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第五章

妖精ちゃん達は人使いが荒いと思う!

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 朝!
 大雨!
 朝ご飯を食べて、ケルちゃんをワシャワシャした後、外に出る。
 結構土砂降りだけど、帽子を被ってるから大丈夫!
 服もママの毛で作られているから、水を弾いてくれるもんね!
 ……いや、本当は大丈夫じゃないけど、赤鶏さんの世話をしないといけない……。
 昨日、お茶作りに精を出していると、結界近くに何かやって来る気配を感じた。
 チラリとそこを見ると、雌の赤鶏さんが大麦を美味しそうに啄むのを、別の雌の赤鶏さんが二羽、結界の外で眺めるのを見つけた。
 ひょっとすると、心配して見に来たのかも知れない。
 でも、その赤鶏さんも凄く羨ましそうだった。
 なので、「あなた達も入国する?」と訊ねたんだけど、凄い勢いで首を縦に振ってた。

 自然に生きるのって、本当に厳しいみたいだ。

 赤鶏さんが三羽に増えてしまったしって事で、忙しいと渋る物作り妖精のおじいちゃんに頼み倒して、鶏さん用の小屋を作って貰った。
 その時は、逃げちゃわないようにって事が大きかったけど、それが、雨が降った今、功を奏した形だ。
 家の西側にある小屋、その扉を開けると、大麦の茎から作った藁の上に赤鶏さん達がいる。
 小屋の大きさは我が家の三分の一程度、何やかんや言ってわたしの望み通り大きめに作ってくれた。
 現在は独立しているけど、冬籠もりまでには中から直接入れる様にしてもらう予定だ。
 雪が降ったら、億劫そうだしね。
 赤鶏さん、二羽は立ってちょこちょこ動いていたけど、一羽は優雅に座っている。
 この子がリーダーになったのかな?
 ん?
 違う?
 ちょっと気になり、その赤鶏さんを白いモクモクで持ち上げる。
 卵があった!
 おおお!
 これは素晴らしい!
 お昼は久しぶりに目玉焼きが食べられる!
 しかも、現世の卵よりも三周りは大きい!
 でも、手を伸ばし取り上げようとすると赤鶏さん、暴れ出す。
 え?
 駄目なの?
 妖精メイドのサクラちゃんからもストップがかかる。
 え?
 なんで?
 あ?
 ひょっとして、有精卵?
 だとしたら、諦めるしかないかぁ~
 まあ、赤鶏さんを増やすのも有りか。
 取りあえず、赤鶏さんを卵の上に戻すと、手早くお掃除をする。
 それが終わるとお掃除用にスライムを配置する。
 ご飯の大麦と水を準備――卵を温めている間って何も食べないんだっけ?
 良く分かんない。
 チラリと妖精メイドのサクラちゃんを見ると、卵を温めている赤鶏さんの餌箱(物作り妖精のおじいちゃん作)を指さしてた。
 一応、入れて置けって事かな?
 言われたとおりにして、赤鶏さんのお世話は終了とする。

 小屋から出ると、物作り妖精のおじいちゃんが待ち構えていた。
 え?
 今から、製鉄所作りを再開する!?
 嘘でしょう!?
 こんな大雨の中!?
 いや、確かに赤鶏さんの小屋のために少し遅れたけど……。
 分かった!
 分かりましたから、スカートに飛びつくのは止めて!
 手伝えば良いんでしょう!

 製鉄所予定地に着くと、水たまりが出来て酷い状態だった。
 だけど、一体何に駆り立てられているのか分からないけど、物作り妖精のおじいちゃん達はやる気満々だった。
 えぇ~
 もう、冬に近いんだし、風邪引いちゃうよ?
 え?
 問題ない?
 本当かなぁ。
 因みに赤ん坊の頃は直ぐに死にそうになっていたわたしだけど(当たり前)、最近はママの鍛錬が効いたのか、この程度では風邪を引かない。
 まあ、だからといってずっと雨に濡れたいかと言われれば、お断りしたいのだけれど……。
 あ、そうだ。
 わたしは右手から白いモクモクを出すと、上へ上へと上げた。
 そして、頂上で大きく傘のように広げた。
 製鉄所予定地を完全に覆っているから、うん、これなら雨に塗られないで済むよね。
 物作り妖精のおじいちゃんも大喜びで作業をし始めた。
 え?
 わたしも手伝う?
 いやだって、傘を出しているし……。
 左手が空いている?
 人使い荒いなぁ。

――

 結局、お昼まで手伝わされてた。
 そして、ご飯を食べた後も手伝わないといけないらしい。
 はぁ~
 まあ、完成する速度が凄まじいから、今日の夕方までには終わるだろうけど……。
 遅い昼食に大麦ご飯を一杯分、作ってみる。

 う~ん、食べられなくもないけど、ちょっと、この匂いは微妙かな……。

 トマトのスープとかに入れて、お粥っぽく食べると美味しくなるかも。
 トマト……欲しいなぁ。
 町で探してみようかな?
 何て考えていると、ニコニコ顔の妖精姫ちゃんがやって来た。
 その後に続く妖精メイドちゃん達は――ちょっと、ドライフルーツを勝手に持ち出さないでよ!
 え?
 ちょっとだけ?
 仕方が無いなぁ~
 冬用に作り置きしてるんだから、食べ過ぎないでよ!
 すると、妖精メイドのサクラちゃんが木製の箱を渡してくる。
 何?
 ああ、紅茶の葉ね。
 え?
 ティーポット?
 ……いや、無いけど。

 妖精ちゃん一同がショックを受けた顔になる。

 だって、そんな発想、昨日まで無かったもん。
 え?
 買いに行くの?
 今から?
 いやいや、外、まだまだ大雨だよ?
 それに、物作り妖精のおじいちゃんのお手伝いもあるし……。
 すると、妖精姫ちゃんが外にすっ飛んでいく。
 え?
 なに?
 あ、直ぐに戻ってきた。
 宙を飛ぶ妖精姫ちゃんに持ち上げられた物作り妖精のおじいちゃんが、死んだ目で『気にせず、町に行ってきてくれ』とジェスチャーをしてくる。
 その顔の上にある、妖精姫ちゃんのにっこり笑顔と対照的だ。
 えぇ~本当に行かなきゃならないのぉ~

 行かなくちゃならないらしい。

 妖精メイドちゃん達からも促されて、渋々町に向かう準備をする。
 え?
 ケーキも買ってくるの?
 ちょっと、最近の妖精ちゃん達の我が儘っぷりは、度が過ぎてる気がするんだけど……。
 え?
 お茶は用意する?
 ……いや、嬉しいけど!
 久しぶりに飲みたいけど!
 はぁ~

――

 夕方になり、町を出る頃になっても、結局雨はやまなかった。
 強くもなってないけど、弱くもなっていない感じ。
 念のために荷車の被いをチェックする。
 完全に被さっているから、中の物は濡れないよね。

 しかし、なんやかんやと遅くなってしまった。

 実は、町に到着して早々、ばったり出会った受付嬢のハルベラさんに捕まってしまったのだ。
 どうも、最初以降、冒険者組合の受付に顔を出さないわたしの事を消極的な新人と勘違いしてしまったらしく、怠け癖がつく前に一つ、お説教をしてやろうという事らしかった。
 いやね、一応、じゃくクマさんとかを組合に持っていってるんだよね。
 ただ、その辺りは内緒にしていることだから、ね。
 なので、「なんで依頼を受けないの?」と訊ねられても、言葉を濁すしかないよね。
 そうなると、真面目クラス委員長っぽいハルベラさんは俄然、面倒を見てあげないとって空気になってしまって、冒険者組合まで引っ張られて行き、面談室みたいな個室に連れ込まれ、冒険者とはなんぞやみたいな話をえんえんと聞かされる羽目になってしまった。
 しかも、受付嬢のハルベラさん、「サリーちゃんは何が出来るの?」と聞いてきたから「弱い魔獣なら殴ってやっつけられる」って答えたら「なんて危ないことするの!」って凄い剣幕で怒ってきて、怖かった。
「サリーちゃんには早すぎる」「もうそんなことをしちゃ駄目よ!」ってまくし立てられ、もう、何を言えばいいのか分からず「うん……」と頷くしかできなかった。

 殴るのは極力止めよう。
 ……蹴りはセーフだよね。

 再度、何が出来るのか訊ねられたので、困ってしまった。
 戦闘系はまた怒られるのが怖いから却下だ。
 あとは、植物育成魔法……これは赤鷲の団の皆に止められているから駄目。
 だから「治療魔法が出来る」とおずおずと答えたら、「え、白の魔力持ちなの?」と目を丸くしながら驚かれた。
 なんでも、白い魔力持ちは貴重で、国によっては貴族様にもなれる、とのことだった。
 試しに傷を治してみて欲しい、と言われたので、腕に傷を負った冒険者のお姉さんを白いモクモクで覆い治してあげた。
 白いモクモクに関しては訝しげに見ていた受付嬢のハルベラさんだったけど、冒険者のお姉さんの傷が治ったのを見て、凄く喜んでいた。
 それで、定期的に冒険者組合にやってきて、治療の仕事をして欲しいと頼まれてしまった。
 冒険者組合にも、一応、回復魔術が使える人が何人か登録しているらしいけど、その人数に対して治療の必要な数が多すぎるとのことだった。
「まあ、町に来たときに少しだけなら」
と答えておいた。
 受付嬢のハルベラさん、スキップでもしそうなほど喜んでいたなぁ~

 厚い雨雲の上にある太陽も大分傾いてきたようで、薄暗さが増してきた。

 まあ、白いモクモクは発光させることも出来るから、夜の森だって平気だから問題ないけどね。
 それよりも、雨水の臭いがムッと漂っている空気の方が気になる。
 好きじゃないんだよねぇ、鼻が効かないから。
 敵の位置や状態を知る術を、一つ潰されているようなものだから。
 魔獣相手も条件は同じなので、そこまでのリスクにはならないけど。
「おい」
「ん?
 ひゃぁ!」
 突然声をかけられ、振り返ると凶悪な顔がそこにあり、思わず悲鳴を上げてしまった。
 でも大丈夫!
 うん大丈夫!

 門番のジェームズさんだった。

 段々慣れてきたので、わたしは悲鳴を上げてしまっても逃げることはなくなったし、門番のジェームズさんはわたしが悲鳴を上げるのに慣れたので、特に気にすることなく何かを投げて寄越した。
 わたしは反射的にそれを受け取る。
 ん?
 コート?
「着てけ」
というと、門番のジェームズさんは詰め所に入って行ってしまう。
 わたし、いつもの格好だから寒そうに見えたのだろう。
 実際の所、今世のわたしは寒いのには強い。
 ここより標高の高い場所で暮らしていたのは伊達ではないのだ。
「……」
 わたしは手に持つコートに目をやる。
 凄く古びた、革製のコートだった。
 羽織ってみる。
 ちょっと、お酒くさいし、ほこりっぽい。
 だけど、雨合羽みたいに頭も覆う事が出来るそれは、とても温かかった。

 ……でも、丈が長すぎて、地面を擦っちゃうんだけど。

 クスクスと笑う声が聞こえてきて、視線を向けると門から入ろうとする人たちがこちらを楽しそうに見つめていた。
 恥ずかしい!
 だけど、その中にいたおばちゃんが、紐を駆使して丈を調整してくれた。
 ありがとう!
 一応、詰め所の入り口から「ジェームズさん、ありがとう!」と声をかけておいた。
「おう」というぶっきらぼうな返事が返ってきた。
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