【完結/R18】前世で王女だった女子大生は、近衛騎士の生まれ変わりの義兄に溺愛される

久藤れい

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5話

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 ドリンクの入ったグラスを片手に黙って席に着く。
 存在をアピールする彩花に、オフィスカジュアルな格好をした二十代半ばほどに見える女性がふわりと微笑んで疑問を口にする。

「あら、こちらのお嬢さんは?」

 首を傾げた拍子にさらりと揺れた茶色の髪。
 背中まで綺麗に伸ばされた髪は丁寧に手入れをされているらしくさらさらと彼女の動きに沿って動く。
 テーブルの前に立って玲央と談笑していたらしい女性を無視し、彩花は玲央に問いかける。

「この人は?」
「え、ああ。同僚の水無瀬さんだ。水無瀬みなせさん、こちらは妹の彩花です」

 敬語を使うということは玲央と同期か上なのだろう。後輩ではないと判断して、彩花は小さく頭を下げた。
 玲央の評判を落とすわけにはいかない。

「初めまして、銀城彩花です」
「初めまして。ずいぶん可愛い妹さんね」
「ええ、自慢の妹です」

 玲央は外で彩花を紹介するとき『義妹』という言い回しは使わない。
 ややこしい家族関係を説明するのが面倒なのだろうし、今まで気にしたこともなかった。けれど。

(……絶対この人、玲央のこと狙ってる……!)

 女の勘と呼ぶべきものが、目の前の女性は敵だと伝えてくる。
 僅かに据わった彩花の眼差しに気づいているのかいないのか、恐らく気づいていてあえて無視をしながらころころと水無瀬が上品に笑う。

「ずいぶん可愛がっているのね。もしかしてシスコンだったりする?」

 からかい交じりに告げられた言葉に玲央の耳が赤く染まる。
 否定の言葉がでてこなかったことに彩花がほっとしていると、水無瀬が目を細める。その瞳には面白くないという感情が浮かんでいる。

「ふーん、なるほどね」

 猫のように細められた口から失望の色が滲んだ言葉が吐き出された。
 確かに女性にとって意中の男性がシスコンであるのは原点大賞だろうな、と彩花は冷ややかに考える。
 その程度で玲央を諦める人間に渡す気はさらさらない。

「じゃあ、銀城くん、妹ちゃん。またね」

 退散することに決めたらしい水無瀬がひらりと手を振った。颯爽と立ち去る後ろ姿に思わず毒を吐く。

「私は彩花だって」

 名乗ったのに、あえて『妹ちゃん』と呼ばれたのは釘を刺されたようで腹が立つ。お前はあくまで『妹』なのだと。

 はあ、と大きくため息を吐くと、珍しく玲央がおろおろとしていた。彩花の感情の変化に敏感な玲央は、先ほどの女性特有のやり取りの裏がわからずとも彩花が不快であることは察しているらしい。

 沈黙が落ちる。アイスティーを少しずつ口に含んでいると、玲央が大きなため息を吐きだした。

「……彩花」
「なぁに?」

 弁明があるなら聞いてあげてもいい。
 そんな上から視点を持ちながら、彩花は問い直す。玲央の視線が少しだけ泳いで、それからぽつりと言葉が落とされた。

「……他人だから」
「わかってるよ」

 それが玲央の示せる精一杯の誠意なのだろう。彩花は穏やかに笑い返して、ウエイターが持ってきた料理に手を付けるのだった。





 結局、玲央はグラタンの三皿のあとにさらに一皿を追加した。それをみていたらまだ食べれる気がして彩花はフライドポテトを追加注文したが、半分で根を上げ玲央に食べてもらうことになった。

 お腹いっぱい、とにこにこしながらファミレスを出たのは入店してから一時間ほどたってからで、六月特有の長い日照時間も終わり、すっかり辺りは暗くなっていた。

「家まで送っていく」
「ありがとう!」

 駅まで歩きながらされた提案に、まだ一緒にいられるのが嬉しくて彩花はにこりと笑う。
 そしてふと思いついたことをそのまま口にした。

「ねえ、実家で一拍していったら? まだ着替えとかあるでしょう?」
「……いや、止めておく」

 どうせ明日も会う約束をしていたのだ。泊まって行けばいい。
 一駅しか違わないのだから着替えを取りに行ってもいい。
 彩花の提案は、けれどつかの間の逡巡の末に却下された。ぽんぽんと大きな手のひらが頭を撫でる。

「……片付けが終わってないんだ。帰らないと」
「そっか」

 斜め下を向いた視線が答えを言っているようなものだが、ぐっと飲み込んで彩花は微笑んだ。
 その笑みは、きっと『彩花』ではなく『アリエット』の笑みに近かっただろう。

 玲央が息を飲む。
 気づいていたけれど、気づかないふりをした。

 笑みの種類が違えば別人のように見えることは前世で知っていたから。
 きっと玲央は突然目の前に見知らぬ女がでてきて戸惑っているだけだ。

(記憶があるかもなんて、期待しちゃダメ)

 玲央に記憶があるならば、彼は彩花を遠ざけるような真似はしないはずだから。
 ちくりと痛んだ胸を無視して、彩花は少しだけ速足になった。くるりと玲央の前で振り返ってとびっきりの笑顔を作る。

「じゃあ! 終電まで一緒にゲームしようよ! 久々に!」

 彩花はゲームにはあまり興味はないが、玲央と一緒の時間を過ごしたいという理由でお小遣いをためてゲーム機を持っている。
 パーティーゲームをしよう、と強請ると玲央はこわばった表情を崩して柔らかく笑った。

「ああ、それなら」
「やったー!」

 わざと子供らしく感性をあげる。彼の中では彩花はまだ幼い子供のイメージが強い。それを知っているから。





 一週間ぶりに玲央と二人でゆっくりと過ごせる。
 そう思って帰宅した家の玄関先で、彩花は隣に住む幼馴染に遭遇した。
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