異世界ファンタジーでもヒロイン認定されない私は推しの匠を甘やかせたい

川井田ナツナ

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2:私を養ってくれ……イケメンよ!

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「ん? ……どうしたんだお前。そんなに絶望的な眼差しをして」
 目が合ったイケメンの男性は、目を輝かせているはずの私に向かってそう言った。
 なぜだ、硝子で反射して映る瞳ですら輝いていたというのに……。
 たぶん、あれだろう……この男の感性や目が悪いのだ。
 
 だって、こっちの世界に来るまでの家賃四ヶ月分を滞納していた私を大家さんのおばあちゃんは『あなたのような綺麗な瞳を持つ人が噓をつくわけないわ』と許してくれていた。
 そして、貧乏生活と街の住民の恐らく大半以上に話しかけた私だからこそ、その立ち振る舞いや身に付けた衣類でわかる……。

 この男は私を養うだけの『財力』があると!!

 ならばすることはどうにかして取り入り、将来的にはこの男の財力をダニのように吸い取り生きながらえることだ!!
 私は不自然のないように両手を後ろにし、指を小さく鳴らし唱え近づく。

「――――幻聴げんちょう

 そして、男の前まで近づき懇願する。

「リリィは……(私を養ってくれ! 掃除、洗濯、家事なんでもしますので……イケメンよ!)」

 すると男は、私の汚れた頭の上に優しくてのひらを乗せ。
「今晩は冷え込むらしいからな。うちで休むか?」
「……はい」

 男は自分の手袋を私の手につけてくれ……生ゴミの臭いが漂う私をおんぶしてくれた。
 男の下心に敏感な私にはわかる……この男の人は心がとても暖かいと。

~~

 彼の名前は『アイル・クラウン』というらしい。
 洋風な名前にも感じるが、髪色がこの街では珍しい黒色なのでどこからか移住して来たのだろう。
 
 そして、アイルさんの家は工房の奥に居住スペースがあるところ。

 彼は自分の服を魔法で私が着れるサイズまで小さくしたり、手足のしもやけを治癒してくれた。
 異世界ものの魔法をコンプリートしたような彼がなぜ結婚していないのかは不明だが、私の異世界生活の拠点はここ以外は考えられないと思う私なのだ。

 風呂をすませ、アイルさんが準備した温かいスープを飲みながら……頼むなら今しかないと私が思った時だった。

「リリィ……だったか? 行くところがないなら、好きなだけうちで過ごすといい」

 彼の一言には……私のしもやけして治らないと思っていた心も包み込む優しさがある。
 たぶん、私なんかよりもこの人は……心の傷跡が多いのかもしれない。

 そんな彼が……甘えれる女に私はなりたいと思うのだった。
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