと命令する。
一昼夜描き続けていたというのに、食欲や睡眠欲よりも描くことへの情熱が上回るとは、画家という生き物は面白い。
画家は一瞬だけ残念な顔をしたが、腕の中で意識を飛ばしている彼女を休ませないといけないのに気づき、頭を下げて部屋を出て行く。
今回は時間がかかったので、ずっと貫かれていた彼女も最後は意識を失ってしまった。
画家はそれに興が乗ったのか、意識の無い彼女を揺さぶり始めてからは筆のスピードが上がった。
備え付けた風呂場で彼女の身を清め別室のベッドへ横たえる。
淡い金の髪が絡まないようにそっと撫でるとわずかに彼女の表情が緩んだ。
あどけない寝顔に笑みが浮かぶのを感じ、口元を引き結ぶ。
気を緩めてる場合じゃない。
あの騒動の後、保護したときよりも細くなった腕。
部屋から出ないためか元々白い肌は青白く、儚く張り詰めた雰囲気を漂わせる。
そこからは出会った頃の溌溂とした姿を見出すことはできなかった。
会うことができなくなってから彼女がどんな思いで生きてきたかも知らない。
今、何を望んでいるのかも。
目を閉じ思考を切り替える。
成すと決めたことのため、着実に事を進めなければならない。
痩せた身体へ布団を掛け立ち上がった。



◇◇◇



描き上げられた絵のタイトルは『貶められた貴婦人』
明るい日の差す部屋で肌を晒した貴婦人が後ろから貫かれる姿。
騎士のような逞しい男に後ろから責め立てられ泣き叫ぶ貴婦人の前にはもう一人男が立っており、貴婦人のほっそりした手を掴み強引に自身の中心に触れさせている。
二人に嬲られる貴婦人の姿は多くの好事家の目を楽しませることだろう。
床には切り裂かれたドレスと、それを縫い付けるような剣が突き立っている。
剣で脅され、ドレスを切り裂かれ乱暴されているようにしか見えない構図。
まるであの日義妹を庇い『彼女』へ剣を向けた騎士による暴挙のようだ。
まともな騎士の矜持を傷つける絵だが、彼らはそうは取るまい。
悪女に罰を与える自分たちのようだと悦に入る顔が目に浮かび、煮えくり返る怒りを拳を握って逃がす。
絵を傷つけるわけにはいかない。復讐のために必要な道具だ。
彼女が目を覚ましたら食べさせる胃に優しい食事の手配を済ませ、次の手を脳裏に浮かべる。
計画は半ばまで進んでいる。次の段階へ入った計画に気を引き締める。
全てが終わるまで彼女を守り事を進めなければならない。
彼女を守ることが一番難しいと思いながら足を進める。
何よりも愛しく守りたい人を傷つけ貶めながら進むことに忸怩じくじたる思いを抱きながら。
それでも足を止めることはなかった。


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