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1章
モノクロ
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つまらない。眠たい。
それが僕の口癖だ。
真っ青な空の下、涼やかな風を感じながら
昼休みに僕はベンチに寝転がり大きなあくびをしていた。
大学内は無駄に広く、移動するのにも時間が掛かり一苦労だ。
広くするよりも、校内を快適にしてくれたら良かったのに。とぼやく。
堅い椅子や使い古された絵の具や道具、他に充実させるべきところは
いくらでもあっただろう。
僕の世界は閉じられているものだった。
幼い頃から一人の世界に引きこもり、遊んできた。
本や絵は僕をこのつまらない世界からちょっとした冒険に連れていってくれる。
絵なら一から世界を創造することが可能だ。
ああ、眠い。僕は軽く目を閉じた。
この微睡みに身を任せて眠りに落ちてしまいたい。
ふわふわとした意識の中で思う。
しかし、その心地良い時間は一瞬で終わりを告げた。
空気が変わり、風が湿ったのを肌で感じた。
嫌な予感が胸をよぎる。
まさか今日は雨の予報だったか。
そのまさかだった。
あざ笑うようにぽつりと僕の頬に雨粒が落ちてきた。
その冷たさに僕は目を開け、起き上がった。
空はどす黒い灰色をしていて、さっきまで明るかった空は消え失せていた。
雨粒は容赦なくぽつぽつと落ちてくる。
傘なんて持っていないし、走ったってずぶ濡れは避けきれない。
舌打ちをして髪をかき上げる。
急いで抱きしめるように持っていたスケッチブックを上着の中に入れ、
雨にやられないようにした。
すると不思議なことに急に雨粒が自分に当たらなくなったことに気付く。
自分の目の前は雨が降り続けているというのに。
僕は見上げると黒い傘が目に入った。
急いで振り返ると長身の男が立っていた。
柔らかい栗色の髪に茶色の瞳と視線が合う。
彼は僕に微笑み掛けてきた。
「それ、守らないとなって思って」
何のことだ?
彼が顎で示したのが僕のスケッチブックだということを理解するのに数秒かかった。
「・・・。」
おまえには関係ないし、誰なんだ。
無言で彼を見た後に視線を戻すと近くにうごめく生き物がいた。
雨の中を滑るように動き回り、建物の壁を上ろうしている。
蛇だ。
僕は目を見開くとベンチから降りて、壁近くまでいき、スケッチブックを取り出した。
彼の驚いた声が聞こえた後に僕の後を追ってきて傘の中に入れられた。
僕は彼に構わず急いで鉛筆を走らせる。
雨の中で見た蛇はこれまでに見たことがないぐらい神秘的で今描かないと何かが零れ落ちてしまう気がした。
水たまりの上で鈍く光る身体にチロチロとした舌。
何よりあの動きだ。蛇は壁によじ登ろうとしたが、無残にも失敗し滑り落ちてから消えていった。
僕が夢中で描き終わり視線をあげた時、彼がまじまじと僕のスケッチブックを覗き込んでいた。
どうやら僕が絵を描いている間、黙って傘を差し続けていたらしい。
雨は大分弱まってきていた。
彼は口を開けて間抜けな表情をしていた。
「傘は助かった。でも、何が言いたいんだ?」
一応、礼を言いつつ疑問を口にする。
「・・・いや、俺が言っても安っぽい言葉にしか・・・」
彼は言葉を探すように首を振った。
「ただ、また見せて欲しい。君のモノクロな絵を」
目を輝かせて僕のことを見てくる。
そのいかにも純粋そうな目に僕は目を逸らした。
柔らかい落ち着いた声に綺麗な物腰。
何もかもが慣れない。
たった一つ分かることは、この男は・・・変な奴だ、絶対に。
僕は眉をしかめると、スケッチブックを閉じその場から走り去った。
それが僕の口癖だ。
真っ青な空の下、涼やかな風を感じながら
昼休みに僕はベンチに寝転がり大きなあくびをしていた。
大学内は無駄に広く、移動するのにも時間が掛かり一苦労だ。
広くするよりも、校内を快適にしてくれたら良かったのに。とぼやく。
堅い椅子や使い古された絵の具や道具、他に充実させるべきところは
いくらでもあっただろう。
僕の世界は閉じられているものだった。
幼い頃から一人の世界に引きこもり、遊んできた。
本や絵は僕をこのつまらない世界からちょっとした冒険に連れていってくれる。
絵なら一から世界を創造することが可能だ。
ああ、眠い。僕は軽く目を閉じた。
この微睡みに身を任せて眠りに落ちてしまいたい。
ふわふわとした意識の中で思う。
しかし、その心地良い時間は一瞬で終わりを告げた。
空気が変わり、風が湿ったのを肌で感じた。
嫌な予感が胸をよぎる。
まさか今日は雨の予報だったか。
そのまさかだった。
あざ笑うようにぽつりと僕の頬に雨粒が落ちてきた。
その冷たさに僕は目を開け、起き上がった。
空はどす黒い灰色をしていて、さっきまで明るかった空は消え失せていた。
雨粒は容赦なくぽつぽつと落ちてくる。
傘なんて持っていないし、走ったってずぶ濡れは避けきれない。
舌打ちをして髪をかき上げる。
急いで抱きしめるように持っていたスケッチブックを上着の中に入れ、
雨にやられないようにした。
すると不思議なことに急に雨粒が自分に当たらなくなったことに気付く。
自分の目の前は雨が降り続けているというのに。
僕は見上げると黒い傘が目に入った。
急いで振り返ると長身の男が立っていた。
柔らかい栗色の髪に茶色の瞳と視線が合う。
彼は僕に微笑み掛けてきた。
「それ、守らないとなって思って」
何のことだ?
彼が顎で示したのが僕のスケッチブックだということを理解するのに数秒かかった。
「・・・。」
おまえには関係ないし、誰なんだ。
無言で彼を見た後に視線を戻すと近くにうごめく生き物がいた。
雨の中を滑るように動き回り、建物の壁を上ろうしている。
蛇だ。
僕は目を見開くとベンチから降りて、壁近くまでいき、スケッチブックを取り出した。
彼の驚いた声が聞こえた後に僕の後を追ってきて傘の中に入れられた。
僕は彼に構わず急いで鉛筆を走らせる。
雨の中で見た蛇はこれまでに見たことがないぐらい神秘的で今描かないと何かが零れ落ちてしまう気がした。
水たまりの上で鈍く光る身体にチロチロとした舌。
何よりあの動きだ。蛇は壁によじ登ろうとしたが、無残にも失敗し滑り落ちてから消えていった。
僕が夢中で描き終わり視線をあげた時、彼がまじまじと僕のスケッチブックを覗き込んでいた。
どうやら僕が絵を描いている間、黙って傘を差し続けていたらしい。
雨は大分弱まってきていた。
彼は口を開けて間抜けな表情をしていた。
「傘は助かった。でも、何が言いたいんだ?」
一応、礼を言いつつ疑問を口にする。
「・・・いや、俺が言っても安っぽい言葉にしか・・・」
彼は言葉を探すように首を振った。
「ただ、また見せて欲しい。君のモノクロな絵を」
目を輝かせて僕のことを見てくる。
そのいかにも純粋そうな目に僕は目を逸らした。
柔らかい落ち着いた声に綺麗な物腰。
何もかもが慣れない。
たった一つ分かることは、この男は・・・変な奴だ、絶対に。
僕は眉をしかめると、スケッチブックを閉じその場から走り去った。
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