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第十一章

妹ちゃん、回復!

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 食料庫から、朝食用の食材を持ってくる。

 さて、パンを作る前に、シャーロットちゃんのためにすり下ろし林檎を作って上げようかな。
 といっても、実に簡単だ。
 銅製の下ろし金ですり下ろし、砂糖を少々かけて完成である。
 林檎はシャーロットちゃんの為に、わざわざ、植物育成魔法を使って収穫したもので、瑞々しくてとても甘い会心の出来だ。

 下ろし金に関しては、物作り妖精のおじいちゃんに作って貰った。

 最初は、白いモクモクでやろうと思ったんだけど、物作り妖精のおじいちゃんがやってきて、鉱物を振りながら、これで作れるってアピールをし始めたの。
 それは、蟻さんが冬ごもり前に持ってきた鉱物の中の一つで、どうやら銅らしかった。
 だけど、時期はすでに冬ごもり開始済みで、しかも、冬ごもり前の白いモクモクを使った製鉄で正直いって懲りていたから、「結構です」と断ったの。
 だけど、おじいちゃん達、なんか変なスイッチが入っちゃったみたいで、吹雪いてこそないけど、大粒の雪が降りしきる中、バカみたいに魔力を消費する中、精錬をさせられる羽目になった。
 ……まあ、そのおかげで使い勝手の良い下ろし金を手に入れたのだから、良しとするけどね。

 何て考えていると、テーブルの上に気配がする。

 視線を向けると、妖精姫ちゃんが愛用のテーブルに座り、期待した目でこちらを見ていた。

 ……いや、これはシャーロットちゃん病人用なんだけど。

「妖精姫ちゃん、しょっちゅう家に来てなにかしら食べていくけど、妖精ちゃん達には皆用の食べ物が大木にあるでしょう?」
 そう、妖精ちゃん達の小さい体からしたら不相応なほどの食料――というか、ドライフルーツや砂糖大根テンサイ等の甘味をさんざん植物育成魔法で作らさせたにもかかわらず、妖精姫ちゃんは我が家の貯蔵分を食べに来ているのだ。
 あの小さいテーブルも、わたし達の食事用テーブルに固定されたかのように常備されているし。
 そんな真っ当な突っ込みに対して、妖精姫ちゃんは身振り手振りで伝えようとする。

 え?
 わたしが食べる甘味が好き?
 それに、わたし達と食べるのも好き?
 いや、そんな事を言われると、悪い気はしないけど……。

 なんか、上手いこと乗せられた気もしたけど、致し方が無く、妖精姫ちゃんの皿にすり下ろし林檎を乗せて上げた。
 満面笑みの妖精姫ちゃん、上品にそれを食べ始める。
 可愛い!
 妖精姫ちゃんは小さいから、消費も大したことないし、まあ、良いかな。
 なんて思いつつ、すり下ろし林檎が入った小鉢を持つと、シャーロットちゃんの元に向かった。

 ベッドの脇に椅子を持って行き座ると、シャーロットちゃんに食べさせて上げる。
 シャーロットちゃんの好物である林檎なのに、喉に引っかかるのか「いだい……」と悲しそうな顔をしている。

 可哀想。

「シャーロットちゃん、風邪を引いたときに林檎を食べるの、すごく良いんだよ。
 治るのがすごく早くなるの」
と言って上げると、やる気になったのか、「いっばいだべる!」と気合いを入れていた。
「頑張って!
 頑張って!」
と応援しつつ食べさせていたら、なんと完食する!
「林檎、半分ぐらいあったのに凄い!」
って褒めて上げると、シャーロットちゃんは嬉しそうにした。

 可愛い!

 え?
 林檎食べたから、薬はいらない?
 ……いや、それとこれとは、話が違うんだなぁ~

 薬湯の入ったコップをスッと差し出すと、悲しげな顔をこちらに向けて来た。

 うっ!
 心が揺らぎそうになる。

 だが、心を鬼にして、シャーロットちゃんを促す。
 が、「ぞれ、ぎらい……」とシャーロットちゃん、受け取りたがらない。

 仕方がないなぁ。

「じゃあ、これをしっかり飲んで、風邪を治したら、おいしい肉料理を作って上げる」
「にぐりょうり?」
「うん、伝説の肉料理」
「でんぜつ?」
「いにしえの某国全体を熱狂させた最強の肉料理なの。
 熱々も美味しく、冷めても美味しい。
 外側のサクリとした食感の後、肉汁がじゅわぁ~っと溢れてきて、国民の大半がその味の虜になったものよ」
「ずごい……」
 シャーロットちゃんが目をキラキラさせている。
 そして、わたしが「さあ」と差し出した薬湯を受け取ると、意を決したように口に付けた。
「まじゅい」と返してきたコップは空っぽだった。

 偉い!

 口直しに林檎ジュースを渡して上げると、美味しそうに飲んでいた。
 そして、体力回復魔法をして上げる。
 余りやりすぎるのは良くないって、エルフのお姉さんから言われているから、ちょこっとだけだ。
 体が活性化しているからか、シャーロットちゃんは「あっだかい」って頬を緩ませていた。

 早く良くなると良いなぁ。

――

 朝、起きた。
 というより、動く気配に起こされたという方が正確かな?
 視線を向けると、シャーロットちゃんがベッドから降りるところだった。
 わたしも床から起きると、「シャーロットちゃん、大丈夫なの?」と訊ねた。
 シャーロットちゃん、ニッコリしながら「うん! 大丈夫!」と頷いた。
 声の掠れも無くなったし、大丈夫かな?
 おでこに手を当てるけど、熱もないみたいだ。
 昨日の夜の時点で、ずいぶん良くなっていたからね。
 念のために、体力回復魔法だけかけて上げる。
 服を着替えさせて上げて、自分も寝間着から着替える。
 そして、シャーロットちゃんを連れて外に出る。
 ヴェロニカお母さんが早足で近寄ってきた。
「シャーロット、もう大丈夫なの?」
「うん!」
 ヴェロニカお母さんがこちらを向くので頷いて上げる。
「そう、良かったわ」
といって、ヴェロニカお母さんはシャーロットちゃんをぎゅっと抱きしめた。
 シャーロットちゃんも嬉しそうだ。
「シャーロット、良かったわ!」
とイメルダちゃんも近寄ってきて、シャーロットちゃんにハグをする。

 ふむ。

 わたしがイメルダちゃんに向かって手を広げると、それに気づいたイメルダちゃん、顔を赤めて「バカなことをやってないの!」と怒ってきた。

 えぇ~
 何でさぁ~

 あ、ケルちゃんが近寄ってきて、シャーロットちゃんに頬ずりをしている。
 シャーロットちゃんも嬉しそうだけど……。
「シャーロットちゃんは病み上がりだから、ほどほどにね!」
と宥めた。

 朝のお仕事を終えて、皆と朝食を取った。
 やっぱり、いつもの皆が揃うと何となくだけど、楽しかった。

 ヴェロニカお母さんがシルク婦人さんを伴いエリザベスちゃんに授乳をさせに向かうのを見送った後、残ったわたし達三人は食後のお茶を楽しむ。
 ひとしきりおしゃべりをした後、イメルダちゃんが憂鬱そうに言う。
「それにしても、この吹雪、いつまで続くのかしら」
「結構長いね」
 わたしが同意すると、イメルダちゃんは少し心配そうに訊ねてきた。
「ねえ、この家、雪に埋もれるとかないわよね」
「う~ん、高床だし大丈夫じゃない」
 初めて我が家を見た時、なんで床が高い位置にあるのか不思議だったけど、多分、雪対策なんだと思う。
 その事を話すと、イメルダちゃんは合点が行ったように頷いた。
 そこに、シャーロットちゃんが口を挟む。
「ねえねえ、サリーお姉さま。
 外って今、どうなってるの?」
「多分真っ白だと思うよ」
「真っ白!?
 見てみたい!」
「え?
 真っ白なだけだけど……」
「見たい!」
 わたしが住んでいたママの洞窟近辺は、冬になると雪ばかりの場所だったから、それこそ、飽きるぐらい見てたけど、そうでなければ珍しいのかもしれない。
「じゃあ、窓からちょっと見てみる?」
「うん!」とシャーロットちゃんが嬉しそうに頷くと、イメルダちゃんも「わたくしも一応、確認したいわ」と言った。
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