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第三章

川辺に行こう!

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 朝が来た。
 晴天なり。

 わたしは家から一歩出ると、国歌と共に、国舞を披露する!

 ……飛び回ってた妖精ちゃん達から、不思議なモノを見る目で見られる。

 妖精ちゃん達には国歌とか無いのかな?
 なんなら、作ってあげようかな?
 すると、悪役妖精が近寄ってきて、何故か鼻で笑われた。
 カチンと来たので、白いモクモクの虫網を右手に出す。
 凄い勢いで逃げていった。
 ふん!
 あんなのに構ってなんていられないわ!

 昨日頂いた種で、早速、胡椒こしょうを育てますか。

 実は胡椒こしょうを育てるのは初めてではない。
 エルフのお姉さんから頼まれて、育てたことがあるのだ。
 まずは白いモクモクで地面を耕す。
 次に添え木を差し込む。
 今日は三本ぐらい行っとくかな。
 そのそばに、種を植える。
 そして、その上に植物成長魔法をかける。
「育てぇ~!」
 すると芽がプチプチと伸び始めて蔓となり、添え木を上っていく。
 あっという間に、実を付けた。
 ほんと、この魔法は凄い。
 どう考えても、気候も季節も合わない土地で簡単に育てることが出来るのだ。
 種がなければ意味はないが、逆に種と魔力が合れば、食料作り放題である

 そんなことを考えていると、カチカチという音が聞こえてきた。

 視線を向けると、大蟻が六匹ほど結界の外に来ていた。
 また、何かの種を持ってきたのかな?
 近寄ると、その中の一匹が前足を差し出してきた。
 種が三つほど、今日は何かな?
 受け取って植えようとすると、妖精ちゃんの一人がそれを止める。

 羽のある、メイド服を着た妖精ちゃんだ。

 妖精姫ちゃんのお世話係をしている妖精ちゃんの中で何人かが彼女みたいな服を着ている。

 控えめに言って、可愛い!

 この子はピンク髪なので、わたしは妖精メイドのサクラちゃんと呼んでいる。
 勝手に名付けて気を悪くするかな? とも思ったけど、嬉しそうに頷いていた。
 可愛い!
 そんな、妖精メイドのサクラちゃんがわたしの持っている種の内、二つを指さして身振り手振り何かを訴えかけてくる。
 え?
 この二つは花壇に?
 わたしは昨日作った花壇エリアに移動すると、妖精メイドのサクラちゃんの指示通りの場所に植えて、魔法をかける。
 一つは黄色い薔薇だった。
 赤薔薇ほどで無いけど、大きな花が咲いている。
 もう一つは、赤いチューリップだった。
 妖精メイドのサクラちゃんが大喜びすると、他の妖精メイドちゃんも集まってきた。
 そして、皆が連なり空中をクルクル飛び回って、喜びを表現している。

 良かったね!

 さて、もう一つも植えて――え、向こうで?
 遠く離れたところ?
 え? うん、はい。

 育ててみると、皆大好き人参だった。

 ……わたし、人参は嫌いじゃないよ。
 ちらり、と妖精ちゃん達を見る。
 こちらを見向きもしないで、花の周りを飛び回っている。
 妖精ちゃん達、野菜嫌いなのかな?

 とりあえず、人参は自分で食べるとして、蟻さん達にピーマン(また実っていた)とオレンジ、林檎を渡した。
 妖精ちゃん達も近寄ってきたので、ピーマンを差し出したら、スルリと避けて、林檎やオレンジに取り付いた。
 ……うん、勝手に食べないだけ良しとしようかな。
 皆にもぎ取ってあげたら、嬉しそうに抱えて大木の方に飛んでいった。

 自分の体より大きい林檎なのに、凄いな。

 あと、胡椒こしょうの収穫も終えて、家にはいると少し休憩する。
 そういえば、川の魚を取ろうと思ってたんだった。
 お昼ご飯は川魚にしようかな?
 一応、フル装備に川に振りかける用の塩を少し多めに準備する。
 そして、外に出た。
 花壇に視線を向けると、妖精姫ちゃん達が花壇の上で何やら集まっている。
 わたしが「ちょっと行ってくるね」と声をかけると、こちらに顔を向けた妖精姫ちゃん達が笑顔で手を振ってくれた。
 可愛い!

 軽い足取りで駆けながら、川に向かう。

 川はそこまで離れていない、三分ほどで見えてくる。
 わたしは川辺の大きな岩に駆けてきた勢いのまま着地する。
 そして、辺りを見回した。
 水辺は水を飲むために魔獣や動物が集まりやすい。
 中には強力な敵もいたりするので、警戒が必要なのだ。
 だが、わたしの杞憂に反して、大した魔獣は見あたらない。
 せいぜい、弱クマさんが五、六頭見えるぐらいだ。
 わたしは安心して、大岩から降りる。
 川幅は三メートルぐらいか、深さは大体膝ぐらいの浅い川だ。
 水がとても綺麗で、そこがきちんと見えている。
 その中を細長い陰が時々流れていく。
 それが、今日のターゲット、川魚だ。
 さて、どうやって穫ろうかな?
 最も簡単なのは電撃魔法だ。
 この魔法は、ママから一番最初に教わった。
 何故教わったか、それはこの魔法がもっとも周りに被害を出さないからだ。
 炎、風、水を攻撃に使用する場合、敵以外の周辺にも影響が出てしまう。
 戦うのが敵地であれば問題無いが、自分の縄張りの場合、敵を倒しても辺りを焼き野原にしてしまっては、守った意味がない。
 だが、雷撃魔法の場合、敵以外の影響を最低限に出来ると、ママは教えてくれた。

 大熊(弱ではない)を雷撃魔法で瞬殺したママはわたし達に振り返り、優しく微笑みながら言った。
『わたし達は神獣――ただただ、敵を殺し、辺りを破壊尽くすだけの無様な真似は駄目よ。
 あなた達は縄張りであれ、なんであれ、守る存在にならないと』

 とても、良いことを言っていたのだと思う。

 ……ただ、ママの雷撃が強力すぎて、ママの背後が炎上して凄いことになっていなかったら、もっと良かったと思う。
 しかも、それに気づいたママが慌てて水魔法を使い、縄張りが半壊したりもした。

 ママ……。

 そういえばママ、『わたし達は神獣』って言ってたなぁ。
 フェンリルって神獣なんだ。
 何か色々説明してくれた気がするけど、基本的にママにくっついて聞いていたから、大半は寝てたからなぁ。
 第五、六? の神様だったっけ?
 ママは神様とこの地上に降り立たって言ってた気がするから、きっとフェンリルってすごい存在なんだと思う。

 まあ、わたしは人間だから、関係ないけど。

 それはともかく、雷撃魔法を使えば、魚は簡単に捕ることが出来る。
 ただ、魔法っていうのは、白いモクモクという例外を除き、使用者の魔力によって威力が変わるんだよね。
 有り体に言えば、威力調整が出来ないのだ。
 ママほどではないにしても、影響範囲が大きすぎるんだよね。
 そこで、わたしは別の方法を取ることにした。

 Web小説とかで定番な、あれですね。

 わたしは一抱えぐらいの岩を発見すると、それを持ち上げる。
 前世のわたしではびくともしないこれだけど、現世だと軽々と持ち上げられる。
 異世界だからかな?
 ママにしごかれたってのもあると思うけど。
 それを頭の上に持ち上げると川岸に移動、これを川の中でちょっと顔を出している岩を発見、それに向かって投げつける。
 すると、振動で気絶した魚がプカプカと浮かんでくる寸法だ!
 前世の日本では、確か禁止されてる漁だったはずだけど……。
 ここは異世界、大丈夫だよね!

 よぉ~し、やるぞ!

 ――何かが近寄ってくる気配を感じた。

 視線を向けると川の向こう側にある草むら、その隙間から老人顔がニヤリと笑っていた。

 マンティコアだった。

 ……。
 ……。
 ……。

 使用しようとしていた岩が赤黒く汚れてしまったので、別の物を探すことになった。

 それにしても、頭にくる。
 あのマンティコア老人顔、見た目も動きも気持ち悪い、尾の毒は刺さると地味に痛い、何より不味い。
 良いこと無しの魔獣なのだ。
 それでいて、弱クマさん同様、何故かわたしに対しては舐めた態度を取ってくる。
 だから、わたしは発見しだい駆除する事にしている。
 ん?
 再度、近寄ってくる気配に視線を向けると、真っ白な毛皮の狼が数頭、静かに歩いてくるのが見えた。
 なんだ、白狼君か。

 視線が合うと、白狼君はビクッと硬直する。

 確か、人間の間では白魔狼しろまおおかみって呼ばれているんだっけ?
 先頭の一頭が、わたしと頭がかち割れて横たわるマンティコア老人顔を交互に見る。

 あ、ひょっとして食べたいのかな?

 わたしが頷いてみせると、転がっている魔獣にササッと近づくと、ガブガブし始める。
 毒があるんだけど、大丈夫かな?
 なんて心配になったが、尻尾の部分には近づかず、足とか内臓とかをガブガブやっている。

 本当は、獲物を渡す行為は良くない。

 だけど、フェンリルママの娘として、狼型の生き物には、何となく優しくしてしまう。
 しょうがないよね。
 そんなことを思っていると、白狼君が突然、吠えだした。
 何事かな? と彼らが見ている方に視線を向けると、小さな黒色の生き物が寝そべっているのが見えた。
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