【完結/R18】前世で王女だった女子大生は、近衛騎士の生まれ変わりの義兄に溺愛される

久藤れい

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17話

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 水無瀬という名の玲央の同僚だとすぐに気づいた。
 けげんな表情で「兄はいませんが」と応じた彩花に水無瀬は「話があるのは貴女よ」というので、エントランスで騒がされても面倒だとロックを解除した。

 玄関を開けて待っていると、エレベーターで上がってきた水無瀬が高いハイヒールをこつこつとコンクリートに打ち付けるようにして歩いてくる。

 眉を顰めた彩花の前までやってきて、水無瀬は眉を吊り上げた。正面から見下ろされるように立たれると、元々長身なのとヒールが相まって威圧感があった。とはいえ、其の程度で怯む彩花でもない。

「貴女、玲央くんの妹よね?」
「……そうですね」

 今更の確認に一拍おいて頷く。
 本当は『彼女』だと伝えたいところだが、下手な噂が広がっても面倒だ。

「下の名前、彩花、よね」
「そうですが」

 いったい何なのだ、と眉間の皺を深くした彩花の前で「ありえないんだけど!」と水無瀬がヒステリックに叫ぶ。
 突然大音量で叫ばれて驚き目を見開いた彩花の前で、彼女はガリガリと髪を乱雑にかきながら頭を左右に振る。

「近親相姦?! ありえない!!」
「私と玲央は血は繋がっていません」
「でも兄妹じゃない!!」

 さらに叫んだ水無瀬が、ぼさぼさの髪のまま彩花を睨む。
 カラコンが淹れられている影響で不自然に大きな瞳が言葉より雄弁に彼女を責め立てている。

「アンタが引きなさいよ! 玲央くんには私みたいな大人の女性が相応しいのよ!!」
「貴女が玲央のなにをしっているんですか」

 思わず唸るような声が出た。
 彩花が少なからず気にしている『義兄妹』を持ち出して『自分の方が相応しい』と主張されるのは、かつてないほど不愉快だ。

 胸の中でとぐろを巻くように燃え上がる怒りを抱えて、水無瀬を睨む。彼女は負けじと強い眼差しで彩花を射抜いた。

「義理とはいえ兄と妹よ! 世間が認めないわ!!」

 だから諦めろと水無瀬は言う。
 だが、彩花からすれば。

 前世で身分の差で引き裂かれた彼女からすれば、両親の再婚によって書類上だけ義理の兄妹であることなど、あまりにささやかな壁だった。

「黙りなさい。あの方に相応しいのはわたくしです」

 凛と声を張り上げる。怒りのあまり前世の口調が跳び出した。
 彩花の思わぬ言葉遣いに、水無瀬が目を見開く。しかし、すぐに人工的な茶色の瞳に怒りが宿る。

「何様のつもり?!」

 再び神経質に大声をあげた彼女に、面倒だな、と冷えた頭で考える。
 このままここで怒鳴られ続けると、近隣の迷惑になるし、なにより玲央の肩身が狭くなる。内容が内容だけに、粗相に話を切り上げるべきだった。

 ぎりぎりと奥歯を噛みしめて、酷い眼差しで彩花を睨む年上の女性に、彼女はいっそ残酷なまでに優美に微笑む。王女として育てられた前世があるからこそ浮かべられる、絶対王者の笑み。

「お帰りなさい。貴女はお呼びではありません」

 毅然とした態度を崩さない彩花に水無瀬が唇を噛みしめる。そしてさらに怒鳴りつけようとした彼女の背後に佇んだ人影に、彩花は甘やかに微笑んだ。

「お帰りなさい――玲央」

 先ほどとは同じ言葉を、まったく違う温度で口にする。
 彩花の言葉に水無瀬が驚いたように後ろを振り返った。
 そこには足音を殺して近づいてきた玲央が、明確な怒気を孕ませて佇んでいた。

「れ、玲央くん……!!」

 背後にそびえるように立つ玲央の存在に、水無瀬が焦ったように髪を撫でつけ整える。
 気にするのはそこではないだろうと思いつつ、彩花は彼女の存在をまるっと無視して玲央に微笑みかける。

「お仕事は大丈夫?」
「ああ。同僚から不穏な話を聞いて帰ってきたんだ。――水無瀬さん」
「え、ええ!」

 上ずった声をあげて水無瀬が振り返る。
 こんな場面でも声をかけられて嬉しいと感じてしまうのは、恋する乙女の性なのだろう。

 少なからず気持ちがわかってしまって嫌だ。
 浅くため息を吐きだした彩花の前で厳しい視線を水無瀬に注ぎながら、玲央が口を開く。

「俺の大切な人に手を出さないでくれ。次はない」
「なっ」
「貴女の声は聞こえていた。俺たちにとって、義兄妹など、障害にもならない」
「っ!」

 きっぱりと断言した玲央の言葉に水無瀬が言葉を失っている。
 彼女を追いだすように彩花との間に割り込んだ玲央が、軽く水無瀬を突き飛ばした。

「えっ」
「帰ってくれ。二度と俺の前に姿を見せるな」

 そう告げて、玲央は容赦なく玄関の扉を閉めた。
 水無瀬の絶望した表情を見つめつつ、彩花はなにも伝えない。恋に破れた女に、かける言葉を持ち合わせてはいなかった。





 軽い音を立てて閉められた玄関の鍵を後ろ手に掛けた玲央が、たまらずといった様子で彩花を抱きしめてくる。たくましい背中に手を回して、落ち着かせるように撫でた。

「生きた心地がしなかった……!」
「玲央?」
「貴女に、お前に、なにかあったらと……! そんなことになれば、私は生きていけない!!」

 前世と今世が混ざった悲痛な悲鳴に、彩花は眉を寄せた。
 玲央がそこまで動揺するほど水無瀬は危険な存在だとは思わない。むしろ、悠真のほうがよっぽど酷かった。

 玲央が落ち着くまで背中を撫で続けた彩花は、おもむろに顔をあげた玲央に抱きかかえられた。
 足に引っかけていたミューズがするりと脱げて玄関に散らばる。

「彩花が無事だと確かめさせてくれ」
「うん」

 どこか縋るような響きを孕んだ切実な懇願を拒絶する理由はない。一つ頷いて玲央の首に両手を回す。
 そのまま玲央は少し前まで二人で横になっていたベッドに戻った。
 シーツを変えていないので、昨夜のままだが玲央には関係ないらしい。

 丁寧な手つきで彩花をベッドに降ろすと、そのまま圧し掛かってくる。
 スーツ姿の玲央に迫られるのは初めてで、きゅんとお腹の奥が甘く疼く。

「玲央……めちゃくちゃに、して?」
「っ」

 生唾を飲み込んだ玲央の肩に手をかけて、頬に触れるだけのキスをする。
 優しい手つきで後ろに倒されて、彩花は微笑んだ。

「ロジェの分も、玲央の全てを、受け入れてみせるから」
「貴女という人は……!!」

 乱雑にネクタイを抜き取って後ろに投げ捨てる姿にすら腰の奥がきゅんと疼いて仕方ない。
 艶やかな黒髪をベッドに散らして、彩花は笑う。

「きて」

 両手を伸ばすと、飛び込むように玲央が彩花を抱きしめた。
 大きく深呼吸をして彩花の匂いを堪能する玲央の頭を撫でる。

(ああ、幸せ、だわ)

 女としての幸せを噛みしめながら、彩花は甘く笑み崩れた。
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