堅物騎士団長は狼王子の番となる

風煉

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第一章

問答

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「まずは、初めましてですかね? 私はニーシャ・ガジェット、ロドス様の従者です」

淡々と事務的にかつ、無表情でニーシャは語る。
とりあえず渡された着替えを羽織り、ようやくまともに活動できる格好になったディブロは従者を名乗る猫人と部屋にあったテーブルを挟んで椅子に腰かけた。
そこでようやく挨拶を交わすわけだが、いかんせん何がどうなっているのか、状況把握が追い付かない彼は質問しようとする。

「あの、ニーシャ殿? 質問をしてもいいだろうか?」
「はいっ何でしょうか?」
「色々あるのですが、まずここは何処なんですか?」
「アングラウス王国のサンクラム城、その客間の一室です」
「……アングラウス王国。 それではロドスはーー」
「ええっお察しの通り、ロドス様は我らが王国の王位継承権を有する御方です。 それと敬語は不要です、従者と言えど私は王家とは無縁の一般人ですので」
「いっいやっ、初対面の人間には礼を払うのは当然のことであってーー」
「……なるほど、あの人が気に入るわけだ」

緊張から片言気味に質問する人間に対して、ニーシャは一貫と表情を崩さずに言葉を紡いでいる。
やりづらいと思いつつも、ディブロは自分がいる場所を聞いたときは驚きで一杯だった。
アングラウス王国、自身のいた国からさほど離れてはいない場所にある、獣人たちが住む国として名を馳せている。
かつてはそれほど大きな国ではなかったが、何代か前に立った偉大な王を戴いてより急速に成長を果たした。
周辺国家も無視できないレベルだったが、現国王に至るまで無下に争う姿勢は見せず、友好関係を結ぶ国も出始めているのをディブロは耳にした覚えがある。
残念なことに故国は異端の国と見なし、近年は小競り合いが絶えず、かつ自分も何度か戦いを経験していた。

「次の質問、だが……、なぜ私はここに連れてこられたのだ?」
「すでにお聞きのはずでは? とはいえまだ正式に決まったわけではないですし、現状ですと貴方は捕虜、という区分になりますかね? 貴賓対応の」
「はっ、はぁっ?? 捕虜なのに、貴賓……?」
「そうです、とっとと首を跳ねられれば手っ取り早いのですが、貴方は殿下の番 最有力候補とあるのですから、厄介な話です」

次の質問をするためディブロは問いかけようとした時、少し言い淀んでから砕けた口調に変える。
ただ礼儀を払う必要はない、そう言われたものの曲がりなりにも貴族として教育を受け、騎士でもある自分が礼を欠くなどあるまじき行為と心が己を糾弾してきた。
けれど現状、なぜ自分が敵国に連れてこられたのか明確ではないため、舐められるわけにもいかないのもまた事実。
単刀直入に問うと、本当に心底困ったような、呆れたような顔をニーシャと名乗った猫人が眉間を押さえていた。
それもそのはず、捕虜なのに貴賓対応、さらにやっぱりとばかり出てきたその単語にディブロの背筋に悪寒がはしる。

「まっ、待ってくれ……。 つ、番とは、そのっあれだよな? つまるところ婚姻関係に当たるということ、ですよね?」
「混乱してますね、ええっその通りです。 一先ずおめでとうございます、とだけ言っておきますね」
「すまない、そんな死んだ魚の目のような疲れきった顔で言われても説得力がないのだが……」
「そりゃそうですよ、私だって訳が分からないんですから。 ホント貴方を消せればどれだけ心労が軽くなることか……」

顔色青く聞くまでもないのだが、改めて問うとニーシャも顔色暗く無表情で拍手を送る。
言葉と態度が相反しているのだが、言葉の節々に不穏な単語が混ざっているので迂闊なことを言えば何をされるか分からなかった。
本能からそのことには触れるなと囁く危険信号に従いつつも、冷静に聞けることは聞いておくべきとディブロは次の質問をしようと投げる。

「……まだいいか?」
「どうぞ、というより早くしてください。 殴っていいですよね?」
「いやっ良くないわっ!? 君っさっきから暴力的な発言が垣間見せすぎてはいないかっ!?」
「ちっ……。 当たり前ではないですか、仮にも貴方は今現在、停戦しているとはいえ敵国の騎士だった人間です。 不快なのはいうまでもありませんね」
「……そうだな、それは尤もだ」
「けれど、貴方が見逃してくれた子供達は無事保護できましたので、それは感謝していますよ。 ありがとうございます」
「ーー当然のことをしたまでだ。 私は、無辜の人々を虐殺するために剣を振るっていたわけではないのだから」

おずおずと挙手して問うと、どうやら面倒になってきたのかニーシャは直球すぎるくらいに殴打させて欲しいと請願してくる始末。
拳を鳴らしている辺りが不穏極まりなく、思わずディブロは素になってツッコミを入れるとワザとらしくかつ聞こえるように猫人は舌打ちをした。
本当に王子の従者なのかと疑いたくなるが、次の言葉にこちらへの嫌悪感がどうして強いのかと遠回しに伝えられれば、納得するしかない答えが返ってくる。
故国とアングラウス王国が戦争一歩手前の紛争はかれこれ数年に渡っているのだが、ニーシャの発言では停戦になったことを聞かされて驚きを隠せなかった。
投獄されてからの動きは詳しく聞かされていなかったのだが、何かあったのは間違いなく、そしてずっと気がかりだった事を口に出してくれたので、安堵する。

「それで、質問はなんですか?」
「……聞きたかったのは別にあったんだが、これにする。 どうして急に停戦へ? 何があったんだ?」
「貴方です」
「はっ?」
「貴方の処刑が決定したことで、殿下が阻止するために強硬策を取ったんです、ええっそれはもういきなりすぎて思わず張り倒したくなるくらいに……」
「ーーえっと、その……す、すみません……?」
「謝らないでください。 あぁっダメだ、やっぱり後で張り倒そう、うんそうしよう」

気になることは沢山あるが、緊張関係が抑えられる要因はなんなのかもっと気になることがあったので尋ねる。
するとニーシャは迷いなくディブロを指差し、全ての因果は貴方にあるとばかりの態度だった。
キョトンする騎士を尻目に、何かを思い出した従者は暗い顔つきでふつふつと、目に見えて怒りを滾らせている姿に思わず尻込みしてしまう。
とりあえず謝罪しておくと、何度目かの眉間を押さえたところで彼の中で何かを決定させてしまったようだ。
心の中でそっとかつての部下、そして今の関係性がとんでもないことになっている彼に届かぬ謝罪を送る。

「さて、一旦私は退室します。 後ほど簡単な食事など運ばせますので、そちらを食べてください」
「あっその、待ってくれ」
「ーーまだ何か?」
「すまない、そのっ……もし可能なら頼みたいことがあるんだが、いいか?」

気を紛らわそうとポケットの中にしまっていた懐中時計を取り出したニーシャが時刻を確認すると、長居しすぎたことに気づいてゆっくりと立ち上がる。
一先ず問答は終了した、ように思われた中でディブロが呼び止めた。
何事と尋ねれば頼み事があると言われたために従者の顔は難しくなる。
その先に待つ言葉がかなり無理難題な事を当人のみならず、彼も察するのに時間は掛からなかった。
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