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第二章
進展
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「……こんなところですね。 こちらも対処しますが、予測不能なことは常に起こる可能性があるので、留意してください」
「あっあぁっ……」
「なぁ、なぁ~……、ニーシャ? ニーシャさん? ニーシャ様??」
「黙れバカ熊。 話しかけんな」
「いつにもまして酷いなお前!? 大体お前だってあの場から離れてたって言うんだから、俺だけが悪いわけじゃ!」
「……あっ?」
「あっいえっその……、ナンデモアリマセン」
来た道を戻り、来るであろう戦闘とそれに伴う避難について、確認も兼ねた打ち合わせをニーシャが行い、ディブロは耳を傾ける。
が、それと同じくらいに自分たちの後ろから、ノソノソと懸命についてくるラウジットの悲痛な声がとても痛々しかった。
物ともせず、斬り捨てるかのように冷酷な猫の態度に、恥も外聞もなく涙目になる熊の様子に、昨日の荒々しさがまるでないと、ディブロは悲しくなる。
とはいえ、番いというのもあって、冷たくされるのが悲しいのだと思いたくなるが、それにしてはニーシャの素っ気なさは見ている側ですら心が痛むほどだ。
ロドスと比べると全然違う、比べるべくもないことなのかもしれないが、それだけ彼が自分へ好意の枠を超えたものをぶつけて来ていると、理解することができる。
「なんて顔してるんですか、このメス犬」
「……!? こっ、こっちに矛先向けてくるなよ!?」
「緊張感無さすぎでは? 仮にも貴方、命はまぁ大丈夫かもしれないにしても、狙われてるって自覚なさすぎではありませんか? これとは全く違う、悪意と残虐にまみれた本物が、貴方を狙ってるんですよ?」
「そ、それは……、すまない……。 でも、本当に分からないんだ。 俺みたいな奴に、そんな価値があるのかって、今でも思うんだ……」
「それがイングリットの、ご家族のご意向だったのかもしれませんね。 そしてきっと、そこには紺碧の魔女も絡んでるんでしょう」
無性に会いたいと願ってしまったからか、付け入る隙ができたように、猫の毒は男へとその切っ先が向けられる。
怯むことないニーシャの様子に、ラウジットがさらに顔色を青く、ディブロは赤くと対照の反応を見せた。
だがその言葉には本気で心配する、従者なりの気遣いと叱咤が含まれており、確かに気が緩み過ぎだと男は落ち込んでしまう。
ここに来てからというもの、自分の周りが大きく変化しているせいもあり、自身がついていくことができず、どうすればいいのか分からずにいた。
そしてここでも、祖母の名が大きく肩にのしかかる。
「……おばあ様は、俺を守ろうとしたのか? それとも、家から遠ざけたかったのか?」
「さぁ、私には判断つきませんが、両方なのではないてすか?」
「でもそれだと、俺はみんなに守られていることにも気づかず、ただ傲慢になっていただけじゃないか!」
「私から多く語れることはありません。 そもそも魔女のことだってそんなに知ってるわけじゃないですから。 一つ助言できるとしたら、魔術を行使するというのは、それだけで畏怖の対象になるということです。 そういう意味で、貴方の祖母君も相当な苦労をされていると思いますよ」
溜まった不満と怒りは自分自身に向けたもの、それを消化するために、ニーシャへ憤りを思わずぶつけてしまう。
それを軽くいなすように、そして宥めるように彼の声が荒れる男の心へと響いた。
少し冷静に、視点を変えるだけで見えたのは、ディブロは優しげな祖母の姿しか覚えていないという記憶しかないことに気づく。
それまで何があったのかなど、聞こうともせず、知ろうともしてこなかったことは、彼の落ち度だ。
湧いた激情はゆっくりと波が落ち着くように、凪いだ海のように平静さを取り戻させる。
「……すまない、君にぶつけても仕方がないのにな」
「大丈夫ですよ、それ込みで貴方のお守りを任されているのですから。 あっ、だからといってむざむざ敵に捕まったら色々ともぎますから、そこは覚えていてください」
「ニーシャ、君は本当に良い性格してるよな」
「お褒めに預かり光栄です、お礼と言ってはなんですが、この肉袋の腹を存分に殴っていいですよ」
「ここに来てそういう扱いかよ!?」
「文句あるのか、発情熊。 てめぇのせいでこっちだって始末書の提出を命じられたんだ。 露頭に迷うなんて冗談じゃない」
「うっ……、すみま、せん……」
励ましてくれた、そう思った直後にトンデモ発言をぶちかまされて、ディブロはニーシャとの付き合い方を完全に理解してしまった。
捨て置かれていたラウジットにしても、自分絡みで関わった展開はアレだが、折角だからと男は熊へ手を差し出す。
「遅くなったが、ディブロ·イングリットだ。 よろしく、ラウジット殿」
「んっ!? あっ、んんっ……! アングラウム王国騎士団特攻隊所属のラウジットだ。 改めて、ようこそディブロ殿。 殿下の番い様になられた言祝ぎはまたいずれとして、我ら騎士が御身の安全を必ずや約束しよう」
し損ねていた自己紹介をされ、ラウジットは素直に驚いたものの、態度を改めて、差し出された手を掴んでお互いに握りしめた。
これにて一件落着したと良い雰囲気になったのは良きこと、それをニーシャは無表情のままじっと眺める。
「ディブロさん」
「なんだ?」
「これと遊ぶのは結構ですけど、避妊はきちんとしてくださいね。 殿下を敵に回したくないですから。 ラウジット、お前は命がないと思え」
『少しは空気を読んだらどうなんだ!?』
「あっあぁっ……」
「なぁ、なぁ~……、ニーシャ? ニーシャさん? ニーシャ様??」
「黙れバカ熊。 話しかけんな」
「いつにもまして酷いなお前!? 大体お前だってあの場から離れてたって言うんだから、俺だけが悪いわけじゃ!」
「……あっ?」
「あっいえっその……、ナンデモアリマセン」
来た道を戻り、来るであろう戦闘とそれに伴う避難について、確認も兼ねた打ち合わせをニーシャが行い、ディブロは耳を傾ける。
が、それと同じくらいに自分たちの後ろから、ノソノソと懸命についてくるラウジットの悲痛な声がとても痛々しかった。
物ともせず、斬り捨てるかのように冷酷な猫の態度に、恥も外聞もなく涙目になる熊の様子に、昨日の荒々しさがまるでないと、ディブロは悲しくなる。
とはいえ、番いというのもあって、冷たくされるのが悲しいのだと思いたくなるが、それにしてはニーシャの素っ気なさは見ている側ですら心が痛むほどだ。
ロドスと比べると全然違う、比べるべくもないことなのかもしれないが、それだけ彼が自分へ好意の枠を超えたものをぶつけて来ていると、理解することができる。
「なんて顔してるんですか、このメス犬」
「……!? こっ、こっちに矛先向けてくるなよ!?」
「緊張感無さすぎでは? 仮にも貴方、命はまぁ大丈夫かもしれないにしても、狙われてるって自覚なさすぎではありませんか? これとは全く違う、悪意と残虐にまみれた本物が、貴方を狙ってるんですよ?」
「そ、それは……、すまない……。 でも、本当に分からないんだ。 俺みたいな奴に、そんな価値があるのかって、今でも思うんだ……」
「それがイングリットの、ご家族のご意向だったのかもしれませんね。 そしてきっと、そこには紺碧の魔女も絡んでるんでしょう」
無性に会いたいと願ってしまったからか、付け入る隙ができたように、猫の毒は男へとその切っ先が向けられる。
怯むことないニーシャの様子に、ラウジットがさらに顔色を青く、ディブロは赤くと対照の反応を見せた。
だがその言葉には本気で心配する、従者なりの気遣いと叱咤が含まれており、確かに気が緩み過ぎだと男は落ち込んでしまう。
ここに来てからというもの、自分の周りが大きく変化しているせいもあり、自身がついていくことができず、どうすればいいのか分からずにいた。
そしてここでも、祖母の名が大きく肩にのしかかる。
「……おばあ様は、俺を守ろうとしたのか? それとも、家から遠ざけたかったのか?」
「さぁ、私には判断つきませんが、両方なのではないてすか?」
「でもそれだと、俺はみんなに守られていることにも気づかず、ただ傲慢になっていただけじゃないか!」
「私から多く語れることはありません。 そもそも魔女のことだってそんなに知ってるわけじゃないですから。 一つ助言できるとしたら、魔術を行使するというのは、それだけで畏怖の対象になるということです。 そういう意味で、貴方の祖母君も相当な苦労をされていると思いますよ」
溜まった不満と怒りは自分自身に向けたもの、それを消化するために、ニーシャへ憤りを思わずぶつけてしまう。
それを軽くいなすように、そして宥めるように彼の声が荒れる男の心へと響いた。
少し冷静に、視点を変えるだけで見えたのは、ディブロは優しげな祖母の姿しか覚えていないという記憶しかないことに気づく。
それまで何があったのかなど、聞こうともせず、知ろうともしてこなかったことは、彼の落ち度だ。
湧いた激情はゆっくりと波が落ち着くように、凪いだ海のように平静さを取り戻させる。
「……すまない、君にぶつけても仕方がないのにな」
「大丈夫ですよ、それ込みで貴方のお守りを任されているのですから。 あっ、だからといってむざむざ敵に捕まったら色々ともぎますから、そこは覚えていてください」
「ニーシャ、君は本当に良い性格してるよな」
「お褒めに預かり光栄です、お礼と言ってはなんですが、この肉袋の腹を存分に殴っていいですよ」
「ここに来てそういう扱いかよ!?」
「文句あるのか、発情熊。 てめぇのせいでこっちだって始末書の提出を命じられたんだ。 露頭に迷うなんて冗談じゃない」
「うっ……、すみま、せん……」
励ましてくれた、そう思った直後にトンデモ発言をぶちかまされて、ディブロはニーシャとの付き合い方を完全に理解してしまった。
捨て置かれていたラウジットにしても、自分絡みで関わった展開はアレだが、折角だからと男は熊へ手を差し出す。
「遅くなったが、ディブロ·イングリットだ。 よろしく、ラウジット殿」
「んっ!? あっ、んんっ……! アングラウム王国騎士団特攻隊所属のラウジットだ。 改めて、ようこそディブロ殿。 殿下の番い様になられた言祝ぎはまたいずれとして、我ら騎士が御身の安全を必ずや約束しよう」
し損ねていた自己紹介をされ、ラウジットは素直に驚いたものの、態度を改めて、差し出された手を掴んでお互いに握りしめた。
これにて一件落着したと良い雰囲気になったのは良きこと、それをニーシャは無表情のままじっと眺める。
「ディブロさん」
「なんだ?」
「これと遊ぶのは結構ですけど、避妊はきちんとしてくださいね。 殿下を敵に回したくないですから。 ラウジット、お前は命がないと思え」
『少しは空気を読んだらどうなんだ!?』
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