冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 朝も開けないうちから動き出した宿の一室で、少し厚めの毛布に二人でくるまり銀髪の少年が、ミルクティーブラウンの少年を抱きしめるように眠っていた。
 部屋の広さは、大人一人用のベッドとサイドデスクと椅子が一脚。寝食をするというよりは、寝に帰ってくるだけと言った様相の部屋だ。少年二人といえど優雅に暮らしているとは言い難い。

 朝焼けとともに魔力で作られた魔伝蝶が窓をすり抜け、ミルクティーブラウンの少年の鼻へ舞い降りた。薄く目を開け魔伝蝶を確認し、ゆっくりと指に止まらせ伝言を受け取るように口づける。伝言を受け取った少年から舞い上がると魔伝蝶は役目を終えたとばかりに空中へ霧散した。

「レノごめん、僕しばらく家に帰るよ」

 2人分の重みで沈むベッドが慌てて起き上がったミルクティーブラウンの少年の重みから解放されたように軋み、銀髪の少年は眠りから無理やり覚醒させられウザそうに顔をしかめる。
「は?何言ってんのお前」
 ミルクティーブラウンの少年は掛けられた言葉を無視し、ベッドから降りると肌寒さを感じ脇の椅子に無造作に置かれた上着を羽織る。
「今、魔伝蝶が時間だってさ」
 自身の指をくるりとまわし、魔力で魔伝蝶を作るとふっと息を吹きかけた。
 魔伝蝶は、魔力で作る電報みたいなものだ。人により形は様々で、魔法に長ければ長けるほど繊細な物が作れるようになる。

 ミルクティーブラウンの少年の名は、ノア。ミルクティーブラウンの髪を左横だけ丁寧に編み込み残りをポニーテールにし結ってある。ツンとした目元にぷっくりと膨らむ唇は神経質そうに結ばれ、すれ違いざまに振り返らずにはいられないほど、目を引くキレイな顔立ちをしている。体躯は少年らしくほっそりとし、不用意に触れれば折れてしまいそうなほど細い。
 もう一人のレノと呼ばれる少年は、銀髪を襟足だけを腰まで伸ばし一つで結び、意地悪そうな目元と、不貞腐れたように結ばれる唇が僅かに幼さを残すが、体躯は脱げば均整の取れた引き締まった体なのだが、見た目はひょろっとしていて実に惜しい。
 二人はともに、グレイシアという比較的規模の大きい町で冒険者をしている。
 ランクは、C。ベヒーモスなど大型魔獣を余裕で倒せる程度。
 上からS、A、B、C、D、E、Fとあるので、平々凡々なランクではあるが、年齢を考えると将来有望な少年たちである。

 二人の出会いは三年前まで遡る。
 グレイシアのギルドは、12歳から冒険者になれるため、安全で安心という謳い文句でギルドを運営している。そのためか貴族から平民までこぞってグレイシアの冒険者になりたがった。
 そして、例に漏れず、12歳になったノアとレノは、同じ日同じ時間の冒険者試験を受けた。魔法に長けているノアと剣技に長けているレノは相性バッチリで、連携し合って試験に満点合格した。
 満点の特典として、最初からランクE。地道に素材採集。スライム、ゴブリン、コボルトを規定数狩ってランクEに上がるランクF。ランクFへ割く時間をすっ飛ばせたのは二人にとっては僥倖だった。
 だが、二人には致命的な欠陥があった。それは、生活能力である。
 親元でぬくぬく過ごしていた12歳に何ができるというのだろう。貴族はもちろんのこと、平民であったとしても親の庇護下で生活している。できることといえば、お手伝い程度のことだろう。
 そして、それは二人に限ったことではなく、大半の初心者~中級冒険者までがギルド(守銭奴)が経営する、はじまりの宿を利用している。
 はじまりの宿とは、そんな冒険者たちの足元を見た少々生活能力がなくても、衣食住をすべてお金次第で賄ってくれる便利な宿だ。
 そんな宿で全てを賄ってもらってる二人は、狩れど狩れど生活は豊かにはならず、ギルドで紹介されたはじまりの宿「宿り木亭」で、三年経った今も、共に生活をしていた。


「なあ。ほんとに帰るのか?」
 レノは、ベッドの上で宿り木亭特製のサンドイッチにかぶりつきながら、サイドデスクの椅子にちょこんと座りサンドイッチを静かに咀嚼するノアに話しかけた。
「もう、口に食べ物入れて話さないで。15歳になったら一回は帰る約束だから」
「誰とだよ」
「親」
 ノアの答えに二人の間に沈黙が降り、咀嚼音だけが響く。
「わかった」
 少しの沈黙の後、短く言ってレノは、食べ終わったサンドイッチの包み紙を片付けると、脇に置いてあった剣を握った。
「用事が終われば、また戻ってくるんだろ?」
「そうだね」
 ノアは、なんとも言いようのない笑みを浮かべると、首を上下に振りながら「多分」と小さく呟く。呟きはレノに届くか届かないくらいの小さいものだった。
「いつ立つんだ?」
「ベヒーモスの角まだ納品してないから、三日後かな」
 ようやく食べ終わったノアも包み紙を片付けると、衣服を整え壁にかけてあったマントを羽織る。
「じゃ、行くか」
 ベッドから十歩も歩かず、鍵を開け扉を開けて出ていくレノ。その後にノアも続く。もちろん鍵を閉めるのを忘れずに。ついでにこっそり、結界魔法も掛けたのはレノには内緒だ。
 以前、他の冒険者に舐められて押し入られた嫌なことを思い出す。そのときは、相手を武力行使で黙らせたので、事なきを得たが、それからノアは何事にも少し用心深くなった。部屋の鍵はもちろんのこと、自身の周りとレノの周りに常に外気から攻撃まで弾く結界を張っている。
 子供だと侮られるのは到底許せることではないし、ましてや性的に襲われるなど言語道断。二度と同じ過ちを犯されないように徹底的に処理していた。

 宿は、1階が食堂と呑み屋のような飲食店が複数入り、常に賑やかだが日付をまたぐ頃には閉店するので、深夜はそれなりに静かだ。2階はギルドが、ワンフロア使用している。3階~5階が冒険者たちに提供されている宿である。
 二人は階下へ降りると、まずは2階のギルドへ歩みを進める。万が一なにか異常事態が起こってないかの確認だ。
「よう、お二人さん」
 ギルドの脇で腕を組み佇んでいた年嵩の冒険者ルディに声をかけられ、二人は手を上げるだけで答える。
「迷宮の二階にスカイビットが大量発生して人手募集中だ」
 ルディはめんどくさいとばかりに肩をすくめ、奥のカウンターで忙しなく働く受付嬢を指した。
「へぇそりゃいい、今晩は丸焼きにしようぜ」
「確かに、それならベヒーモスの角、手に入るかもね」
 二人の思惑は別の方へと働いてるが、結果的には同じところへ落ち着くので僥倖といったところだろうか。

 スカイビットとは、耳が羽のように大きいうさぎで、たまに大量発生して手当たり次第、一面の草を一層していく厄介な小型魔獣だ。それと同時にスカイビットを餌にするベヒーモスのような大型魔獣も現れるので、今回みたいな受注中のクエストにはうってつけだ。
「お前らがいるなら、そうそうに終わりそうで助かるわ」
 そう言って、ルディはノアの肩に手をかけ、レノにサムズアップする。
「はぁ?!何言ってんの、あんたも働けよ」
 ノアは乗せられた手を払いのけ、これだからオッサンは!とぶちぶち文句を言いながら奥のカウンターに向かった。レノはルディに苦笑いだけを残してノアの後をついていく。
 いつものやり取り、いつもの行動。それだけで、朝のノアの言葉に陰りを残していたレノは少し安堵していた。
 二人が出会って三年。過去のすべてを置いてきたように話さないノアとレノはお互いを今でしか判断できない。
 だからといって、問うことはしない。離れていってしまうのが怖いから。お互いに。
 もしかしたら、ノアが家のことを話したのは初めてかもしれない。
「じゃ、現地集合ってことで、先に行ってるね」
 受付を済ませたノアは、入口の脇のルディに声をかけ、宿を後にする。レノは手を上げルディに挨拶するとノアの後を追った。
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