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番外編3
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「今度は、一緒に気持ちよくなろっか」
そう言った目の前の男は、とびきり美しく笑った。
*
目が覚めたとき、昨夜布団が敷かれていた場所をまず見たが、すでにそこには何もなかった。布団は、部屋の脇には綺麗にたたまれた状態で置かれている。部屋の中には、俺以外の人間はいない。頭がずきずきとした。朝食を食べにリビングに行くと、すでにそこにいた母から、瑞月くんが朝早く帰ってしまったことを教えてもらった。
「なんか、急いでるみたいだったけど……何があったのかしら」
「哲、何か聞いてる?」と聞かれ、俺は知らないと答える。いただいますと手を合わせて、朝食を食べた。
「顔色悪いわね。風邪?」
「大丈夫」
ご飯、みそ汁、焼いた魚に弁当のために作った分の残りの卵焼き。いつもの朝食だ。けど、今の俺に味を感じながら食べるなんてことはできない。俺はいつもより早く食べ終え、ごちそうさまと手を合わせた。
*
「優しく、動いてね」
そう言うと、瑞月くんは俺の腰に絡ませていた足を解いた。シーツを掴み、俺のことを見上げている。何かを期待してる煽情的な表情だった。酷く甘い匂いがする。俺は瑞月くんの手をベッドに縫い付け、彼の上に覆いかぶさった。
「ああっ♡♡ おく、だめっ♡♡ イっちゃうからっ♡♡」
「っ悪い」
俺が急に姿勢を変えたせいで、彼の奥に性器が当たってしまった。瑞月くんは、過剰なほどに腰をビクつかせる。俺はどうすればいいか分からなくて、瑞月くんが息を整えるのを待った。
「ごめん、その……イったばっかで、感じやすくなってる、から」
恥ずかしそうに、おずおずとそう話す瑞月くん。それを見て、俺はまた良くない気持ちに襲われた。彼をぐちゃぐちゃにしたい。俺はぐっと奥歯を噛んだ。さっきは、この気持ちに任せて動いた結果、彼を傷つけてしまったんだ。もう同じことはしないと、何とか自分を落ち着かせる。俺は息を吐き、「動くぞ」と伝えた。
「あっ♡ あっ♡ そこっ♡♡ んっ♡ きもちいいっ♡♡」
俺は瑞月くんの浅い部分で、緩く動いた。さっきまでの行為に比べれば、ずっと弱い刺激だろうけど、瑞月くんは高い声を漏らして中をぎゅっと締めた。俺は我を忘れそうになるのをなんとか堪え、瑞月くんの様子を見ながら動き続ける。動くたびに、瑞月くんの中に俺が出したものが空気と混ざって、厭らしい音をたてた。
「ゆっくり、ゆっくりしてっ♡♡ はっ、あっ!♡ さとしくっ♡♡」
瑞月くんの息が荒いものになってきた。分かってる、俺だってゆっくり優しく動きたい。けど、どんどん中が締まっていくから俺も動くのを我慢できなくなってしまった。瑞月くんの顔が良く見えるのもダメだった。快感に染まった表情の彼は、口を半開きにしてぽってりと赤い舌先が覗かせている。正直、興奮するなと言う方が無理だろう。
「イくっ♡♡ おれっ♡♡ んあっ♡♡♡ イっちゃうっ♡♡」
「ぐっ」
奥に出してと、瑞月くんは甘えた声で言った。今まで奥はダメと言い続けたのに、最後になってそんなことを言うなんて、俺はなぜか衝動的に怒りを感じた。出して出してと甘える瑞月くんの口に、自身の唇を重ねた。
「んっ、ぁ~~~~♡♡♡♡………♡♡♡………♡♡♡♡」
俺が精液を吐き出すと、瑞月くんも同時に限界に達した。腰をヒクつかせ、目を蕩けさせながら、瑞月くんは俺と舌を絡め合った。可愛い、瑞月くんへの想いが溢れ出てくる。俺はすべてを出し切った後も、しばらくの間彼と唇を重ねていた。
*
嫌、ダメだろう。何、瑞月くんのことを可愛いと思い始めてるんだ。俺は目が覚めて正気に戻ったあと、自身の行動を振り返り後悔した。そもそも、あれは本当にあったできごとなのか。普通に考えて、ありえない記憶だ。でも、夢だと考えるには生々しく鮮明すぎる。俺が見た夢なのか、それとも現実なのか。既に瑞月くんは帰っていて確認のしようがないが、できたとしてもなんと聞くんだ? 昨日ヤったよな? 最低だろ。俺はため息を吐いた。
(……勉強しよう)
自分が逃げていることは分かっている。でも、それ以外にできることはなかった。そして月曜日。俺は瑞月くんと玄関で顔を合わせた。彼はいつもと同じだった。けれども、俺は彼を見た途端あの時のことを思い出してしまった。碌に彼の顔も見れなくて、結局はまた逃げようとした。
「勉強教えてくれてありがとう!」
「伝えたいことはそれだけ。ごめんね、引き留めて」
瑞月くんが俺の態度に傷ついていることはすぐに気づいた。その上で、彼は距離を置こうとしている俺を、引き留めるつもりがないことも分かった。別に引き留めて欲しかったわけじゃない。でも俺は、気にしないふりをしている瑞月くんを無視することができなかった。
「分からないところがあれば、また教えるから」
俺は一人で教室に向かった。俺はどうしたいんだろう。あの記憶を忘れたいのか、それとも、夢か現実かはっきりさせたいのか……嘘だ。忘れることなんてできないし、夢か現実かはっきりさせる勇気も俺にはない。ただ一つ気づいたのは、どうやら俺は瑞月くんと距離を置いたり無視したりすることすらできないということだ。俺は考えた。自分はどうすべきか考え、結局すべてを夢だと思うことにした。全部が夢だったとしてしまえば、俺と瑞月くんは今のままの関係で変わらずにいることができる。昼にでも、朝は悪かったと謝ろう。俺はそう思った。問題があるとすれば___
(さっきの瑞月くん、かわ___いや、ダメだ。止めよう)
俺が、瑞月くんのふとした表情を可愛いと思ってしまうことくらいだ。
そう言った目の前の男は、とびきり美しく笑った。
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目が覚めたとき、昨夜布団が敷かれていた場所をまず見たが、すでにそこには何もなかった。布団は、部屋の脇には綺麗にたたまれた状態で置かれている。部屋の中には、俺以外の人間はいない。頭がずきずきとした。朝食を食べにリビングに行くと、すでにそこにいた母から、瑞月くんが朝早く帰ってしまったことを教えてもらった。
「なんか、急いでるみたいだったけど……何があったのかしら」
「哲、何か聞いてる?」と聞かれ、俺は知らないと答える。いただいますと手を合わせて、朝食を食べた。
「顔色悪いわね。風邪?」
「大丈夫」
ご飯、みそ汁、焼いた魚に弁当のために作った分の残りの卵焼き。いつもの朝食だ。けど、今の俺に味を感じながら食べるなんてことはできない。俺はいつもより早く食べ終え、ごちそうさまと手を合わせた。
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「優しく、動いてね」
そう言うと、瑞月くんは俺の腰に絡ませていた足を解いた。シーツを掴み、俺のことを見上げている。何かを期待してる煽情的な表情だった。酷く甘い匂いがする。俺は瑞月くんの手をベッドに縫い付け、彼の上に覆いかぶさった。
「ああっ♡♡ おく、だめっ♡♡ イっちゃうからっ♡♡」
「っ悪い」
俺が急に姿勢を変えたせいで、彼の奥に性器が当たってしまった。瑞月くんは、過剰なほどに腰をビクつかせる。俺はどうすればいいか分からなくて、瑞月くんが息を整えるのを待った。
「ごめん、その……イったばっかで、感じやすくなってる、から」
恥ずかしそうに、おずおずとそう話す瑞月くん。それを見て、俺はまた良くない気持ちに襲われた。彼をぐちゃぐちゃにしたい。俺はぐっと奥歯を噛んだ。さっきは、この気持ちに任せて動いた結果、彼を傷つけてしまったんだ。もう同じことはしないと、何とか自分を落ち着かせる。俺は息を吐き、「動くぞ」と伝えた。
「あっ♡ あっ♡ そこっ♡♡ んっ♡ きもちいいっ♡♡」
俺は瑞月くんの浅い部分で、緩く動いた。さっきまでの行為に比べれば、ずっと弱い刺激だろうけど、瑞月くんは高い声を漏らして中をぎゅっと締めた。俺は我を忘れそうになるのをなんとか堪え、瑞月くんの様子を見ながら動き続ける。動くたびに、瑞月くんの中に俺が出したものが空気と混ざって、厭らしい音をたてた。
「ゆっくり、ゆっくりしてっ♡♡ はっ、あっ!♡ さとしくっ♡♡」
瑞月くんの息が荒いものになってきた。分かってる、俺だってゆっくり優しく動きたい。けど、どんどん中が締まっていくから俺も動くのを我慢できなくなってしまった。瑞月くんの顔が良く見えるのもダメだった。快感に染まった表情の彼は、口を半開きにしてぽってりと赤い舌先が覗かせている。正直、興奮するなと言う方が無理だろう。
「イくっ♡♡ おれっ♡♡ んあっ♡♡♡ イっちゃうっ♡♡」
「ぐっ」
奥に出してと、瑞月くんは甘えた声で言った。今まで奥はダメと言い続けたのに、最後になってそんなことを言うなんて、俺はなぜか衝動的に怒りを感じた。出して出してと甘える瑞月くんの口に、自身の唇を重ねた。
「んっ、ぁ~~~~♡♡♡♡………♡♡♡………♡♡♡♡」
俺が精液を吐き出すと、瑞月くんも同時に限界に達した。腰をヒクつかせ、目を蕩けさせながら、瑞月くんは俺と舌を絡め合った。可愛い、瑞月くんへの想いが溢れ出てくる。俺はすべてを出し切った後も、しばらくの間彼と唇を重ねていた。
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嫌、ダメだろう。何、瑞月くんのことを可愛いと思い始めてるんだ。俺は目が覚めて正気に戻ったあと、自身の行動を振り返り後悔した。そもそも、あれは本当にあったできごとなのか。普通に考えて、ありえない記憶だ。でも、夢だと考えるには生々しく鮮明すぎる。俺が見た夢なのか、それとも現実なのか。既に瑞月くんは帰っていて確認のしようがないが、できたとしてもなんと聞くんだ? 昨日ヤったよな? 最低だろ。俺はため息を吐いた。
(……勉強しよう)
自分が逃げていることは分かっている。でも、それ以外にできることはなかった。そして月曜日。俺は瑞月くんと玄関で顔を合わせた。彼はいつもと同じだった。けれども、俺は彼を見た途端あの時のことを思い出してしまった。碌に彼の顔も見れなくて、結局はまた逃げようとした。
「勉強教えてくれてありがとう!」
「伝えたいことはそれだけ。ごめんね、引き留めて」
瑞月くんが俺の態度に傷ついていることはすぐに気づいた。その上で、彼は距離を置こうとしている俺を、引き留めるつもりがないことも分かった。別に引き留めて欲しかったわけじゃない。でも俺は、気にしないふりをしている瑞月くんを無視することができなかった。
「分からないところがあれば、また教えるから」
俺は一人で教室に向かった。俺はどうしたいんだろう。あの記憶を忘れたいのか、それとも、夢か現実かはっきりさせたいのか……嘘だ。忘れることなんてできないし、夢か現実かはっきりさせる勇気も俺にはない。ただ一つ気づいたのは、どうやら俺は瑞月くんと距離を置いたり無視したりすることすらできないということだ。俺は考えた。自分はどうすべきか考え、結局すべてを夢だと思うことにした。全部が夢だったとしてしまえば、俺と瑞月くんは今のままの関係で変わらずにいることができる。昼にでも、朝は悪かったと謝ろう。俺はそう思った。問題があるとすれば___
(さっきの瑞月くん、かわ___いや、ダメだ。止めよう)
俺が、瑞月くんのふとした表情を可愛いと思ってしまうことくらいだ。
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