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約束なんてしていませんよ、と言う栗鼠を追い掛けるのは。
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ルブは、近年始まった政策にぶすくれる主人を、今朝方、いつも通りに送り出した事を思い出していた。
遠い目をした、少年の形をしていながら、執事であるルブという人間は、たった今し方現れた真っ白な化け物みたいにデカい男に押し倒されていた。
何がどうやってこうなったのかは、本人であるルブにも分からなかった。ただ一つ言えることがある。それは、ーー
「少年。いや、少女よ。私の伴侶を知らないかね?君だと思うのだが。」
「いや絶対に人違いですってそれと早く僕の上から退いてください。」
「そんな筈ないのだが……。」
ーー今、人が来られたら困る。
グルルと唸る男は、正気でないと思いたかった。
しかし、哀しいかな、職業柄、多くの者と接触し、ありとあらゆる心情を察して物事に当たらねばならないルブにとって、いつまで経っても、「こいつは、真面目に言っている」という事実しか教えてくれない己の、経験豊かな感覚を呪いたくなった。
いつもは頼りになるのに、どうして、今だけは使えないのだか。
それにしても、だ。コイツの有り様は、耳も尻尾もヒゲも見当たらない。
けれども、見た目は人とは言え、どう見ても獣だった。
本能が、「そうである」と言っているのだから、余計に混乱するしかなかったルブは、されるがままになっていた。
だって、どうせ、頬に触れられるか、髪を掬われて頬擦りされるかしかしていないのだから。下手に警戒しっぱなしの方が疲れる。
事実として、筋力的にも、小柄なルブには敵いそうもない相手だ。
抵抗するにしても、まだ、逃げられる隙を探しつつ、体力を温存するのが無難な選択だった。
(あー、でもなぁ。ここで、誰かに見られたらどうなるかな。この倉庫に行くってメルに言っちゃったし。)
ここで、素直に、不審者に襲われたから助けを待つ、とならないのがルブだった。
生来として受け継いだ、「一人で生きる」という人を寄せ付けない気質が、男装をしてまでもルブに誰かを頼らないでいられる人生を生き抜く日々を与えてくれた。
だからこれからもこれまでの様に、誰かに寄り掛かる考えはなく、だからこそ、何か突然現れた不審者に嫁にされそうになっても、年頃の少女らしく騒ぎ立てる事をしなかったのだ。
(本当に叫び声上げたら、クビになる。)
そうとしか思えないルブだったが、やはり、彼女自身がそうなだけで、寧ろ、現在の彼女の職場は、ルブが思っている以上のものなのだが……。いつ気付くのやら。
しかし、職を失うなら未だしも、半裸の男を貴族の家に連れ込んだ使用人として、立派な犯罪者の印を押されては、今後、飯の種に有り付ける生活が出来るかどうか。
ああ、どうか、あの半端に甘ちゃんな我が主が少しばかりお情けを下さって、追い出すだけとかにしてくれれば良いのになー。
しかしながら、現実は残酷だった。
「あら、ルブ様?こんな所にどうして……ギャーー?!!性犯罪者め!!私達のルブ様に何してるの!!!」
「ちょっ、マリアったら、どうしたんだ、い……イィゃァァああああ!!!!我らの天使が!!!け、けが、穢されるぅうううう??!!!」
「全く!!お二人共五月蝿いですわね、って。なななな、なんて事!!未来のワタクシのお義姉さまに何してるのこのアンポンタン!!!!!」
目撃者が多すぎる。そっと目を閉じ、ルブは諦めた。
最終的には新天地にでも行けば良い。冷静に、これからの事を考え始めたルブは、軽く彼らの悲鳴に満ちた怒声の内容を聞き流してしまっていた。
なんて言っていたんだろう。目を開けてみるも、再び広がる、けしからん半裸の男がいるだけだった。開けなきゃ良かった。
そんな事よりも。と、やはり、思考は逸れていく。
うん、船のチケットを買うだけの貯蓄はある。大丈夫。
マイペースなルブとは別に、変質者(ほぼ確定)は、片方の口端を上げて苦笑していた。
「……酷い言われ様だな。」
「冷静にそんなコメントしているあんたのが精神が酷い構造してると思います。」
それより、何より、早く離れて欲しいなー。
まだ花の乙女盛りの歳である。男装しているとは言え、少しぐらい未来の夫に夢を持ちたい派であるルブにとって、肌色満開な見知らぬ野郎を目にし続けるのは結構な仕打ちであった。
「あ。」
「ん?」
「「「あ。」」」
ポロリ。そして、ぼたぼたと、次第に量を増していった粒は、紛れもなく、ルブの涙であった。
幼気ない少女の涙に、只でさえ怒り心頭だった面々は、三者三様に怒りの形相(※良い子は見ちゃダメ♪)へと転じた。
一人は、男に掴み掛かかり、一人は、ルブの身柄を確保し、最後の一人は、速やかに各所への連絡とルブが休める部屋の用意に走った。
「あれ、何でこんなことに?」
脳の処理領域の限界を超えてしまったのか、運ばれている最中に気を失ったルブ。
思っていたよりも繊細だったらしい自分に、誰よりも、本人が一番驚いていた事は誰も知らない。
それは兎も角。
気絶した我が家の大事な執事に、屋敷は上から下までしっちゃかめっちゃかな騒ぎになっていたのだが。
そんな事とは露も知らず、何故か、仕事が多忙過ぎて朝帰りが専らの主人がお手手繋いじゃってくれてますね、何でだ。と、唸りたくもなる。
目眩がしそうな現状から、主人から手をべりっと剥がす勢いで取り戻した事でさっさとお別れしたルブは、その足で、寝間着のまま庭園に出た。
いつになく満天の星空に皮肉かよ、と、独り言を漏らしたルブは、噴水の縁に腰掛けていた。
今は人目もない。そっと溜息を吐いた。
己がどれほど大切にされているのかも知らない少女の頭の中は、酷く現実的で、自分に厳しいものだった。
騒ぎを起こしてしまった事は、もう覆せない事実となってしまった。叫ぶの我慢したのに。
どうせ、解雇されるんだろうな。
そう思い込んだルブに怖いものはなかった。
行儀も礼儀もクソもへったくれもなく、足を開き、立てた片足に頬杖を突いた彼女は、服装がファンシー(笑)なフリフリの寝間着でなければ、どこからどう見ても少年にしか見えなかった。
月明かりに照らされた、静かな噴水の水面に映る自分の目と目があった。
特に、従兄弟とお揃いの泣き黒子のある目元が小生意気そうである。
その流れで、「そう言えば、昔は、よくアイツと競って女の子を落とす遊びしてたな。」、などと、ギリギリセーフどころかアウトにしかならない幼少期時代をも思い出してしまう。
今や、従兄弟たちは名家の騎士や、お姫様の付き人になっており、自分だって、今は、宰相の息子の執事の一人である。
出世したとは言えども、どうしたって、昔を思い起こすと自分たちには似合わない未来である。
つい数日前に、従兄弟に目を付けた婚活に奮起していた友人に紹介状とは名ばかりの、「私の友達だから泣かせんなよ。」と意訳可能な文面の手紙を渡したばかりだった。
会って紹介するとかはしたくなかったから、仕方ない。顔見たくないんだもの。
きっと彼らも、考えていることは自分とそう違わないだろう。
同族嫌悪にも似た何かを感じていた従兄弟達のことと、仕事を割と楽しんでやれていたこれまでのことに思いを馳せていたルブは、静かに現実に戻ってきた。
初めも、散々だった。でも、そうでもなきゃ、疑り深いルブが、何故田舎から出てきた自身によりにもよって宰相の家の仕事を紹介された時点で訝しんでいた。
そして、こんなに良い職場には来れていなかっただろう。
我ながら、チープな考え方だが、初めが色濃く記憶に残っている所為もあってか、この職場に運命を感じた時もあった。
しかし、それがまさか、こうなるとは。
「はぁ。次はどこに行こう。」
「どこに行く気だ?」
「あ、勝手に人の手掴んでた人だ。」
再び、溜め息を吐いた彼女の横に、ある男が腰を下ろした。
ぎょっとしたルブは、咄嗟に、ぶら付かせていたもう片方の足も引き揚げると、腕で抱えた。
流石に、寝起きでぼんやりしていて、且つ、これからの己の行き先に不安たっぷりな身でも、今まで上の立場であった人を前にあんな姿を見せてはいられないと思った。
正確には、恥ずかしさと言うよりは、少し前に、男よりも男っぽいルブの性別を知る、この屋敷の主人の妹君から呈された苦言に基づく行動であった。
蛇足だが、妹君は、来年には隣国の王族に嫁ぐ予定である。
そして、更に追記すると、仕事が忙しく滅多に帰って来ない宰相に代わって、名実共にこの屋敷の主人をしているのはこの男だった。父君が人生現役な性質もあって、まだまだ当主ではないけれど。
ーー勿論、ここに置いて、指差しを忘れないくらい不敬なのがルブであった。
仕事中であれば決してしない真似ではあるが、公私混同をしないのがルブである。詰まり、屁理屈を立て並べて、自分を解雇しやがる相手をちょっとからかいたいだけであった。
「指を下げなさい。」
「はーい。」
彼こそ誰でもない、宰相の息子であり、ルブの雇用主こと主人であるビリーだった。ちなみに、愛称はベルである。本名はまた別である。
ルブの最もな言い分に詰まりつつ、彼は、落ち着かない様子で、黒髪を掻き上げた。
「……。お前な。ったく、心配掛けさせた相手に、その言い分は何なんだ。で、どこに行くって?」
「えー。どうせ、クビでしょ。だから、次の職場を見繕わないとと思いまして。」
「は?何を言っている?変なことを考える前に、寝て、食べて、存分に休め。さっさと回復しろ。」
途轍もなく失礼極まりない思い込みをしている執事に対して、ビリーは、相手を選ぶという意味で限定的ではあるが、とても優しい主人であった。
ルブは、近年始まった政策にぶすくれる主人を、今朝方、いつも通りに送り出した事を思い出していた。
遠い目をした、少年の形をしていながら、執事であるルブという人間は、たった今し方現れた真っ白な化け物みたいにデカい男に押し倒されていた。
何がどうやってこうなったのかは、本人であるルブにも分からなかった。ただ一つ言えることがある。それは、ーー
「少年。いや、少女よ。私の伴侶を知らないかね?君だと思うのだが。」
「いや絶対に人違いですってそれと早く僕の上から退いてください。」
「そんな筈ないのだが……。」
ーー今、人が来られたら困る。
グルルと唸る男は、正気でないと思いたかった。
しかし、哀しいかな、職業柄、多くの者と接触し、ありとあらゆる心情を察して物事に当たらねばならないルブにとって、いつまで経っても、「こいつは、真面目に言っている」という事実しか教えてくれない己の、経験豊かな感覚を呪いたくなった。
いつもは頼りになるのに、どうして、今だけは使えないのだか。
それにしても、だ。コイツの有り様は、耳も尻尾もヒゲも見当たらない。
けれども、見た目は人とは言え、どう見ても獣だった。
本能が、「そうである」と言っているのだから、余計に混乱するしかなかったルブは、されるがままになっていた。
だって、どうせ、頬に触れられるか、髪を掬われて頬擦りされるかしかしていないのだから。下手に警戒しっぱなしの方が疲れる。
事実として、筋力的にも、小柄なルブには敵いそうもない相手だ。
抵抗するにしても、まだ、逃げられる隙を探しつつ、体力を温存するのが無難な選択だった。
(あー、でもなぁ。ここで、誰かに見られたらどうなるかな。この倉庫に行くってメルに言っちゃったし。)
ここで、素直に、不審者に襲われたから助けを待つ、とならないのがルブだった。
生来として受け継いだ、「一人で生きる」という人を寄せ付けない気質が、男装をしてまでもルブに誰かを頼らないでいられる人生を生き抜く日々を与えてくれた。
だからこれからもこれまでの様に、誰かに寄り掛かる考えはなく、だからこそ、何か突然現れた不審者に嫁にされそうになっても、年頃の少女らしく騒ぎ立てる事をしなかったのだ。
(本当に叫び声上げたら、クビになる。)
そうとしか思えないルブだったが、やはり、彼女自身がそうなだけで、寧ろ、現在の彼女の職場は、ルブが思っている以上のものなのだが……。いつ気付くのやら。
しかし、職を失うなら未だしも、半裸の男を貴族の家に連れ込んだ使用人として、立派な犯罪者の印を押されては、今後、飯の種に有り付ける生活が出来るかどうか。
ああ、どうか、あの半端に甘ちゃんな我が主が少しばかりお情けを下さって、追い出すだけとかにしてくれれば良いのになー。
しかしながら、現実は残酷だった。
「あら、ルブ様?こんな所にどうして……ギャーー?!!性犯罪者め!!私達のルブ様に何してるの!!!」
「ちょっ、マリアったら、どうしたんだ、い……イィゃァァああああ!!!!我らの天使が!!!け、けが、穢されるぅうううう??!!!」
「全く!!お二人共五月蝿いですわね、って。なななな、なんて事!!未来のワタクシのお義姉さまに何してるのこのアンポンタン!!!!!」
目撃者が多すぎる。そっと目を閉じ、ルブは諦めた。
最終的には新天地にでも行けば良い。冷静に、これからの事を考え始めたルブは、軽く彼らの悲鳴に満ちた怒声の内容を聞き流してしまっていた。
なんて言っていたんだろう。目を開けてみるも、再び広がる、けしからん半裸の男がいるだけだった。開けなきゃ良かった。
そんな事よりも。と、やはり、思考は逸れていく。
うん、船のチケットを買うだけの貯蓄はある。大丈夫。
マイペースなルブとは別に、変質者(ほぼ確定)は、片方の口端を上げて苦笑していた。
「……酷い言われ様だな。」
「冷静にそんなコメントしているあんたのが精神が酷い構造してると思います。」
それより、何より、早く離れて欲しいなー。
まだ花の乙女盛りの歳である。男装しているとは言え、少しぐらい未来の夫に夢を持ちたい派であるルブにとって、肌色満開な見知らぬ野郎を目にし続けるのは結構な仕打ちであった。
「あ。」
「ん?」
「「「あ。」」」
ポロリ。そして、ぼたぼたと、次第に量を増していった粒は、紛れもなく、ルブの涙であった。
幼気ない少女の涙に、只でさえ怒り心頭だった面々は、三者三様に怒りの形相(※良い子は見ちゃダメ♪)へと転じた。
一人は、男に掴み掛かかり、一人は、ルブの身柄を確保し、最後の一人は、速やかに各所への連絡とルブが休める部屋の用意に走った。
「あれ、何でこんなことに?」
脳の処理領域の限界を超えてしまったのか、運ばれている最中に気を失ったルブ。
思っていたよりも繊細だったらしい自分に、誰よりも、本人が一番驚いていた事は誰も知らない。
それは兎も角。
気絶した我が家の大事な執事に、屋敷は上から下までしっちゃかめっちゃかな騒ぎになっていたのだが。
そんな事とは露も知らず、何故か、仕事が多忙過ぎて朝帰りが専らの主人がお手手繋いじゃってくれてますね、何でだ。と、唸りたくもなる。
目眩がしそうな現状から、主人から手をべりっと剥がす勢いで取り戻した事でさっさとお別れしたルブは、その足で、寝間着のまま庭園に出た。
いつになく満天の星空に皮肉かよ、と、独り言を漏らしたルブは、噴水の縁に腰掛けていた。
今は人目もない。そっと溜息を吐いた。
己がどれほど大切にされているのかも知らない少女の頭の中は、酷く現実的で、自分に厳しいものだった。
騒ぎを起こしてしまった事は、もう覆せない事実となってしまった。叫ぶの我慢したのに。
どうせ、解雇されるんだろうな。
そう思い込んだルブに怖いものはなかった。
行儀も礼儀もクソもへったくれもなく、足を開き、立てた片足に頬杖を突いた彼女は、服装がファンシー(笑)なフリフリの寝間着でなければ、どこからどう見ても少年にしか見えなかった。
月明かりに照らされた、静かな噴水の水面に映る自分の目と目があった。
特に、従兄弟とお揃いの泣き黒子のある目元が小生意気そうである。
その流れで、「そう言えば、昔は、よくアイツと競って女の子を落とす遊びしてたな。」、などと、ギリギリセーフどころかアウトにしかならない幼少期時代をも思い出してしまう。
今や、従兄弟たちは名家の騎士や、お姫様の付き人になっており、自分だって、今は、宰相の息子の執事の一人である。
出世したとは言えども、どうしたって、昔を思い起こすと自分たちには似合わない未来である。
つい数日前に、従兄弟に目を付けた婚活に奮起していた友人に紹介状とは名ばかりの、「私の友達だから泣かせんなよ。」と意訳可能な文面の手紙を渡したばかりだった。
会って紹介するとかはしたくなかったから、仕方ない。顔見たくないんだもの。
きっと彼らも、考えていることは自分とそう違わないだろう。
同族嫌悪にも似た何かを感じていた従兄弟達のことと、仕事を割と楽しんでやれていたこれまでのことに思いを馳せていたルブは、静かに現実に戻ってきた。
初めも、散々だった。でも、そうでもなきゃ、疑り深いルブが、何故田舎から出てきた自身によりにもよって宰相の家の仕事を紹介された時点で訝しんでいた。
そして、こんなに良い職場には来れていなかっただろう。
我ながら、チープな考え方だが、初めが色濃く記憶に残っている所為もあってか、この職場に運命を感じた時もあった。
しかし、それがまさか、こうなるとは。
「はぁ。次はどこに行こう。」
「どこに行く気だ?」
「あ、勝手に人の手掴んでた人だ。」
再び、溜め息を吐いた彼女の横に、ある男が腰を下ろした。
ぎょっとしたルブは、咄嗟に、ぶら付かせていたもう片方の足も引き揚げると、腕で抱えた。
流石に、寝起きでぼんやりしていて、且つ、これからの己の行き先に不安たっぷりな身でも、今まで上の立場であった人を前にあんな姿を見せてはいられないと思った。
正確には、恥ずかしさと言うよりは、少し前に、男よりも男っぽいルブの性別を知る、この屋敷の主人の妹君から呈された苦言に基づく行動であった。
蛇足だが、妹君は、来年には隣国の王族に嫁ぐ予定である。
そして、更に追記すると、仕事が忙しく滅多に帰って来ない宰相に代わって、名実共にこの屋敷の主人をしているのはこの男だった。父君が人生現役な性質もあって、まだまだ当主ではないけれど。
ーー勿論、ここに置いて、指差しを忘れないくらい不敬なのがルブであった。
仕事中であれば決してしない真似ではあるが、公私混同をしないのがルブである。詰まり、屁理屈を立て並べて、自分を解雇しやがる相手をちょっとからかいたいだけであった。
「指を下げなさい。」
「はーい。」
彼こそ誰でもない、宰相の息子であり、ルブの雇用主こと主人であるビリーだった。ちなみに、愛称はベルである。本名はまた別である。
ルブの最もな言い分に詰まりつつ、彼は、落ち着かない様子で、黒髪を掻き上げた。
「……。お前な。ったく、心配掛けさせた相手に、その言い分は何なんだ。で、どこに行くって?」
「えー。どうせ、クビでしょ。だから、次の職場を見繕わないとと思いまして。」
「は?何を言っている?変なことを考える前に、寝て、食べて、存分に休め。さっさと回復しろ。」
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