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4話
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薄らと目を開けると既視感のある光景だった。ここはどこだっけ。確か一度見た気がするんだけど。ぼうっとする脳内が覚醒したのは、自分ではない誰かの声が聞こえた時だった。
「子孫クン、自分の色香に発情してるね」
「えっ? ………あっ! あなたは俺の先祖! 助けてください、俺学校で人を襲っちゃって!」
「うん、だからあなたは発情しちゃったの。自分の意思なんて関係なく、他人を襲っちゃったの」
目の前にいたのは、いつか夢で会った俺のご先祖様だった。彼女は腰に手を当てて、俺を見下ろしている。悪魔みたいな尻尾がびしっと俺を指した。その尻尾、そんな風に動くんだ。
「友だちを襲ったとき、自分でどうすることもできなかったでしょう。それはね、発情してたからなの。でもおかしいわ。普通なら相手に襲わせるためのものなのに、自分が発情しちゃうなんて……半サキュバスだから?」
「聞かれても知りませんよよ……あー、最悪だ。高校生活終わった……」
俺は体育座りをして、項垂れた。彼女は不思議そうに俺を見ている。サキュバスだと人間の感覚とは違うのだろうか。俺は自分の状況を説明した。
「俺、同級生のこと襲ったんですよ? すごい恥ずかしいことも言ったし、言われたし……絶対バラされる。それで、へ、変態っていじめられるんだ……」
明日の朝、教室に入ってまずはクラスの皆から冷たい目で見られるんだ。変なあだ名をつけられて、陰口も言われて、暴力も振るわられて……ご先祖様は俺の説明を興味なさそうに聞いていた。
「現代は大変そうね」
「他人事でいいですね、あなたは!」
俺は今日のことを思い出した。上松くんはイライラして、すごく怒ってた。そりゃそうだ。親切心で体調が悪そうな人間に話しかけたら、あんなことになったんだ。きっと、上松くんは優しい人なんだろう。もしかしたら友だちになれたかもしれない。でも……
「……俺は同級生を襲った変態として、これからを生きていくんだ………」
「子孫クンの方から言い出せば良いんじゃないの?」
それまで比較的静かに話を聞いていたご先祖様が、不意にそう話した。見上げると、彼女はいかにも悪そうな顔をしている。
「子孫クンの方から、『友だちに襲われました』って言いだすの。後だしでその友だちの方が、『変な香りを嗅がされて、俺の方が襲われました』なんて言っても、サキュバスのこと知らない人間からすれば、信じられない話でしょう? ほら、実際挿れられてるのは子孫クンだし。みんな、子孫クンの話を信じてくれるよ♡」
「さ、最低だ……!」
俺は信じられない気持ちで彼女を見た。彼女はニコニコと笑っていた。人でなしすぎる。いや、人ではないのだが。
「上松くんを襲ったのは俺の方なのに、嘘ついて彼に罪を擦り付けるなんてダメです」
「でも、このまま何もしなかったら子孫クンが虐められるんでしょ?」
「それは……」
俺は言葉に詰まった。そうだ、このままじゃ平穏な高校生活なんて夢のまた夢。俺は悲惨な高校生活を送ることになるだろう。
「……それでも、それでもダメです」
俺はぐっと手を握った。正直、俺だってあんなことしたくてしたわけじゃない。でも起きた原因は、サキュバスである俺にあって。どういう形にしろ、上松くんが俺に仕返しをしたいと思ったのなら、俺はそれを受けるべきであると思った。
「ふーん……ま、私は子孫クンが虐められるとは思わないけど」
ご先祖様がしゃがんで俺と視線を合わせると、「いい? 子孫クン」と俺の鼻をツンと突っついた。
「子孫クンが襲ったにしても、そのウエマツクン? が襲ったにしても、2人がセックスしたってことは変わらないじゃない。周りの人間なんてどっちが襲ったかなんてどうでもいいの。あいつらセックスしたんだって、2人を同じ目で見るの。そう考えると、このことを言い出すこと自体が子孫クンにとっても、ウエマツクンにとってもリスクになるわ。そもそも、ウエマツクンはサキュバスのこと知らないでしょ? 自分が襲ったって思ってる可能性もあるんじゃない?」
「た、確かに……」
言われてみればそうだと思った。態々今回のことを言いふらすには、上松くんにメリットがそこまでない。あと、今回のことが起きた原因も、上松くんははっきりと理解していないだろう。それを利用して何とか誤魔化せれば、もしかしたら俺の高校生活はまだ守られるのではないか。そのとき、俺はふとあることに気づいた。
「もしかして、俺のこと慰めてくれましたか?」
ご先祖様はきょとんとした後、事実を言っただけよと笑った。
「子孫クン、自分の色香に発情してるね」
「えっ? ………あっ! あなたは俺の先祖! 助けてください、俺学校で人を襲っちゃって!」
「うん、だからあなたは発情しちゃったの。自分の意思なんて関係なく、他人を襲っちゃったの」
目の前にいたのは、いつか夢で会った俺のご先祖様だった。彼女は腰に手を当てて、俺を見下ろしている。悪魔みたいな尻尾がびしっと俺を指した。その尻尾、そんな風に動くんだ。
「友だちを襲ったとき、自分でどうすることもできなかったでしょう。それはね、発情してたからなの。でもおかしいわ。普通なら相手に襲わせるためのものなのに、自分が発情しちゃうなんて……半サキュバスだから?」
「聞かれても知りませんよよ……あー、最悪だ。高校生活終わった……」
俺は体育座りをして、項垂れた。彼女は不思議そうに俺を見ている。サキュバスだと人間の感覚とは違うのだろうか。俺は自分の状況を説明した。
「俺、同級生のこと襲ったんですよ? すごい恥ずかしいことも言ったし、言われたし……絶対バラされる。それで、へ、変態っていじめられるんだ……」
明日の朝、教室に入ってまずはクラスの皆から冷たい目で見られるんだ。変なあだ名をつけられて、陰口も言われて、暴力も振るわられて……ご先祖様は俺の説明を興味なさそうに聞いていた。
「現代は大変そうね」
「他人事でいいですね、あなたは!」
俺は今日のことを思い出した。上松くんはイライラして、すごく怒ってた。そりゃそうだ。親切心で体調が悪そうな人間に話しかけたら、あんなことになったんだ。きっと、上松くんは優しい人なんだろう。もしかしたら友だちになれたかもしれない。でも……
「……俺は同級生を襲った変態として、これからを生きていくんだ………」
「子孫クンの方から言い出せば良いんじゃないの?」
それまで比較的静かに話を聞いていたご先祖様が、不意にそう話した。見上げると、彼女はいかにも悪そうな顔をしている。
「子孫クンの方から、『友だちに襲われました』って言いだすの。後だしでその友だちの方が、『変な香りを嗅がされて、俺の方が襲われました』なんて言っても、サキュバスのこと知らない人間からすれば、信じられない話でしょう? ほら、実際挿れられてるのは子孫クンだし。みんな、子孫クンの話を信じてくれるよ♡」
「さ、最低だ……!」
俺は信じられない気持ちで彼女を見た。彼女はニコニコと笑っていた。人でなしすぎる。いや、人ではないのだが。
「上松くんを襲ったのは俺の方なのに、嘘ついて彼に罪を擦り付けるなんてダメです」
「でも、このまま何もしなかったら子孫クンが虐められるんでしょ?」
「それは……」
俺は言葉に詰まった。そうだ、このままじゃ平穏な高校生活なんて夢のまた夢。俺は悲惨な高校生活を送ることになるだろう。
「……それでも、それでもダメです」
俺はぐっと手を握った。正直、俺だってあんなことしたくてしたわけじゃない。でも起きた原因は、サキュバスである俺にあって。どういう形にしろ、上松くんが俺に仕返しをしたいと思ったのなら、俺はそれを受けるべきであると思った。
「ふーん……ま、私は子孫クンが虐められるとは思わないけど」
ご先祖様がしゃがんで俺と視線を合わせると、「いい? 子孫クン」と俺の鼻をツンと突っついた。
「子孫クンが襲ったにしても、そのウエマツクン? が襲ったにしても、2人がセックスしたってことは変わらないじゃない。周りの人間なんてどっちが襲ったかなんてどうでもいいの。あいつらセックスしたんだって、2人を同じ目で見るの。そう考えると、このことを言い出すこと自体が子孫クンにとっても、ウエマツクンにとってもリスクになるわ。そもそも、ウエマツクンはサキュバスのこと知らないでしょ? 自分が襲ったって思ってる可能性もあるんじゃない?」
「た、確かに……」
言われてみればそうだと思った。態々今回のことを言いふらすには、上松くんにメリットがそこまでない。あと、今回のことが起きた原因も、上松くんははっきりと理解していないだろう。それを利用して何とか誤魔化せれば、もしかしたら俺の高校生活はまだ守られるのではないか。そのとき、俺はふとあることに気づいた。
「もしかして、俺のこと慰めてくれましたか?」
ご先祖様はきょとんとした後、事実を言っただけよと笑った。
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