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第一章
目覚め
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「……夢? ずいぶんと懐かしい夢だったな」
閉じていた瞳を開け、先ほどまで意識が集中していたであろう夢の内容を思い出しながらディブロは呟く。
その記憶は懐かしくもあり、同時に彼の心に暗い影を落とした日々の一端でもあった。
なぜ今になってあの頃の事を思い出したのか、そう呆ける頭で考え込もうとするが、それよりもまず目の前の光景を疑う。
広がっていたのは見慣れる天井で、最後の記憶に見た石の牢屋とはかけ離れた清潔感のある豪奢な造りをしていた。
貴族ではあったものの、爵位はそれほど高くはなく、質素な生活をしていた部類だったのでここが実家というわけではないのだろう。
ゆっくりと体を起こせば、温かな布団に包まれ柔らかなベッドはもちろんとして、天蓋付きだったのも驚きを隠せなかった。
ベッドがある部屋はとても広く、まるで王族が住うようなところだったので辺りを見回していると、無視できない気配を感じる。
そっと視線を向けた先、つい先ほどまでディブロが横になっていた場所のすぐ隣に、見慣れない銀狼が瞳を閉じていた。
これは誰だ、そう思案するがそういえばこれはかつて自分の部下だった男の真の姿だと紹介されていたのを思い出す。
そこまではいい、だがどうして彼がここで寝ているのか、それと自分はどうしてこんなところにいるのか、分からないことだらけだった。
頭を抱えて考えるが、ディブロの記憶は途中で絶えてしまい、ここに至るまでに何があったのかを知らない。
冷静になろうと自分の姿を見る、そこでようやく気づいたのか自分が何も身につけておらず、生まれたままの姿をしているという事実だ。
服はどうした、いやその前にどうして裸で寝ているのか云々と疑問が増えるものの、まさかそんなと恐る恐る布団を上げようと手を伸ばす。
刹那、伸ばした手首がガシリと掴まれると勢いのままにベッドへ押し倒されてしまうディブロの視界が反転した。
「ーーうわっ!? なっ、おっおまっ……!」
「おはようございます、ディブロ殿。 朝から誘っていただけるなんて私としては感激ですね。 では目覚めの挨拶も兼ねてーー」
「ろ、ロドス!? 違う、というか何がーー、んんっ!?」
慌てる暇も与えられないまま、ディブロはあっという間に組み敷かれてしまい、覆い被さるのは他でもない銀狼ことロドスである。
いつから起きていたのか、それとも最初からかは彼のみぞ知るところだが、それは些末な問題だ。
やることは一つしかない、そう言わんばかりにゆったりと目覚めの挨拶を交わせば当然とばかり、狼は獲物の味を貪るようにその口を奪う。
突然の展開に思考が追いつかないディブロは獣人の、それも雄に接吻されている事実に強烈な抵抗感が沸き上がった。
なんとか離れようとするが、地力の差が圧倒的なまでにあるのかビクともせず、抑え込まれてしまう。
人間のか弱い抗いに関心などないと言わんばかりに、ロドスは狼ならではの長い舌を自由自在に扱ってディブロの咥内を這い回った。
舌を絡め弄び、鼻息が顔を撫でてくるのも刺激となって興奮を高めていく。
そうして満足したのか、襲い掛かった本人が静かに離れていくと、乱れた呼吸を整えるのに必死なディブロが恍惚とした表情を浮かべつつ怒気を顕にした。
「お、お前! いきなり何するんだ! お、男にキスなんかして、どうかしているんじゃないか!?」
「……何か勘違いしていませんか?」
「はぁっ?」
「貴方は私の番になったんですよ、ならば肉体的接触をするのは当然ではないですか。 私が変態みたいな言い方は心外ですね」
「つ、番って……! 俺はーー」
「朝から盛っているところ申し訳ありませんが、もういいですか?」
両手首を抑えられてはいるものの、棋士としてのプライドもあってディブロの怒りは至極当然とばかりぶつけられる。
しかし当のロドスにとっては何が問題なのかと、怒られているのが理解できないとばかり取りつく島もなかった。
そこで段々と思い出してきたのか、番という言葉に対して仔細を求めようとした時、横から別の声が聞こえてきたので固まってしまう。
ディブロだけでなく、ロドスも一緒に振り向いた先にはベッド傍の椅子に腰掛け、しばらくいたように本を静かに閉じる猫人の男性が呆れた目つきで見ていた。
いつからそこに、気配を全く感じなかったのもあってどこから見られていたのかと、良い大人である騎士団長は顔を真っ赤にしていく。
「おはようニーシャ。 相変わらず隠行が巧いな」
「おはようございます、ロドス様。 起きてこないので来てみれば、それを優雅に押し倒しているのですから、余程元気とお取りして構いませんね?」
「はっはっはっ、まぁその辺りはゆっくり話し合うとして、とりあえずディブロ殿の面倒を見てやってくれ」
「分かりましたから執務室へお急ぎください。 後ほど伺いますので、用意した書類の片付けをお願いしますよ」
「おっ、おいっロドス!」
「そういう訳なので、ディブロ殿。 私は仕事があるので一旦失礼しますね。 詳しいことはそこのニーシャに任せているので、彼に聞いてください」
ディブロを捨て置くように話をするロドスとニーシャと呼ばれた猫人の間には、一定の信頼関係が伺い知ることができる。
傍目からしても彼らの間には確固たる関係が築かれていることを察する間もなく、ロドスはサラリと解放してベッドから離れた。
そこから瞬く間に着替える彼は、仕立ての良い服を身に纏って颯爽と歩き出した。
追いかけようとするディブロだが、裸一貫では立つのもまずいとほぼ初対面の相手を前に股間を披露するのは躊躇われる。
それも計算してなのか、銀狼は涼やかに先ほどのことなど気にした様子もなく、爽やかさすら垣間見せて部屋から出て行ってしまった。
取り残された二人は静かに見合うと、片方は苦笑いを浮かべ、片方は表情を変えずに淡々と告げる。
「とりあえずこれに着替えてください。 話はそれからです、ディブロ・イングリッドさん」
閉じていた瞳を開け、先ほどまで意識が集中していたであろう夢の内容を思い出しながらディブロは呟く。
その記憶は懐かしくもあり、同時に彼の心に暗い影を落とした日々の一端でもあった。
なぜ今になってあの頃の事を思い出したのか、そう呆ける頭で考え込もうとするが、それよりもまず目の前の光景を疑う。
広がっていたのは見慣れる天井で、最後の記憶に見た石の牢屋とはかけ離れた清潔感のある豪奢な造りをしていた。
貴族ではあったものの、爵位はそれほど高くはなく、質素な生活をしていた部類だったのでここが実家というわけではないのだろう。
ゆっくりと体を起こせば、温かな布団に包まれ柔らかなベッドはもちろんとして、天蓋付きだったのも驚きを隠せなかった。
ベッドがある部屋はとても広く、まるで王族が住うようなところだったので辺りを見回していると、無視できない気配を感じる。
そっと視線を向けた先、つい先ほどまでディブロが横になっていた場所のすぐ隣に、見慣れない銀狼が瞳を閉じていた。
これは誰だ、そう思案するがそういえばこれはかつて自分の部下だった男の真の姿だと紹介されていたのを思い出す。
そこまではいい、だがどうして彼がここで寝ているのか、それと自分はどうしてこんなところにいるのか、分からないことだらけだった。
頭を抱えて考えるが、ディブロの記憶は途中で絶えてしまい、ここに至るまでに何があったのかを知らない。
冷静になろうと自分の姿を見る、そこでようやく気づいたのか自分が何も身につけておらず、生まれたままの姿をしているという事実だ。
服はどうした、いやその前にどうして裸で寝ているのか云々と疑問が増えるものの、まさかそんなと恐る恐る布団を上げようと手を伸ばす。
刹那、伸ばした手首がガシリと掴まれると勢いのままにベッドへ押し倒されてしまうディブロの視界が反転した。
「ーーうわっ!? なっ、おっおまっ……!」
「おはようございます、ディブロ殿。 朝から誘っていただけるなんて私としては感激ですね。 では目覚めの挨拶も兼ねてーー」
「ろ、ロドス!? 違う、というか何がーー、んんっ!?」
慌てる暇も与えられないまま、ディブロはあっという間に組み敷かれてしまい、覆い被さるのは他でもない銀狼ことロドスである。
いつから起きていたのか、それとも最初からかは彼のみぞ知るところだが、それは些末な問題だ。
やることは一つしかない、そう言わんばかりにゆったりと目覚めの挨拶を交わせば当然とばかり、狼は獲物の味を貪るようにその口を奪う。
突然の展開に思考が追いつかないディブロは獣人の、それも雄に接吻されている事実に強烈な抵抗感が沸き上がった。
なんとか離れようとするが、地力の差が圧倒的なまでにあるのかビクともせず、抑え込まれてしまう。
人間のか弱い抗いに関心などないと言わんばかりに、ロドスは狼ならではの長い舌を自由自在に扱ってディブロの咥内を這い回った。
舌を絡め弄び、鼻息が顔を撫でてくるのも刺激となって興奮を高めていく。
そうして満足したのか、襲い掛かった本人が静かに離れていくと、乱れた呼吸を整えるのに必死なディブロが恍惚とした表情を浮かべつつ怒気を顕にした。
「お、お前! いきなり何するんだ! お、男にキスなんかして、どうかしているんじゃないか!?」
「……何か勘違いしていませんか?」
「はぁっ?」
「貴方は私の番になったんですよ、ならば肉体的接触をするのは当然ではないですか。 私が変態みたいな言い方は心外ですね」
「つ、番って……! 俺はーー」
「朝から盛っているところ申し訳ありませんが、もういいですか?」
両手首を抑えられてはいるものの、棋士としてのプライドもあってディブロの怒りは至極当然とばかりぶつけられる。
しかし当のロドスにとっては何が問題なのかと、怒られているのが理解できないとばかり取りつく島もなかった。
そこで段々と思い出してきたのか、番という言葉に対して仔細を求めようとした時、横から別の声が聞こえてきたので固まってしまう。
ディブロだけでなく、ロドスも一緒に振り向いた先にはベッド傍の椅子に腰掛け、しばらくいたように本を静かに閉じる猫人の男性が呆れた目つきで見ていた。
いつからそこに、気配を全く感じなかったのもあってどこから見られていたのかと、良い大人である騎士団長は顔を真っ赤にしていく。
「おはようニーシャ。 相変わらず隠行が巧いな」
「おはようございます、ロドス様。 起きてこないので来てみれば、それを優雅に押し倒しているのですから、余程元気とお取りして構いませんね?」
「はっはっはっ、まぁその辺りはゆっくり話し合うとして、とりあえずディブロ殿の面倒を見てやってくれ」
「分かりましたから執務室へお急ぎください。 後ほど伺いますので、用意した書類の片付けをお願いしますよ」
「おっ、おいっロドス!」
「そういう訳なので、ディブロ殿。 私は仕事があるので一旦失礼しますね。 詳しいことはそこのニーシャに任せているので、彼に聞いてください」
ディブロを捨て置くように話をするロドスとニーシャと呼ばれた猫人の間には、一定の信頼関係が伺い知ることができる。
傍目からしても彼らの間には確固たる関係が築かれていることを察する間もなく、ロドスはサラリと解放してベッドから離れた。
そこから瞬く間に着替える彼は、仕立ての良い服を身に纏って颯爽と歩き出した。
追いかけようとするディブロだが、裸一貫では立つのもまずいとほぼ初対面の相手を前に股間を披露するのは躊躇われる。
それも計算してなのか、銀狼は涼やかに先ほどのことなど気にした様子もなく、爽やかさすら垣間見せて部屋から出て行ってしまった。
取り残された二人は静かに見合うと、片方は苦笑いを浮かべ、片方は表情を変えずに淡々と告げる。
「とりあえずこれに着替えてください。 話はそれからです、ディブロ・イングリッドさん」
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