冒険者で食っていこうとしたけど前途多難です

加納ひより

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 グレイシアの迷宮は、地下に広がるダンジョンで、一階層は春、二階層は夏、三階層は秋、四階層は冬、五階層は春。なので、六階層は夏だろうと言われている。
 憶測なのは、誰も行ったことがないからだ。S級ならまだしも、A級ごときではグレイシアの迷宮は攻略できないほど広く深い。ましてやC級が大多数を占めるグレイシアでは、全階層を攻略できていない。
 だが、攻略済の五階層まででも、掘り尽くせていないくらいの素材と倒しきれていない魔獣が存在するため、皆がこぞって潜るというわけだ。幸い今回スカイビットが大量発生したのは二階層、二人にとっては庭みたいなものだ。

 「ノア」
 グレイシアの迷宮二階層目に入った途端、辺りの騒然とした雰囲気が伝わってくる。名を呼ばれ、周りを探知すると、すでに控えた冒険者たちが、それぞれの範囲で駆逐し始めていた。
 レノは背負っていた長剣を引き抜くと大振りに構え、その勢いで草むらから飛びかかろうとしていたスカイビットを薙ぎ払った。
 討伐証明の部位は耳だが、今回はレイド参加のため、参戦して討伐するだけで報酬が貰える。一定の報酬のため、それ以上の報酬を望む場合は、別途クエストを受ける必要がある。
「おーすごいすごい」
 ノアの棒読みの褒め言葉に、少々やる気を害しながら、次々とスカイビットを薙ぎ払った。
「真面目にやれよー!氷弾アイスバレット
 レノの薙ぎ払いから漏れたスカイビットを氷の球で撃ち落としながら、ノアは周りを一掃していく。

 本来なら、恥ずかしく長い詠唱をつらつらと唱えるべきなのだが、ノアは恥ずかしさのあまり、脳内で魔法陣を構築し、そのまま打ち出す方法を取っている。
 恥ずかしいからといって、詠唱をすっ飛ばして脳内で魔法陣を構築できる人間がどれほど世の中に存在するのか、はたしてノア以外に存在するのか疑問だが、それほどまでにノアは魔法に長けていた。
「レノ、あっちの奥からヤバい気配っ!」
 さほどの量じゃないな?と小首を傾げたレノに、ノアが焦った声を上げる。ノアにしては珍しい。
 ノアの示した奥の方を見ると、見るからに複数体が走っていると思われる砂埃が見えた。
「スカーレットホーンだ!」
「ヤバいぞ、炎を纏っている!」
「狂化し、っ!!!」
 奥の方で戦っていた冒険者が次々にスカーレットホーンの角と突進に飛ばされていく。中にはふっ飛ばされて治療が必要な者もいるようだ。

 魔法攻撃を乱発していたせいか、真っ直ぐノアの方へ向かってくるスカーレットホーンを確認して、ノアは右手を前方に掲げる。
氷壁アイスウォール
 それに呼応するように水色の魔法陣が浮かび上がり、スカーレットホーンの周りに分厚い氷の壁を築き、牢のように閉じ込めた。
 氷壁アイスウォールは攻撃魔法と違って、防御魔法なので脳内で魔法陣を構築するのは厄介で、対象に向かって魔法陣を放った方が成功率は高い。
 目視で確認できる数は3体。1体は頭の両脇から禍々しくうねるように生えた角に赤黒く炎を纏って狂化していた。残り2体は角も小さく普通の個体だ。赤いものに向かっていく習性のためか狂化の個体に追随しているように見える。
 氷壁の中でも暴れる狂化スカーレットホーンは、ノアを標的と捉えてるせいか、少しずつ近づくレノはガン無視で、歯牙にも掛けていない。
「怒ってんね~」
「うわっキモチワル!」
「ノア、どっち?」
 周りの冒険者にある緊張感のようなものは、二人の間にはない。
 まるでゲームでもするように武器を構えるレノ。狂化スカーレットホーンの雄叫びが響き、それが合図かのように、レノは軽く頭上へと飛び上がる。
「狂化以外っ!」
「はいよー」
 レノはノアの言葉を受け、急降下しながら氷壁ごと狂化スカーレットホーンの首を落とす。レノは見た目の細さからうかがい知れないほど馬鹿力に特化した男だ。切り口は振り下ろされ叩き切られたことによるぶつ切り。返り血を浴びるのも厭わない。
氷槍アイスランス
 ノアは、人差し指を口元でゆっくり上下すると、残りの二体に向かって、無数の氷の槍を放つ。全身に氷の槍が刺さったスカーレットホーンは無惨にも地面に縫い付けられたまま絶命した。
『いえーい!』
 二人は手を打ち合い、討伐し終えたことを労い合う。なにか気になることを思い出したようにふとノアは小首を傾げた。先ほど感じた殺気みたいなものは、狂化スカーレットホーンのものだったのだろうか?と。

「どした?」
「ん~なんもない、洗浄クリーン
 ノアは、レノに答えながら返り血を洗い流すべく洗浄魔法を掛け、魔法はレノを取り囲みキラキラと輝きながら、返り血とともに霧散した。
 あっという間の出来事に、周りから呻きと歓声が沸き、ノアは二人の世界の外に意識を向けた。
「あ、そうそうヒールいります~?一人千ベルでーす」
 ギルドも守銭奴だが、自分の魔法に価値があるのを知っているため、ノアも顔に似合わず守銭奴だ。
 もちろん最初から、守銭奴だったわけではない。冒険者をはじめて間もない頃は、自分たちの生活が苦しいにも関わらず、ほいほい癒していたノアだが、ある日聞いてしまった。宿り木亭の呑み屋で五百ベル相当の癒しを無償で提供する馬鹿なガキの話を。
 それから、人が変わったように他人に冷たくなり、レノ以外とは本音で付き合わず、今までの損を取り戻すように守銭奴へと変貌した。
「俺は頼む!」
「大した事ない」
「ノア、金は後払いで頼む!」
 口々に勝手なこと言う冒険者から、ギルドで配られる手形のような棒をそれぞれからもらうと、金を払った冒険者だけにヒールをかけていく。
 手形のような棒は、ギルドへ持っていけば、棒に見合った金額を、棒の持ち主から引き出せる。棒自体は、あらかじめお金と交換で引き替えておくことが前提だ。
「あと、ノアさんでしょう?助けてもらうのに感謝が足りないんじゃない?」
 ノアは口ではそう言いながら、一人ひとり怪我に見合ったヒールを掛けていく。
 ヒールをかけ終わって、深く一息を吸ったノアを確認し、ノアの方へと歩み寄る。
「ノア、次行こうぜ」
「はーい」
 レノは周りの態度を快く思ってないことを隠さず、治癒魔法をかけ終わったノアの手を取り、奥へと歩みを進めた。
 レノの握った手は、ほんのりと温かい。ノアに自然と魔力譲渡しているせいでもあるが、ノアはなにも言わずにレノの優しさを享受している。

(ホントはレノ以外、どうでもいいんだけどね)
ノアはそっと独り言ちた。

 その後は、大した収穫もなく、スカイビットを狩り切ると、運よくスカイビットに釣られてきたベヒーモスの角を手に入れられた。
 そして、ノアは先ほど感じた殺気みたいなものは、狂化スカーレットホーンのものだと納得し、レイド終了を伝える合図とともに迷宮を後にした。
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