異世界ファンタジーでもヒロイン認定されない私は推しの匠を甘やかせたい

川井田ナツナ

文字の大きさ
3 / 3

3:夢ではないことに安堵する私

しおりを挟む
~~

 翌朝、自然と目が覚めると昨夜眠りについたベッドの中だった。
 アイルさんが眠りについたカウチソファーには無造作になったブランケットがあるだけで彼は居ない。

 だが、彼が工房と言っていた方からは何かを削るような音がわずかに聞こえる。
 壁掛けの時計はまだ五時を少しだけ過ぎたばかりなのに、彼はもう仕事をしているのだろうか。
 暖炉には火が付いているがまだ部屋の中にはそのぬくもりが広がっていないこともあり、図々しい私は彼のブランケットで身を包み音のする工房の方を見てみることにした。

 彼は工房の壁際の机に向かい、手元を光らせている。

「もう起きたのか? 朝ごはんならもう少しだけ待ってくれな」
 アイルさんは私の方を振り向かずに口にした。
 一瞬、背中に目ん玉でもついているのかと思ったが、何かで『極限の集中状態』は虫の息すらも聞き分けると誰かが言っていたことを思い出したが……。

「リリィはまだお腹が減ってないのです!(クゥ――――ッ、痺れるぜ!! 飯の前にあんたを食いたいぜ!)」
 私の意思とは関係ない言葉が自動変換され、ぐぅ~とおなかの虫さんが鳴くのだった。


 彼が支度してくれた朝食を一緒に食べながら聞く。
「アイルさんは朝早くから何を作っていたのですか?」
「あぁ、あれか。魔法筆と言ってな、自分の力だけでは魔法を使えない人が魔法を使えるようになるものを作っているのさ」
「なるほど~~。良く分からないのです(実践してみせてクレヨン)」
「例えばそうだな」
 彼はそういうと、工房のガラスケースの中から一本取り出して空中に文字を一筆書きした。
 そして、カラになったコップに向けて水を魔法陣から注いだ。

「なるほど。魔法なんとかというものは、飲料水を生み出せるものなのですね~~」
 目を細めて微妙な魔法だと思ったことがバレたのだろう、彼は続ける。
「そうだな……。あとは使い手次第って所かな。ちょっと使ってみるか?」
 彼が渡した魔法筆は私の手には少し重く、軸も太いために持ちにくい……だが、『幻聴』以外に魔法が使えるのなら異世界ファンタジーさまさまではないか!
 早速、『私に似合う服!』と筆を走らせてみるがペン先が黄色く光る残像を残すだけだった。
「アイルさん……(何も起こらぬではないか――――ッ!! めっちゃ期待してたんですけど――――ッ)」
 彼は私から筆を受け取り。
「……リリィが何を書いたかはわからなかったが魔法は全能じゃないってことだな」
 そう言って、アイルさんは魔法筆を元のガラスケースに戻して食事を再開するのだった。
 異世界ファンタジーに過度な期待を持っていた私はふと愚痴をこぼす。
「リリィには魔法の才能がないのでしょうか……」
 そんな私に彼は聞いた。
「リリィにはこの部屋に漂うマナが見えるか?」
「?? ……この小さく光るものですか?」
「……じゃあ大丈夫だ。他の店が開く時間になったら服でも買いにいこう」

 彼はそう言ってコーヒーを飲みながら、空中を漂う小さく光るものをつついて遊ぶのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女を怒らせたら・・・

朝山みどり
ファンタジー
ある国が聖樹を浄化して貰うために聖女を召喚した。仕事を終わらせれば帰れるならと聖女は浄化の旅に出た。浄化の旅は辛く、聖樹の浄化も大変だったが聖女は頑張った。聖女のそばでは王子も励ました。やがて二人はお互いに心惹かれるようになったが・・・

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

社畜聖女

碧井 汐桜香
ファンタジー
この国の聖女ルリーは、元孤児だ。 そんなルリーに他の聖女たちが仕事を押し付けている、という噂が流れて。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

悪役女王アウラの休日 ~処刑した女王が名君だったかもなんて、もう遅い~

オレンジ方解石
ファンタジー
 恋人に裏切られ、嘘の噂を立てられ、契約も打ち切られた二十七歳の派遣社員、雨井桜子。  世界に絶望した彼女は、むかし読んだ少女漫画『聖なる乙女の祈りの伝説』の悪役女王アウラと魂が入れ替わる。  アウラは二年後に処刑されるキャラ。  桜子は処刑を回避して、今度こそ幸せになろうと奮闘するが、その時は迫りーーーー

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

召喚聖女の結論

こうやさい
ファンタジー
 あたしは異世界に聖女として召喚された。  ある日、王子様の婚約者を見た途端――。  分かりづらい。説明しても理解される気がしない(おい)。  殿下が婚約破棄して結構なざまぁを受けてるのに描写かない。婚約破棄しなくても無事かどうかは謎だけど。  続きは冒頭の需要の少なさから判断して予約を取り消しました。今後投稿作業が出来ない時等用に待機させます。よって追加日時は未定です。詳しくは近況ボード(https://www.alphapolis.co.jp/diary/view/96929)で。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。 URL of this novel:https://www.alphapolis.co.jp/novel/628331665/937590458

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

処理中です...