老兄、林太郎の恋

人紀

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その3

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「どうじゃ?」と再度訊ねてきたので、とりあえず、
「……変わった格好をされていますが、何をされている方なのですか?」
と訊ねてみました。すると、兄は偉そうな顔をしつつ、
「”すとりーとだんす”じゃ。
 米国の踊り、”ひっぷとほっぷ”じゃよ。
 格好が変わっとると言うが、これが、ナウイのじゃ。
 まあ、洒落っ気のない桜子には分からんかも知れんがのう」
と答えました。

 後に聞いた話ではございますが、『ストリートダンス』とはアメリカの若者らが路上での遊びなどから作り上げたダンスで、ヒップホップとは、その一ジャンルの事だそうです。
 格好が良いと評判で、おしゃれな若者がこぞって練習をしていているらしく、兄がナウイと言ったのはそういう所から来たのでしょう。
 しかし、その時のわたくしにはちんぷんかんぷんなもので、
(ストリートダンス?
 道で踊るって事はよさこいの様なものかしら?)
などと考えておりました。
 ならば、珍妙な格好にも納得できるってものです。
「真美は文化センターで、ダンスのレッスンを受け持っておるのじゃ」
と兄は話を続けます。
「初めて出会ったのは四月のことじゃったよ。
 その時はすれ違っただけだが、それでもすぐに分かるものじゃ。
 ……運命の相手というものはな」

 困った兄でございます。

 これが、十代の若者ならいざ知らず、酸いも甘いも噛み分けるはずの七十代が、運命の出会いなどとは。
 そもそも、聡子姫の時も、その前の時も、同じようなことを言っておりました。
 そろそろ、何かしらを学んでも良い頃ではと思ってしまうのも、無理無きことでございます。
 が、そんなわたくしの心情など、察することもなく、
「それ以来、真美のレッスンに通っておる。
 二ヶ月ほどになるかのう。
 まあ、武道で言えば、初段の腕前じゃな」
と自慢げに言っておりました。
 わたくしはため息を漏らしつつ、はっきりと伝えました。
「兄様、今回のことは賛成しかねます」
「なんじゃと!」と怒鳴る兄に対して、
「いくら何でも若すぎます。
 ご自分の孫、どころかひ孫の鈴ちゃんのほうが年が近いではありませんか?」
 鈴ちゃんは、兄の最愛のひ孫で、その時、十三歳でございました。
 目に入れても痛くないとばかりに激愛しているひ孫娘を引き合いに出せば、考え直して貰えると思ったのですが、
「恋愛に年齢を持ち出すたぁ、野暮なことをぉ」
などと言って、聞く耳を持ちません。
 わたくしはしかたがなく続けました。
「しかも、今時の若者らしいではございませんか。
 初めのうちは良いかも知れませんが、年齢差から来る感性の違いで、すぐに駄目になってしまいますよ」
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