突然サキュバス♂になった俺は周りの男を誘惑してセックスするしか生きる道がない

だいず

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番外編 1

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 上松光牙は、いたって普通の男子生徒だ。いや、飛びぬけた運動センスを持ち、高校に入りすぐに女子からモテ始める彼を、普通と言い切るのは少し違うかもしれない。言い換えよう。上松光牙は、年頃の男子として、いたって普通の感覚を持った人間だった。
 
「光牙くんって、どんな女子が好みなの?」
 
 名前も良く知らない女子からそう聞かれた。髪は濡れたように艶があって、爪も何かケアをしているのか、ピカピカとしている。顔も可愛いし、胸もでかい。光牙は、こいつ誰だっけと考えて、結局思い出せないまま「普通のやつ」と答えた。
 
「えー、普通って困るよ。身長とか髪の長さとか、どれくらいの子が好きとかないの?」
 
 光牙は中学のころ、付き合っていた女子がいた。向こうから告白してきて、顔が可愛かったから付き合った。その女子は確か髪が長かった気がする。同じく中学のころに友人だった奴らと「どんな女子が好みか」と話したとき、自分は「顔が可愛くて胸がでかいやつ」と答え、それは全男子がそうだと返され、それなら「髪が長いやつ」と再び答えた。そう記憶している。
 
「髪は、短い方が良いかも」
 
 けれども今は。髪は短い方が良い。後ろから見たときに、真っ赤になっている首や耳が見えるくらいの短さが良い。光牙は、オイルも何も使われていない、シャンプーのにおいがするだけの短く黒い髪を頭に思い浮かべた。胸も別にでかくなくたって良いと思った。なんなら小さい方が好みだ。中学の奴らは肉付きがある方がエロいと言っていたが、本当にそうだろうか。むしろ肉付きがなく、薄い体を持つやつが、その白い肌を真っ赤にさせて善がり狂う姿の方が……そこまで考えて、光牙はがたっと音をさせて立ち上がった。
 
「えっ、なに」
 
「……顔洗ってくる」
 
 そう言うと光牙は教室を出た。良くない、非常に良くない。自分は今、悪い方向に頭を働かせている。光牙は、今自分の頭を占める人間を忘れ去ろうと、そう自分に言い聞かせた。もう女子が何を話していたかなんて覚えていなかった。
 
「わっ!」
 
「!?」
 
 教室を出て廊下を曲がろうとしたとき、光牙は正面から来ていた人物とぶつかった。光牙は、その相手の顔を見た瞬間に体が固まる。今、一番会いたくない相手だった。
 
「大丈夫、瑞月? ねぇ、上松。ぶつかっといて謝らないの?」
 
「大丈夫だよ、唯くん。俺もよそ見してたし」
 
 ちょっと当たっただけでよろめく、薄くて貧相な体。友人をなだめる気の弱そうな態度。髪型も顔も、どこを取っても平凡そのものだ。こんな、地味で真面目くさった奴なのに、あんな、あんなことを___
 
「チっ!」
 
「は? ちょっと、上松!」
 
「だ、大丈夫だって唯くん!」
 
 光牙は呼び止める声を無視して、その場所を去った。足取の荒い光牙に、廊下にいた生徒が驚くが、そんなこと彼には関係ない。勢いそのままに手洗い場に行くと、彼はバシャッと顔に水をかけた。
 
「………くそ」
 
 光牙は洗い場に手を突き、そう吐き捨てるようにつぶやいた。水の粒が鼻筋をつたって、下に落ちる。鈍い銀色の手洗い場には、情けない自分の顔が映っていた。あの日のことを、自分はもう何度思い出しただろう。
 
『へんたいさんなんだね♡』
 
『うえまつくんっ♡ もっと、もっとしてっ♡』
 
「あー!!」
 
 光牙は、よく分からない叫び声をあげた。このままじゃやばい。あの男のせいで自分が可笑しくなってしまう。
 昨日、部屋で自分を慰めていた時、何度も瑞月のことを思い出してしまって、そのたびに無理やり女体を思い浮かべた。違う、俺はホモじゃない、あいつのことなんて何とも思っていない。光牙は自分にそう言い聞かせた。けれども、舌足らずに自分の名前を呼ぶ声や、個室でのあの行為がどうしてもフラッシュバックしてしまう。光牙は自分の本能と戦った。そしてその戦い結果。光牙が限界を迎える瞬間に思い浮かんだのは、髪が短く、胸もない平凡な男と、その男が自分の手で絶頂を迎える姿だった。
 
 光牙は、しっかりと瑞月に性癖を壊されていた。
 
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