異世界ファンタジーでもヒロイン認定されない私は推しの匠を甘やかせたい

川井田ナツナ

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1:投資詐欺にはご注意を

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 ATMの前にやってくるのは何度目だろう……。
 25歳にもなって私は、アニメや小説で観た異世界に行けると信じている。
 そして、今日の振込みは『異世界行きの薬』開発に人生を捧げる……一人の研究者への投資最終日。
 早まった私の生活費は十日分もない……給料日はまだ三週間後だというのに。

 だが良いのだ……七日後には薬が完成し、私は晴れて異世界で生活できるはずなのだから。
 しかし、予定の七日後の木曜日になっても……私のもとに『異世界行きの薬』は届かなかった。

 日本という国は少なくとも諸外国に比べて人道的な国だと私は思う。
 なぜなら、電気やガスは止められても水道を止めるのは遅いからだ。ベランダから入る陽ざしを頼りにキッチンで髪を洗っていると、玄関のポスト受けに投函された音が私にはハッキリと聞こえた。
 急いで、泡立った髪を冷水で流して三度目のタオルで髪を巻き……ポストをのぞく。

 茶封筒には何も書かれてはおらず、中には一枚の手紙と一錠の錠剤が入っていた。
 
 そして、夜になり眠くなるまでの間。
 私は日本に残すことになる色々なめんどくさい事を書き残し、月明かりを頼りにキッチンでコップに水を注ぎ……薬を飲んでぺったんこのお布団で眠りにつくのだった。

~~

 目が覚めると、オーケーオーケー見覚えのない天井……というより粉雪が降る灰色の空。
 起き上がり、硝子に映る私は『顔、身長、髪色、声の音色』……どれをとってもコンプリートしているのに、だがなぜだ? 着ているボロ布からは生ゴミみたいな臭いがする。

 そして、寒い……なんで裸足なんだよオイ。
 投資に成功した私は早くも凍死しそうではないか!?
 
 髪色は白金なのに変にべたつき指が通らない。
 一番きついのは生ゴミみたいな臭いと、しもやけした手足だ。
 中の人は25歳の女とは言えど、外見は良くて小学校高学年……とりあえずは仕事をしながら、どこかで養ってもらうしかない。

 だが、ゴミ捨て場がメインフィールドで生きていたような私を拾ってくれるような……優しい所では異世界は無かった。

 唯一の誤算は少しの魔法が使える事ぐらいだが、話す言葉が年相応に聞こえる『幻聴』なんて何の意味があるのだろうか……。
 街灯も灯り始め、夜を越せるかと眺めた空は無駄に星が光っている。

 腹は減ったし、寒い……。こんなことになるなら異世界なんて、アニメや小説で夢膨らませるだけで良かったんじゃないかとすら思えてくる。
 そんな中……街を歩く一人の男性と目があった。

 正確には彼の右眼からは青白い光……もやが綺麗に漂い、私はその光に見惚れたのだ。
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