異母妹にすべてを奪われ追い出されるように嫁いだ相手は変人の王太子殿下でした。

あとさん♪

文字の大きさ
18 / 66

18.国王夫妻との晩餐会

しおりを挟む
 
 結果から言えば。
 国王夫妻との晩餐会は無事に乗り切った。
 食事はきちんと取った。リラジェンマは。
 リラジェンマの率直な感想としては、とんでもない現場に立ち会ってしまった、というところだ。

 国王夫妻とウィルフレードとリラジェンマの四人だけという身内のみの小規模な食事会で、テーブルの上にすべての料理を載せたあと給仕の者たちも下がらせた。
 その完全プライベート空間になったあと、始まったのは父と息子による親子喧嘩だった。


 リラジェンマが名乗ったあとから空気がひんやりとした。

「リラジェンマ・ウーナという名前の姫君は、ウナグロッサの世継ぎの姫ではなかったかな」

 そう尋ねた国王陛下はウィルフレードと同じ黄水晶シトリンの瞳とブルネットの髪を持つ壮年のスマートな男性であった。
 口ひげを生やした男らしい風貌の陛下のこめかみには青筋が一本立っているように見える。

 どうやら、ウィルフレードが一軍を率いてウナグロッサに宣戦布告した事実を、グランデヌエベの国王夫妻は知らなかったらしい。

 国王夫妻の認識では。
 ある日急に王太子ウィルフレードは『花嫁を迎えに行ってきます』と言い残し、一個師団を連れて出ていったらしい。
 それまでのウィルフレードは結婚なんて興味なさげで、嫁どころか婚約者の選定さえしなかった。どんなに候補者を集めてみても『気に入らない』『相応しくない』と追い返した。他国からくる見合い話の釣り書きを見せても同様。王統を継ぐのはお前なんだぞと叱責したところで『弟か弟の子に継がせればよいでしょう』という答えを返す始末。

 そんな王太子が、急にその気になったとは! と国王夫妻は驚いたらしい。
 そして『誰を嫁に選んだのだ』と大騒ぎになったのだとか。
 それが『宣戦布告』をし『王太女』の姫を連れて来たのだから、国王が怒り出すのも当然だろう。




「お前はどうしてそう勝手なことをしたんだ! 国際問題じゃないかっ! せめて何をする気だったのかこの父に報告をしろ!」

「それは今しています」

「ウィルフレード!」

(怒鳴り声って、ちょっと怖い……わたくしの前でこんな大声だす人間なんて皆無だったもの)

 威風堂々とした国王陛下の怒鳴り声と、それをどこ吹く風とばかりに受け流す飄々ひょうひょうとした王太子。成人男性のこんなやり取りを聞くのが初めてのリラジェンマは内心びくびくしてしまう。

「リラジェンマ姫。こちらのお肉、取り分けましょう。もっと召し上がれ」

 緊張するリラジェンマを気遣ってか、王妃がおっとりと優しく話しかける。自分の夫と息子が怒鳴りあっていることなど耳に入っていないが如く。

(えぇと……王妃殿下はこの喧嘩に参入する気はない、というわけですね?)

 ウィルフレードと同じ金髪の王妃は先ほどからリラジェンマの世話をするのに余念がない。
 というか、むしろ嬉々として給仕をしたがる様子はおままごとに勤しむ幼女のように可憐である。彼女の顔立ちはウィルフレードにそのまま受け継がれたようで、特にその切れ長の一重がそっくりだ。ただ薄い紫色の瞳のせいで受ける印象がまるで違う。
 王妃は凛とした中に甘いスパイスを混ぜ込んだような不思議な雰囲気。
 ウィルフレードの黄水晶シトリンの瞳は、なんでも見通しそうな冷たさも感じる。


「戦になったらどうするっ⁈」

「なりませんしさせません。もしなっても負けません」

「こちらのお魚も美味しいわよ」

(……なんなの、この空間……)


 いっそ小気味よいと感じるほど続く国王と王太子の口喧嘩を聞くともなしに聞いていたら、だいたいの事情は理解した。

 ウィルフレードが行った突然の宣戦布告は、あくまでもウナグロッサの王宮へそういう名目の書状を送っただけで、実際のところメルカトゥスの街を攻撃などしていないらしい。あの街へは『花嫁を迎えに来ました』と言って占拠、もとい、滞在したのだとか。
 だからこそウィルフレードのあの盛装姿だったのだ。
 国境検問所や街の代官たちはあっさりウィルフレードの口車に乗り、きっちり軍備を整えた一個師団の侵入を認めたというのだから、リラジェンマとしては眩暈に襲われる。

(王太子本人がいるのだから、それくらい厳重に警備していても……って思ったのかも? とはいえ、そんな名目で一軍の侵入を許すなんて、なんのための国境警備よ。機能していないじゃないっ)

 メルカトゥスの街の住民には一時的に外出禁止を命じていたらしい。代官には姫本人が来たらお祭りにしましょう、それまではサプライズにしたいから隠れていてください、などと丸め込んだのだとか。
 そうしてテントを張った翌日にリラジェンマが訪れてウィルフレードたちもびっくりしたらしい。
 彼としても2~3日滞在すると想定していたのだとか。ここまで迅速に世継ぎ姫を差し出すなど、逆になにか裏があるのかと一目散に逃げてきたのが実情だとか。

「早く逃げろと佑霊たちが急がせるものだから、余計に」

「そうか。それなら仕方ないな」

(……はい? 『仕方ない』で済ますの?)

 国王陛下も王妃殿下も、ウィルフレードの言った言葉に驚く様子もなく平然と聞いている。

(お二方とも、ウィルが佑霊の言葉を聞けるという事実は当たり前のこととして受け止めているのね)

 それになによりこの部屋は人払いが済んでいる。親子間ではウィルフレードの特殊能力は既知なのだろう。

「あの、ウィル。質問しても?」

「なんだい?」

 リラジェンマが恐る恐る口を開けば、ウィルフレードは笑顔で彼女に対応した。しかめっ面をした父親から解放される道だと思ったのかもしれない。

「もしかして、だけど。そもそも急にウィルがウナグロッサに来てわたくしの身を要求したのって……始祖……いえ、佑霊、の指示だった?」

「お。流石さすがだね。そのとおりだよ」

「どんな指示だったの?」

 肩を竦めながらウィルフレードが語る。

「佑霊、というか。精霊たちがね、うるさかったんだ。『来て。助けて。早く。お願い』と。彼らが一斉に喋ると言葉というより耳鳴りに近くてね。理解するのに苦労したんだ」

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

妹の身代わりに殺戮の王太子に嫁がされた忌み子王女、実は妖精の愛し子でした。嫁ぎ先でじゃがいもを育てていたら、殿下の溺愛が始まりました・長編版

まほりろ
恋愛
 国王の愛人の娘であるアリアベルタは、母親の死後、王宮内で放置されていた。  食事は一日に一回、カビたパンやまふ腐った果物、生のじゃがいもなどが届くだけだった。  しかしアリアベルタはそれでもなんとか暮らしていた。  アリアベルタの母親は妖精の村の出身で、彼女には妖精がついていたのだ。  その妖精はアリアベルタに引き継がれ、彼女に加護の力を与えてくれていた。  ある日、数年ぶりに国王に呼び出されたアリアベルタは、異母妹の代わりに殺戮の王子と二つ名のある隣国の王太子に嫁ぐことになり……。 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。 ※中編を大幅に改稿し、長編化しました。2025年1月20日 ※長編版と差し替えました。2025年7月2日 ※コミカライズ化が決定しました。商業化した際はアルファポリス版は非公開に致します。

【完結】王太子に婚約破棄され、父親に修道院行きを命じられた公爵令嬢、もふもふ聖獣に溺愛される〜王太子が謝罪したいと思ったときには手遅れでした

まほりろ
恋愛
【完結済み】 公爵令嬢のアリーゼ・バイスは一学年の終わりの進級パーティーで、六年間婚約していた王太子から婚約破棄される。 壇上に立つ王太子の腕の中には桃色の髪と瞳の|庇護《ひご》欲をそそる愛らしい少女、男爵令嬢のレニ・ミュルべがいた。 アリーゼは男爵令嬢をいじめた|冤罪《えんざい》を着せられ、男爵令嬢の取り巻きの令息たちにののしられ、卵やジュースを投げつけられ、屈辱を味わいながらパーティー会場をあとにした。 家に帰ったアリーゼは父親から、貴族社会に向いてないと言われ修道院行きを命じられる。 修道院には人懐っこい仔猫がいて……アリーゼは仔猫の愛らしさにメロメロになる。 しかし仔猫の正体は聖獣で……。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2021-九頭竜坂まほろん」 ・ざまぁ有り(死ネタ有り)・ざまぁ回には「ざまぁ」と明記します。 ・婚約破棄、アホ王子、モフモフ、猫耳、聖獣、溺愛。 2021/11/27HOTランキング3位、28日HOTランキング2位に入りました! 読んで下さった皆様、ありがとうございます! 誤字報告ありがとうございます! 大変助かっております!! アルファポリスに先行投稿しています。他サイトにもアップしています。

辺境伯へ嫁ぎます。

アズやっこ
恋愛
私の父、国王陛下から、辺境伯へ嫁げと言われました。 隣国の王子の次は辺境伯ですか… 分かりました。 私は第二王女。所詮国の為の駒でしかないのです。 例え父であっても国王陛下には逆らえません。 辺境伯様… 若くして家督を継がれ、辺境の地を護っています。 本来ならば第一王女のお姉様が嫁ぐはずでした。 辺境伯様も10歳も年下の私を妻として娶らなければいけないなんて可哀想です。 辺境伯様、大丈夫です。私はご迷惑はおかけしません。 それでも、もし、私でも良いのなら…こんな小娘でも良いのなら…貴方を愛しても良いですか?貴方も私を愛してくれますか? そんな望みを抱いてしまいます。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 設定はゆるいです。  (言葉使いなど、優しい目で読んで頂けると幸いです)  ❈ 誤字脱字等教えて頂けると幸いです。  (出来れば望ましいと思う字、文章を教えて頂けると嬉しいです)

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。

アズやっこ
恋愛
 ❈ 追記 長編に変更します。 16歳の時、私は第一王子と婚姻した。 いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。 私の好きは家族愛として。 第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。 でも人の心は何とかならなかった。 この国はもう終わる… 兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。 だから歪み取り返しのつかない事になった。 そして私は暗殺され… 次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

処理中です...