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第二章
波紋
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何だかんだと打ち解けたラウジットと共に、少しの間話をしてから熊はロドスの下へ向かうため、廊下を歩いていった。
襲われたことはさておき、性格的には気が合うと思ったディブロが、去り際の彼へ今度一緒に飲もうと約束まで取り付ける。
それを見るからに憐れな物を見下ろすような瞳をしたニーシャと、呑めるかなぁとほんのり背筋を奔る寒気に熊が震えていたことなど、彼は知らなかった。
案内を終えた後は、用意された客間にて過ごすこととなり、運ばれてきた昼食を済ませ、夜に備えて仮眠を取るよう猫人にベッドへ押し込まれる。
少なからず疲労はあったようで、いつの間にか意識を落とし、気づいたときには陽が沈みかける時間になっていた。
「お疲れ様です、調子はどうですか?」
「んっ……、あぁっ問題ない」
「どうぞ、喉を潤してください」
「……ありがとう」
瞳を開け、オレンジ色の陽射しが差し込むのを確認したディブロへ、ニーシャが声をかける。
返事を確認すると、傍らに置いてあった水差しを取り、コップに注いでから毒見をするよう猫人が一口含んだ。
問題はないとして差し出されたコップを、体を起こした男が受け取り、乾いた体を潤していく。
「……ふぅ。 なんか心なしかスッとするな」
「統括長が用意したんでしょうね。 私も少し仮眠を取ってましたから」
「あの人か。 ニーシャ、疲れてるならもう少し休んでくれていいんだぞ?」
「貴方がそれを言いますか? ただでさえ番いの儀を終えたばかりなんですよ? お疲れだってこと、見抜かれていないと思っているんです?」
「……っ」
鋭い指摘に、ディブロは押し黙ってしまう。
正直な話起きてからずっと、全身が倦怠感に包まれ、動くのも億劫だと感じていた。
言葉にするのは気が引けると隠していたが、ニーシャの台詞から察するに、ロドスたちも気づいていたのかという心配である。
「……正直、怠くて仕方がないんだ。 番いの儀って、結局のところこの紋様を発生させる、みたいなものなのか?」
「平たく言えばそうですね、もっと厳密に言えば魂の繋がりを強めるってところですかね?」
「なんか、ものすごい超自然的な言葉だな……」
「そうですか? って、あぁそう言えばあの国は魔術を弾圧するお国柄でしたね。 私から言えることはこのくらいです、詳細は殿下にお尋ねください」
チビチビと喉を潤しつつ、ニーシャに質問をすれば答えてくれこそするが、どこか何かをはぐらかされているような気がする。
だからといってこの猫人相手に、口で勝てるとは思えないディブロは、それ以上問いただすことはしなかった。
従者自身も彼の口から話すつもりはないのは分かったので、不意に窓の外を眺める。
もうすぐ陽が完全に沈んでいく日没、あとは夜の到来を待つだけと思っていた男はふと、首筋に何か寒々とした何かを感じた。
何かが滴り落ちたのかと触っても違和感はなし、けれどずっとざわつくように感じる何かに、辺りを見渡してしまう。
「……? 何してるんです?」
「いや、何というか、その……首筋に変な感じがするんだ。 何かあるのかと思ったんだけど、何もなくてな」
「…… あの、ディブロさん。 その違和感ってどの方向を向いていたら強く出ますか?」
「はっ? えっと……、こっちだから、北か?」
「そうですか……、分かりました」
不審な動きをするディブロに怪訝そうにするニーシャだったが、出てきた言葉に引っかかりを覚える。
どの方角から強く違和感を覚えるのか確認すると、踵を返して部屋からでて行く猫人の背を男が見送った。
すぐ戻ってきたものの、その顔は険しいままになっている。
「どうやら悪い方向に傾きつつあるみたいです、いつでも移動できるよう準備していてください」
「えっ、それは……」
突然の事態に頭が追いつかないと、ニーシャの言葉にディブロが聞き返そうとした時だ。
城外、さほど離れてはいないが町から聞こえてくる轟音に、騎士としての危機感がすぐに状況を悟るよう警鐘を鳴らす。
猫人へ顔を向けると、首を縦に振り、何がおき始めているのかを暗黙の内に語り、男は急いでベッドから起き上がり立った。
「……俺は、逃げるしかできないのか?」
「貴方が魔術を行使できるのなら、戦前に出てもらいたいところでしょうね。 ですが敵が貴方そのものを目的とするなら、今は避難していただいた方が安全です」
「……分かった、任せる」
「ええっついてきてください。 正直、城内に間者が紛れている可能性も十分ありますので」
騎士としてなら少しは戦える、その自負はディブロ自身持っているが、ニーシャに出てはならないと警告される。
歯がゆさはあった、だが同時にディブロ本人の意思よりも底、本能と呼ぶべきものが今は逃げろと訴えているように思えた。
ならば自分はこの城、ひいては保護してもらったこの国に迷惑をかけないよう立ち回るしかない、そう自分に言い聞かせる。
響く剣戟と爆音、それがゆっくりと、確実に城へ向かってきているのを感じるのだった。
襲われたことはさておき、性格的には気が合うと思ったディブロが、去り際の彼へ今度一緒に飲もうと約束まで取り付ける。
それを見るからに憐れな物を見下ろすような瞳をしたニーシャと、呑めるかなぁとほんのり背筋を奔る寒気に熊が震えていたことなど、彼は知らなかった。
案内を終えた後は、用意された客間にて過ごすこととなり、運ばれてきた昼食を済ませ、夜に備えて仮眠を取るよう猫人にベッドへ押し込まれる。
少なからず疲労はあったようで、いつの間にか意識を落とし、気づいたときには陽が沈みかける時間になっていた。
「お疲れ様です、調子はどうですか?」
「んっ……、あぁっ問題ない」
「どうぞ、喉を潤してください」
「……ありがとう」
瞳を開け、オレンジ色の陽射しが差し込むのを確認したディブロへ、ニーシャが声をかける。
返事を確認すると、傍らに置いてあった水差しを取り、コップに注いでから毒見をするよう猫人が一口含んだ。
問題はないとして差し出されたコップを、体を起こした男が受け取り、乾いた体を潤していく。
「……ふぅ。 なんか心なしかスッとするな」
「統括長が用意したんでしょうね。 私も少し仮眠を取ってましたから」
「あの人か。 ニーシャ、疲れてるならもう少し休んでくれていいんだぞ?」
「貴方がそれを言いますか? ただでさえ番いの儀を終えたばかりなんですよ? お疲れだってこと、見抜かれていないと思っているんです?」
「……っ」
鋭い指摘に、ディブロは押し黙ってしまう。
正直な話起きてからずっと、全身が倦怠感に包まれ、動くのも億劫だと感じていた。
言葉にするのは気が引けると隠していたが、ニーシャの台詞から察するに、ロドスたちも気づいていたのかという心配である。
「……正直、怠くて仕方がないんだ。 番いの儀って、結局のところこの紋様を発生させる、みたいなものなのか?」
「平たく言えばそうですね、もっと厳密に言えば魂の繋がりを強めるってところですかね?」
「なんか、ものすごい超自然的な言葉だな……」
「そうですか? って、あぁそう言えばあの国は魔術を弾圧するお国柄でしたね。 私から言えることはこのくらいです、詳細は殿下にお尋ねください」
チビチビと喉を潤しつつ、ニーシャに質問をすれば答えてくれこそするが、どこか何かをはぐらかされているような気がする。
だからといってこの猫人相手に、口で勝てるとは思えないディブロは、それ以上問いただすことはしなかった。
従者自身も彼の口から話すつもりはないのは分かったので、不意に窓の外を眺める。
もうすぐ陽が完全に沈んでいく日没、あとは夜の到来を待つだけと思っていた男はふと、首筋に何か寒々とした何かを感じた。
何かが滴り落ちたのかと触っても違和感はなし、けれどずっとざわつくように感じる何かに、辺りを見渡してしまう。
「……? 何してるんです?」
「いや、何というか、その……首筋に変な感じがするんだ。 何かあるのかと思ったんだけど、何もなくてな」
「…… あの、ディブロさん。 その違和感ってどの方向を向いていたら強く出ますか?」
「はっ? えっと……、こっちだから、北か?」
「そうですか……、分かりました」
不審な動きをするディブロに怪訝そうにするニーシャだったが、出てきた言葉に引っかかりを覚える。
どの方角から強く違和感を覚えるのか確認すると、踵を返して部屋からでて行く猫人の背を男が見送った。
すぐ戻ってきたものの、その顔は険しいままになっている。
「どうやら悪い方向に傾きつつあるみたいです、いつでも移動できるよう準備していてください」
「えっ、それは……」
突然の事態に頭が追いつかないと、ニーシャの言葉にディブロが聞き返そうとした時だ。
城外、さほど離れてはいないが町から聞こえてくる轟音に、騎士としての危機感がすぐに状況を悟るよう警鐘を鳴らす。
猫人へ顔を向けると、首を縦に振り、何がおき始めているのかを暗黙の内に語り、男は急いでベッドから起き上がり立った。
「……俺は、逃げるしかできないのか?」
「貴方が魔術を行使できるのなら、戦前に出てもらいたいところでしょうね。 ですが敵が貴方そのものを目的とするなら、今は避難していただいた方が安全です」
「……分かった、任せる」
「ええっついてきてください。 正直、城内に間者が紛れている可能性も十分ありますので」
騎士としてなら少しは戦える、その自負はディブロ自身持っているが、ニーシャに出てはならないと警告される。
歯がゆさはあった、だが同時にディブロ本人の意思よりも底、本能と呼ぶべきものが今は逃げろと訴えているように思えた。
ならば自分はこの城、ひいては保護してもらったこの国に迷惑をかけないよう立ち回るしかない、そう自分に言い聞かせる。
響く剣戟と爆音、それがゆっくりと、確実に城へ向かってきているのを感じるのだった。
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