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栗鼠と彼らの裏側 其の一
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隣国では、幸運を運ぶとされる黒い羊の獣人として覚醒した妹と、その兄は、この国では知る者が居ないほど有名だった。
暗愚であった先の前王を退ける為、まだ当時は幼かった現王の代わりに矢面に立ってクーデターを起こし、見事に、王の挿げ替えを速やかに成し遂げた。
まだ宰相の座は、ビリーの父親のものではあるが、これは、彼がまだ宰相になるつもりはないからこその余地だという事実もまた知る人ぞ知る真実だった。
また、妹であるセレスティアは、自身の兄が革命の計画に忙しない時に、現王がまだ赤子だった頃から庇護者の役割を買って出ており、一時期、現王の后に彼女が筆頭候補として名が上がっていた。
しかし、純粋な家族愛だと公言した、二人の親愛たるや、セレスティアが隣国に嫁ぐとなってからも帰ってくるようにと再三口にするほど仲が良かった。
そして、ここに、そんな衆目を集めて止まない二人の兄妹がいた。
片や冷たい目線を、片や自棄酒を煽っていた方にくれていたのである。
そう、優雅に兄妹仲良く和やかに三日月背負っての夜ではなく、月を見上げながら自棄酒しまくる兄を、ソファーに深く腰掛けて足を組み睥睨する妹という構図だ。
だが、よく行われる構図でもあった。何故なら、片想いを拗らせた結果、運良く思いを寄せた相手を雇用出来て見近くに置けた、そこまでは良いとしても、「あまりにも一緒に居れる時間が少なすぎるし、着替えを手伝ってくれるのは良いんだが、少しでも手が触れると夜眠れなくなるし困るんだが一番は可愛い顔で不思議そうに見つめてくれるのが」
「ちょっと黙って下さいまし。」
「はぃ。」
「あとそこにお座り。返事はワン一つよ。」
「わん。」
この兄妹、滅多に酔わない。
何故なら、国内外問わず有名料ついでに政敵の多い身だからだ。故に、寄っていられないのである。
と言うのは単なるこじつけであって、彼らは生まれ持った体質があった。と言うか、単純に言ってドベなだけである。
「おまわり。」
「わんわん!!」
だが、目の座った妹も、そして、兄も、確実に寄っていた。
原因は一目瞭然である。彼らの座る場所からすぐ近くにあるテーブルの上には、《鬼殺し 特上》と書かれた酒瓶が置かれていた。
そして、床には同じ銘の打たれた瓶が何本も転がっていた。
こんな姿を見られたら終わりだな。彼らのいる部屋の前に門番宜しく佇んでいた筆頭執事であるハクスマンは、やれやれと、皺の寄った額に手を当て、静かに瞑目した。
やはり、早めに夜番と交代しておいて良かったようだ。
普段は頼りになるのに、こういう時にばかり、悪酔いするのはどうしてなのか。
執事となりこの家に務めて数十年。主人たちの知られたくない秘密まで知っている老人は、勿論、兄の方が思い煩っている相手に関係していると察していた。
(まあ、政略結婚をすると悲劇に見舞われる血筋の家門にあって、お二人共早々にお相手を見つけられたのが奇跡ですからな。)
愛の為ならば火の中水の中、泥を被ろうが啜ろうが、諦めない。
ある意味で呪われた血筋だ。逆に言えば、だからこそ、そのしつこさが味方してか連綿と続いてきた古い家門でもあった。
そうでなくとも、赤子の頃から仕えてきた彼らが幸せを掴めるのは、この老いおぼれた執事にとっても、望外の歓びであることには違いなかった。
その為の犠牲に代わるものなどなく、何でも耐え得るのである。
老骨に鞭打つハクスマンにとってしてみたら、それなりに有能な執事を取られるのは、やや、抗議したい思いがないでもなかった。
だが、事前に想い人を教えられており、主人にその身元を宜しく頼まれたのであれば、否はない。
何事も卒なくこなす筆頭執事は、これから、抜ける穴の為に早い段階から手を打っていた。
「用意する時間があれば、容易い事ですな。」
彼が懐に忍ばせた懐中時計は、深夜の二時を指していた。
「今度は、これを見つけなさい!犬なんだから鼻は効くでしょ!!」
「いや羊……。」
「うるさい早くなさい。」
「理不尽!!」
「返事はワン一つですのよ!」
「わん!!」
「ホッホッ。若いとは、良いですな。」
だからって、あの二人みたいに、二日酔いも思い出した時の羞恥さえも怖がらぬ所業は仕出かしたくないが。
まだまだ夜はこれからだ。
深まる闇を窓越しに眺め、準備しておいた椅子に腰掛けた老執事は、手元の灯りを頼りに読書に勤しむのであった。
「行くのよ、ポチ!!!」
「アゥーーン!!」
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