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第十八章

ケルちゃんのお相手候補!?

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「おりゃおりゃ」
と撫でてあげると、キズナシ君は”まあまあだな”というように「がうがう!」っと偉そうに吠えた。

 君は男子系わんちゃんか!

 さらにわしゃわしゃやってあげると、気持ちよさそうに「がうぅ~がうぅ~」と鳴いている。
 すると、エイダンさんが少し聞きづらそうに訊ねてくる。
「君の所の子は、ひょっとして女の子だったりする?」
「ん?
 女の子だけど?」
「だとしたら、キズナシこいつのお相手になってくれたりするかな?」
「ん?
 つがいって事?」
 途端、嬉しそうに身をよじっていたキズナシ君がばっと立ち上がる。
 そして、何やらキリっとした顔をこちらに向けて来た。

 男子って奴は……。

 やたらと、尻尾をブンブン振っているし……。
 少々、呆れつつ「まあ、当人達が望むなら、ね」と答えておいた。
 すると、言っている事が分かっているのか、尻尾の揺れがさらに激しくなり、砂が舞い上がり始めた。

 分かったから、落ち着いて!

 ん?
 あれ?
「犬って、嬉しいと尻尾を振るんだよね」
 わたしが訊ねると、エイダンさんが「ああそうだよ」とニコニコと頷いた。
 そして、訊ね返してくる。
「君の所だってそうだろう?」
「ん~?
 うちの子は振らないなぁ」
「そうなのかい?」
「うん」
 あまり気にした事無いけど、凄く喜んでいる時だって、尻尾は振っていなかったと思う。
「野生で育つ期間が長いと、振らないと聞くから、それかもしれないなぁ」
「そうなの?」
「ああ、特に狼型はね」
 そういえば、フェンリルママ達も尻尾を振ってるの見た事ないや。
 ケルちゃんは結構早くから、我が家に来ているけど、野生生まれではある。
 納得の理由かな?

――

 我がに到着!
 早速、やってきた物作り妖精のおじいちゃん達に、粘土を渡す。
 すると、なんか、おじいちゃん達、石をこちらに見せるように振ってくる。

 え?
 ん?
 ああ、蟻さんが来てたってことね。
 今日は鉄鉱石だった?
 お返しはどうしたの?
 林檎を渡してくれた?
 イメルダちゃんにも話は通してある?
 なら良いけど。
 え?
 粘土もお願いした?
 それは良いけど、今日、種は貰った?
 え?
 ああ、わたしがいないから渡さないと、拒否されたんだ……。

 貴重な種ガチャの機会を逃してしまった!
 何だったんだろう?
 レモンかな?
 くぅ~悔やまれる!

 そんなやり取りをしていると、わたしの肩からスライムのルルリンが飛び降りて、物作り妖精のおじいちゃんの前でぽよんぽよんし始める。
 さらに、近衛騎士妖精の潮ちゃんもわたしの胸元から飛び出ると、おじいちゃんに身振り手振りし始めた。

 ……早速、色々と作るように催促しているのね。

 魔獣使いのエイダンさんに注意事項などを教えて貰った後、家具屋さんに行ったんだけど……。
 興奮しっぱなしのルルリンに、心底困ってしまった。
 とにかく、売り物の上に乗ろうとするのだ。
 スライムだから傷とか付かないだろうけど、店員さんからしたら気持ちの良い事じゃないからね!
 あっちらこっちらにポヨポヨ揺れながら移動しようとして、それを押さえて回る羽目になってしまった。
 わたしの手をすり抜けようとするのを「見るだけ! 見るだけだから!」と必死に押さえていた。
 その店の店長さんが良い人で、ニコニコしながら「スライムなんだし、多少乗るぐらいなら良いよ」と言ってくれたけど、甘える訳には行かないからね!
 あと、近衛騎士妖精の潮ちゃんも興味がわいたのか、わたしの胸元を手でぺちぺち叩きながら”あっちへ”とか”そっちへ”とか指示をしてきたし、結構な時間、居座ってしまった。

 これだけ大騒ぎをして、何も買わないのは気がとがめるので、刺繍台を購入した。

 刺繍枠を固定する事が出来る台で、色んな角度に調節できる優れものだ。
 刺繍職人さん達に好評だということなので、ヴェロニカお母さんに使って貰おうと思って買ってきた。

 わたしは荷車を車庫に入れ、刺繍台の入った箱を持つ。

 そして、車庫から戻ってきてもぽよぽよ揺れて物作り妖精のおじいちゃんを困らせているルルリンに「この前、作って貰ったばかりだから、頼むんだったら一つだけだよ!」と釘を刺しつつ家に入った。


 中央の部屋食堂にはイメルダちゃんが座っていて、何やらノート型の黒板に書き込んでいた。
 そして、わたしが入ってきたのに気づき、「お帰り」と言ってくれる。
 わたしは「ただいまぁ~」と答えつつ、箱を玄関直ぐの脇に置く。
 イメルダちゃんが「何それ?」と訊ねてきたので「刺繍台、ヴェロニカお母さんにどうかなって買ってきたの」と答える。

 そして、ロック鳥さんの話をする。

 彼がいる間は町にイメルダちゃんを連れて行くのは難しい事を伝えると、イメルダちゃんは困ったように眉を寄せた。
「う~ん、まあ、絶対に行かなくてはならない――ってほど出ないけど、出来れば行きたかったわ」
「本なら、探してきてあげるよ?」
「本もだけど、農具とかも見たかったし、実際に作業している人の話も聞きたかったし……。
 でも、仕方が無いわ」
「ロック鳥さん、何とか、やっつけられれば良いんだけど、ね」
「凄く大きいんでしょう?
 無理をする必要は無いわ」
「近くに降りて来さえすれば、いくらでもやりようは有るんだけどねぇ~」
 などと話していると、「お帰りなさい!」と言いつつ、ケルちゃんに乗ったシャーロットちゃんが笑顔で近寄ってきたので、「ただいまぁ~!」と抱きしめてあげた。
「キャッキャ!」と嬉しそうだったシャーロットちゃんだったけど、イメルダちゃんから「シャーロット! 股下の無い格好でケルちゃんに乗ったら駄目でしょう!」と怒られて、シュンとしてしまった。
 まあ、スカートで跨がったら、めくれちゃったりする可能性もあるしね。
「今度からは、着替えてから乗せて貰おうね」
と言いつつ、シャーロットちゃんを下ろしていると、凄い勢いで三首がわたしの腰に頬ずりをしてきた。
「はいはい、ライちゃんからね」
 ライちゃん、センちゃん、レフちゃんと顔を撫でてあげると、三首とも嬉しそうに「がうがう!」と言っている。
 わたしはちょっと気になり、ケルちゃんの背後を確認する。
 ケルちゃんの尻尾は、少し持ち上がり、軽く揺れるものの、キズナシ君ほどは激しく振られていない。
「やっぱり、ケルちゃんは尻尾を振らないんだね」
 わたしの呟きに、ニコニコ顔のシャーロットちゃんが答える。
「ケルちゃんの尻尾ちゃんは恥ずかしがり屋さんなの」
「そうなんだぁ~」
「うん!」
 すると、センちゃん達が”尻尾なんかよりも、わたし達を可愛がれ!”と言うように、さらにすり寄ってくる。
「もう、ケルちゃんは本当に甘えん坊さんなんだから!」
と思いっきり、わしゃわしゃして上げた。

 ふふふ、もふもふ毛皮、気持ちよい!
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