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第十三章

ワインを作ろう!3

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 朝ご飯を食べて、洗濯物をした後、昨日の続きをするために植物育成室に移動する。

 何を言っているのか分からないけど、応援しているらしい物作り妖精のおじいちゃん達に「はいはい、頑張るから」と手を振った後、タライの中を見る。
 紫色の黒葡萄の粒が、タライの高さ半分ぐらいまでを埋めている。
 隣にいるテュテュお姉さんに訊ねる。
「次、どうするの?」
「この粒をしっかりと潰す必要があるの」
「潰す?
 どうやって?」
「よくある方法は、素足で踏み潰すんだけど……」
「……」
 それ、衛生的にどうなの?
「別に足でやらなくても、潰れれば良いんでしょう?」
と言いつつ、白いモクモクを両手からだし、大きいハンマー型にする。
「あ、飛び散らないようにそっとね」
というテュテュお姉さんに頷きつつ、そのハンマーに魔力を少し入れ、大体、人の重さぐらいにする。

 それをゆっくりタライの中の、ブドウの上に乗せる。

 ぐちゃぐちゃと、葡萄が潰れていく。
 ……なんか、もったいない事をしているような気がするんだけど。
 ただ、そんな事を思っているのはわたしだけのようで、テュテュお姉さんや物作り妖精のおじいちゃん達からは潰し漏れを注意される。

 はいはい、端の方もしっかりとね。

「しかし、凄いわね。
 わたしでは魔力をそんな風に扱えないわ」
 テュテュお姉さんの言葉に、わたしは手を止めずに訊ねる。
「ん?
 テュテュお姉さんも魔力のモクモク、出来るでしょう?」
「出来るけど……」
と言いつつ、テュテュお姉さんは右手を胸の辺りまで上げる。
 そこから、緑色のモクモクが出てくる。
「だけど、そんなきちんとしたつちの形にしたり、魔力密度を上げて、重さを微調整したりなんて出来ないわよ。
 そこまで出来るのは、サリーとあなたの母親、あとは黒魔女ぐらいね」
「黒魔女?」
 わたしの問いに、テュテュお姉さんはちらりとこちらを見た。
「人間の魔法使いよ。
 人間離れした魔力量で、あなたの言う、モクモクを出していたわ」
「へぇ~」
 そんな人が居たんだぁ。
 もう少し、詳しく聞こうと思ったけど、テュテュお姉さんはタライの中を見ながら「それぐらいで良いわ」と言った。

――

「ワインが、完成したわよ!」
 エルフのテュテュお姉さんの宣言にヴェロニカお母さんを初めとする呑兵衛らしき一同が満面笑みで拍手をしていた。
 あ、若干一名、料理酒の完成に喜ぶシルク婦人さんが混ざっている。
 いつもの無表情ながらも、心なしか上気している顔で一緒に拍手をしていた。
 料理酒の有無でずいぶん料理の幅が広がるらしく、苦労していた毎日の献立が楽になるとの事だった。
 その辺り、全然気づかなかった……。
 反省。

 因みにワインは潰しただけで完成では無い。

 あそこから、テュテュお姉さんが用意していた酵母を入れたり、体力回復魔法を調整しつつタライの中にかけて発酵させたり……。
 意外に大変だったのが、物作り妖精のおじいちゃんが作った樽に入れる時で、テュテュお姉さんと魔力のモクモクを駆使してなんとか終わらせた。
 本当は、そのままワイン酢を作りたかったけど、また明日と言う事になった。

 そっちが本命なんだけど……。
 まあ、仕方が無いか。

「早速、今晩飲むわよ!」
とかテュテュお姉さん達は盛り上がっているけど、わたしは止める。
「あの、飲むなら軽運動室でお願いね」
 壁一枚すぐのところで騒がれると、眠れないし、下手をすると絡まれるのではないかと思うので、少し離れた場所で飲んで貰う。
 テュテュお姉さんは「分かったわ!」と笑顔で了承し、ヴェロニカお母さんも「そのほうが思いっきり楽しめるわね」などと嬉しそうにしている。
 いや、あの……。
「ヴェロニカお母さんは授乳しなくちゃならないから、少しだけだよ!」
 最近は、エリザベスちゃんも夜に授乳する必要が無くなったとの事で、寝る前に少しだけならと言っていたんだけど……。
 本当に大丈夫なのかな?
 わたしの釘差しに、ヴェロニカお母さんはニコニコしながら「分かっているわよ!」と頷いた。
「本当にぃ~」とわたしが疑惑の目で見ると、後ろから肩を叩かれた。
 シルク婦人さんだった。
 シルク婦人さんは自身の胸を手のひらで叩きながら「大丈夫」と請け負ってくれた。

 ……まあ、シルク婦人さんが居れば大丈夫かな?

 そんな事を考えていると、後ろから服を引っ張られた。
 ん?
 振り向くと、シャーロットちゃんが居て、上目遣い気味に訊ねてくる。
「今日はサリーお姉さまと一緒に眠れる?」
 え?
 シャーロットちゃんと?
 そうだなぁ~
「じゃあ、今日はヴェロニカお母さんの部屋で寝るよ」
 あの部屋なら、妹ちゃん三人プラス、わたしプラス、ヴェロニカお母さんの五人が寝転がっても問題ないサイズはある。
 テュテュお姉さんには、寝室を使って貰えば良い。
 そのことを説明すると、皆は了承してくれた。
 シャーロットちゃんはわたしと寝られるのが嬉しいらしく、わたしの腰にくっついてニコニコしている。
 可愛すぎる!
 運動室あちらでワインを飲みつつ、夕飯も食べるみたいな話で盛り上がっているテュテュお姉さん達を「ほどほどにね」と言って見送る。

 まあ、好きにしてください。

 呆れた視線を送っていると、看過できないものが目に入った。
 ニコニコしながらテュテュお姉さんに続いて飛んでいる――妖精姫ちゃんだった。
「ちょ、ちょっと待った」
と妖精姫ちゃんの体を両手で掴む。
「何、姫ちゃんがついて行こうとしてるの!?」
 ”え?”っと言うように振り向く、妖精姫ちゃんに、言い聞かせる。
「お酒はね、子供は飲んじゃいけないんだよ?」
 何故か、衝撃を受けたような顔をする妖精姫ちゃん――あれ? 妖精にはその辺りの知識が無いのかな?
 仕方が無いなぁ。
「お酒はね、子供の体には良くないの。
 だから、姫ちゃんも飲んじゃ駄目!
 分かった?」
 甘い物を大人が食べる――のは、まあ、格好いいかどうかだから、最悪、目を瞑るとしても……。
 流石に、子供がお酒を飲むのは良くないもんね!
 ただ、きちんと説明したにも関わらず、妖精姫ちゃんは一生懸命、何やら言っている。
 でも、よく分からない。
 すると、テュテュお姉さんが口を挟む。
「サリー、大丈夫よ!
 その……妖精姫ちゃんは特殊な個体なので、子供でも飲んで良いのよ!」
「え?
 そうなの?」
 それに、ヴェロニカお母さんが手を頬に当てながら言う。
「ああ、その話、聞いたことがあるわ。
 むしろ、体に良いとか……」
「???
 そうなの?」
「そうそう、そうなのよ」
とテュテュお姉さんもうんうん頷いている。
 そんな話、初めて聞いたけど、正直、妖精についてわたし、よく分からない。

 でも、ヴェロニカお母さんだけならともかく、テュテュお姉さんが言うなら正しいのかな?

 手の中にいる妖精姫ちゃんを見ると、何やら必死に首を縦に振っている。
 テュテュお姉さんが「わたしがちゃんと見てるから!」とか言っているので、仕方が無く「それでも、余り飲んじゃ駄目だよ」と言い聞かせつつ手を離す。
 何やら、嬉しそうな妖精姫ちゃんがテュテュお姉さんとヴェロニカお母さんに抱きついて、お礼を言っているようだ。
 それに、二人は何やら同士だと言わんばかりに、ニコニコ笑顔で頷いて見せている。
 そこに、天井からスライムのルルリンが下りてきて、テュテュお姉さんの肩に着地した。

 え?
 ルルリンも飲むの?

 まあ、消毒用のお酒を飲んでいたから、大丈夫だと思うけど……。
 変なスイッチが入っているのか、テュテュお姉さんは「よしよし、飲もう!」などと、ルルリンのプヨプヨボディーをペチペチ叩いている。

 えぇ~

「イメルダちゃん、どう思う?」
 頼りになる宰相様に訊ねると、苦笑が返ってきた。
「まあ、お母様達は大人だし、シルク婦人も見てくれるらしいし、大丈夫じゃ無い?」

 う~ん、だと良いんだけど……。

――

 朝、起きた!
 久しぶりに腰にくっついているシャーロットちゃんを離し、近くに転がっていたケルちゃんぬいぐるみを身代わりにする。

 何やら、ムニャムニャ言っているシャーロットちゃん、可愛い!
 あと、その隣でフェンリルぬいぐるみを抱きしめて眠る、イメルダちゃんも可愛い!

 愛すべき妹ちゃん達を穏やかな気持ちで眺めた後、今日も一日頑張ろう! という気持ちで部屋の扉に視線を向け――「わぁっ!」と声を漏らしてしまう。

 何か、入り口手前に行き倒れた女の人が転がっていた!

 えぇ~!

 ヴェロニカお母さん、どうやら、部屋の戸を開け、エリザベスちゃんの柵を何とか開けた辺りで力尽き、寝込んでしまったようだ。
 その上には毛布が掛けられている。
 シルク婦人さんかな?
 中まで入れなかったのは、子供の側に酔っ払いを入れないという配慮かも知れない。
 そばに寄り、肩を突っついてみる。
 何かムニャムニャ言ってるけど、こちらは可愛くない。
 多分それは、だらしない顔で「シルクふぅ~じぃ~ん、後一杯だけぇ~」とか言っているからだろう。

 駄目大人め……。

 流石に入り口付近で転がしておくのも良くないと思い、ヴェロニカお母さんの両脇に手を入れて、部屋の中央辺りまで引きずる。
 そして、掛け布団を頭から被せる。
 娘達に醜態を極力見えないようにするという、武士の情け的配慮だ。
 ん?
 妖精メイドのスイレンちゃん、どうしたの?
 あ、後は見ておいてくれるの?
 ありがとう!

 ゴロゴロルームを出て、着替えるために寝室に向かう。
 中に入ると、ベッドの中が膨らんでいる。
 テュテュお姉さん、まだ寝ているみたいだ。
 まあ、良いか。
 服を着替えて、寝室を出る。
 身支度を済ませて、シルク婦人さんから籠とかを受け取る。

 ……。

「シルク婦人さん、疲れてる?」
「少し」
 いや、表情を変えないけれど、とても少しじゃなさそうな雰囲気を醸し出してるんだけど……。
 大丈夫?
 なら良いけど……。

 飛んできた妖精メイドのサクラちゃんと――。
 あれ?
 スライムのルルリンは?
 天井を見上げても、下りてくる気配が無い。
 あれ?
 あの子、そもそも、上にいないのかな?
 妖精メイドのサクラちゃんと顔を見合わせ、小首を捻る。

 まあ、取りあえずは良いか。

 飼育小屋に行き、卵と乳を頂く。
 外はまだ吹雪いているから、外に出られない山羊さんを宥めるのが大変だった!

 戻った後、シルク婦人さんに籠や壺を渡す。

 ん?

 中央の部屋食堂のテーブルの席にエルフのテュテュお姉さん、ヴェロニカお母さん、テーブルの上に妖精姫ちゃん、スライムのルルリンが居た。
 何やら皆、少し恥ずかしそうにモジモジしている。
 え?
 何?
「どうしたの?」
と声をかけると、一斉に顔を上げた皆は引きつった笑顔(ルルリンは雰囲気)で「な、何でも無いわよ!?」「ええ、ええ、何でも無いわ!」と言ったり、そんなようなジェスチャーをする。
 そして、皆が顔を見合わすと、顔を赤めながら視線を外す。

 え!?
 いや、本当に何があったの!?
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