2 / 10
その2
しおりを挟む
わたくしは、どうにも呆れてしまいました。
「聡子姫は諦めたのではなかったのですか?」
聡子姫とはあまりメジャーではありませんがプロの演歌歌手で、一時期、兄が熱を入れていたお方でございます。
その時の入れ込み様は凄まじく、コンサート会場でのプロポーズなど、ファンの立場を逸脱した暴走などを繰返し、自分以外の人間を振り回しておりました。
その果てに、聡子姫の関係者の方々の前で
「わたくし、山中林太郎、聡子のことは諦めもうした」
と土下座したのがその半月前のことでございました。
そんな経緯のある兄ではありましたが、「そんなぁ、捨てたぁ女のぉ、事でわないぃ」などと、妙な節を付けて言ったものでございます。
「ついにわしは、二番目の伴侶を見つけたのじゃ!」
「はあ」とやや呆れつつも頷くと、わたくしのその反応が気にくわなかったのか、兄はムッとした顔になりました。
そして、首に掛けていた携帯電話を操作し始めました。
そんな兄を眺めつつ、実はその時、嫁を貰う事自体は、別段悪い事ではないと思っておりました。
むしろ、七十を超えてからの決断に感心しておりました。
よほどのことがない限り、祝福しようとその時は思っておりました。
そこへ、「これが、その女だ」と兄はどうだと言わんばかりに、携帯電話の画面を向けてきました。
わたくしは、老眼鏡を掛けると、心を弾ませながら姉になるかもしれない、女性を見ました。
そこには、奇怪な格好をした女性、というよりも、女の子がにこやかに立っておりました。
なにが奇怪かと言いますと、まず第1に服のサイズが上下共に明らかに大きすぎる所でしょうか。
細身と思われる女の子が、大男でちょうどよさげな服を身につける様は、娘が小さい頃にした悪戯を思い出させます。
また、シャツをだらしなく出していたり、何故だか、片方の足だけ裾を上げていたりと寝起きしたばかりのような姿で、ポーズを取っておりました。
大道芸人の類いかしら? というのがわたくしの所感でございました。
兄のミスで違う写真を表示してしまったのでしょうと、少なくとも、兄の妻になる方で無いと思いました。
「どうじゃ? えぇ女じゃろう?」
と、期待に満ちた目で訊ねてくる兄に、わたくしは苦笑いをしつつ、
「兄様、えらく若い娘さんが写っているようですが」
と答えました。
「そりゃそうじゃ」と兄は何やら偉そうな顔で胸を張りました。
「まだ、十八歳だからな」
「え……?」
と思わず絶句してしまいました。
「十八……。
では、本当に?
この変―――不思議な格好をした娘さんが……」
「そう」と兄は満面の笑みで答えます。
「わが、妻になる女だ」
開いた口がふさがらない、という文章表現がございます。
その時のわたくしは、まさにその通りの表情で兄を見ておりました。
「兄様、そのぉ」と言葉にしましたが、どこからどう指摘すれば良いのか、分かりませんでした。
余りにも若すぎる?
おかしな格好をしている?
正直、悩みました。
「聡子姫は諦めたのではなかったのですか?」
聡子姫とはあまりメジャーではありませんがプロの演歌歌手で、一時期、兄が熱を入れていたお方でございます。
その時の入れ込み様は凄まじく、コンサート会場でのプロポーズなど、ファンの立場を逸脱した暴走などを繰返し、自分以外の人間を振り回しておりました。
その果てに、聡子姫の関係者の方々の前で
「わたくし、山中林太郎、聡子のことは諦めもうした」
と土下座したのがその半月前のことでございました。
そんな経緯のある兄ではありましたが、「そんなぁ、捨てたぁ女のぉ、事でわないぃ」などと、妙な節を付けて言ったものでございます。
「ついにわしは、二番目の伴侶を見つけたのじゃ!」
「はあ」とやや呆れつつも頷くと、わたくしのその反応が気にくわなかったのか、兄はムッとした顔になりました。
そして、首に掛けていた携帯電話を操作し始めました。
そんな兄を眺めつつ、実はその時、嫁を貰う事自体は、別段悪い事ではないと思っておりました。
むしろ、七十を超えてからの決断に感心しておりました。
よほどのことがない限り、祝福しようとその時は思っておりました。
そこへ、「これが、その女だ」と兄はどうだと言わんばかりに、携帯電話の画面を向けてきました。
わたくしは、老眼鏡を掛けると、心を弾ませながら姉になるかもしれない、女性を見ました。
そこには、奇怪な格好をした女性、というよりも、女の子がにこやかに立っておりました。
なにが奇怪かと言いますと、まず第1に服のサイズが上下共に明らかに大きすぎる所でしょうか。
細身と思われる女の子が、大男でちょうどよさげな服を身につける様は、娘が小さい頃にした悪戯を思い出させます。
また、シャツをだらしなく出していたり、何故だか、片方の足だけ裾を上げていたりと寝起きしたばかりのような姿で、ポーズを取っておりました。
大道芸人の類いかしら? というのがわたくしの所感でございました。
兄のミスで違う写真を表示してしまったのでしょうと、少なくとも、兄の妻になる方で無いと思いました。
「どうじゃ? えぇ女じゃろう?」
と、期待に満ちた目で訊ねてくる兄に、わたくしは苦笑いをしつつ、
「兄様、えらく若い娘さんが写っているようですが」
と答えました。
「そりゃそうじゃ」と兄は何やら偉そうな顔で胸を張りました。
「まだ、十八歳だからな」
「え……?」
と思わず絶句してしまいました。
「十八……。
では、本当に?
この変―――不思議な格好をした娘さんが……」
「そう」と兄は満面の笑みで答えます。
「わが、妻になる女だ」
開いた口がふさがらない、という文章表現がございます。
その時のわたくしは、まさにその通りの表情で兄を見ておりました。
「兄様、そのぉ」と言葉にしましたが、どこからどう指摘すれば良いのか、分かりませんでした。
余りにも若すぎる?
おかしな格好をしている?
正直、悩みました。
0
あなたにおすすめの小説
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
傷痕~想い出に変わるまで~
櫻井音衣
恋愛
あの人との未来を手放したのはもうずっと前。
私たちは確かに愛し合っていたはずなのに
いつの頃からか
視線の先にあるものが違い始めた。
だからさよなら。
私の愛した人。
今もまだ私は
あなたと過ごした幸せだった日々と
あなたを傷付け裏切られた日の
悲しみの狭間でさまよっている。
篠宮 瑞希は32歳バツイチ独身。
勝山 光との
5年間の結婚生活に終止符を打って5年。
同じくバツイチ独身の同期
門倉 凌平 32歳。
3年間の結婚生活に終止符を打って3年。
なぜ離婚したのか。
あの時どうすれば離婚を回避できたのか。
『禊』と称して
後悔と反省を繰り返す二人に
本当の幸せは訪れるのか?
~その傷痕が癒える頃には
すべてが想い出に変わっているだろう~
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる