【完結/R18】前世で王女だった女子大生は、近衛騎士の生まれ変わりの義兄に溺愛される

久藤れい

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4話

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 一週間かけて気持ちを落ち着かせた彩花は、金曜日の夜に玲央が新しく暮らし始めたマンションを訪ねた。
 玲央の新しい部屋を見てみたかったし、週末に顔を出すといっていた彼の来訪を待ちきれない気持ちがあった。

 何かあったときのために、と新しい居住地の住所は知らされていたので、電車で一駅の距離にあるマンションに足を運ぶ。

 管理人の視線を感じながら、エントランスで部屋番号を打ち込んでインターホンを押す。
 軽やかな音楽の後に、機械超しに玲央の声が響いた。

『はい、もしもし』
「お義兄ちゃん? 私だよ。遊びに来たの!」

 あえて弾んだ元気な声を出す。思うところなど何もない、という風に振る舞う彩花に玲央の驚いた声が届いた。

『彩花?! ちょっと待ってくれ、いま開けるから』

 すぐにオートロックのエントランスの透明なガラスが開く。
 管理人に頭を下げてマンションの中に足を踏み入れた。





 三階の角部屋が玲央の部屋だった。中途半端な時期の入居であったはずなのに、いい部屋を引き当てられたようだ。

 もしかしたら、それが玲央が引っ越しを急いだ要因の一つかもしれない、などと思いつつ彩花は玄関のインターホンを鳴らす。

 すぐに打ち開きの玄関が開かれて、先ほどより落ち着いた様子の玲央が姿を見せた。その格好は仕事上がりに部屋で寛いでいた、と言わんばかりのラフな格好だ。

「突然ごめんね」
「それは構わないが……少し待っていてくれ」
「うん」

 来訪を伝えていなかったので部屋が散らかっているのかもしれない。
 言われた通り玄関先で待っていると、五分ほどして外出着に身を包んだ玲央が姿を見せた。

「お義兄ちゃん?」
「食事、まだだろう。外で食べよう」
「え! お義兄ちゃんの手作りがいい!!」

 てっきり玲央の手料理が食べられると思っていたのに。なにかと不器用な彼女と違って料理も家事も手際よくこなす玲央の作るご飯が、彩花は何よりの好物なのだ。

「悪い、食材がないんだ」

 視線が斜め下を向く。それは玲央が嘘をつくときの――前世からの癖だった。

「……そっか」

 一拍おいて頷いたのは、ここで駄々を捏ねても意味がないと思ったからだ。
 玲央は彩花を部屋にあげたくないのだと察せないほど、彼女も鈍感ではない。
 こみ上げてくる色々な感情を飲み込んで、にこりと笑う。

「どこに行く?」
「うーん、どこがいい?」

 逆に問いかけられて首を傾げる。実家から一駅しか違わないので、この辺りの地位はなんとなく把握している。近隣に高校が近いため、チェーン店が多いイメージだ。

「そうだなぁ、じゃあファミレス!」
「わかった」

 玲央が小さく笑う。幼い頃から彩花は高いご飯よりファミレスなどチェーン店の大衆料理が大好きだった。
 前世を思い出した今ならわかる。きっと、前世で大味な料理を食べる機会が皆無だった反動がきているのだ。

 繊細な味の料理も嫌いではないし、両親が日本にいた頃にはフレンチなどにも連れて行ってもらったが、なんとなくしっくりこないのだ。

 静かに一つずつ味わうより、ぱくぱくとたくさん食べられるほうが彩花は好きだ。
 近くのファミレスまでおしゃべりをしながら少し歩く。話すのは主に彩花で大学で学んだことや友人と話した内容などで、玲央は一つずつ丁寧に頷きながら聞いてくれる。

 その横顔は穏やかで、彩花が嫌で出ていったとは到底思えない。
 マンションやアパートが並ぶ賑やかな通りを抜けると夕闇に明るく輝くファミレスが見えてくる。

 チェーン店のそこは彩花がひときわお気に入りの店でもあった。わかりやすく声音が弾んだ彩花に玲央が笑みを落とす。

 二人並んで入店し、夕食時で込み合う店内を見回す。まだ空席があるようで、すぐに出てきた店員に案内された。ドリンクバーの目の前の勝手のいい席だ。

「なににしようかな~」

 楽しげにメニュー表を開く。何度も通っているから大体のメニューは把握しているが、こういうファミレスはグランドメニューのほかに期間限定のメニューもあるので、チェックは欠かせない。

 一方で玲央はいつも通りのものを頼むつもりなのだろう。メニュー表を開くことなくにこにこと彩花を見つめている。
 焦げ茶色の穏やかな瞳に彩花が移りこむのを見ると少しだけ心臓が跳ねる。

「え、えっとね! 私これにする! グランドメニューのハンバーグ&チキン! パンのセットにしようかな」

 前世を思い出してから、主食にご飯ではなくパンを好むようになった。明確な好みの変化が表れていることに周囲が驚いていることを本人だけが知らない。

「俺はいつも通りグラタンにする。今日は三つだな」
「よく食べるよねぇ」

 ファミレスでは決まってグラタンを注文する姿にも慣れている。
 同じメニューを複数チュモンするのは、一つではお腹いっぱいにならず食べ足りないかららしい。いっぱい食べられるならいろんな味を試せばいいのに、と彩花は思うがそこは個人の嗜好の範囲なので口を出したことはない。

 テーブルに置かれたチャイムを鳴らして店員を呼ぶ。すぐにやってきた店員に手早く注文を済ませた。ドリンクバーもセットにしてくれたので、礼を伝えて彩花はドリンクを取りに席を立つ。

「お義兄ちゃんはなにがいい?」
「……いや、自分で取りに行く」
「そう?」

 今までなら「ウーロン茶で」と言われる場面で遠慮され、彩花は首を傾げた。
 とはいえ、追及するほどのことでもない。一つ頷いて自分の分としてアイスティーを取る。

(前世では冷たい紅茶っていう発想がなかったのよね)

 そもそもアイスティーの文化自体日本特有のものだ。海外では受け入れられないと聞く。アイスティーに対し「クレイジー」と告げる外国人の気持ちはわかるなぁと思いつつ、彩花は氷を入れたグラスになみなみとアイスティーを注いだ。

 彼女にとってアイスティーは幼い頃から慣れ親しんだものであると同時に、目新しい興味の対象でもあった。
 記憶を取り戻してから、色んなところのアイスティーを試すのにすっかりはまっている。

「おまたせー……?」

 ドリンクの入ったグラスを片手に振り返った彩花は目を見開いた。
 見知らぬ女性と親しげに話す玲央の姿が目に飛び込んできたからだ。
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