Trains-winter 冬のむこう側

白鳥みすず

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第一章 ユキ

覚悟

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一週間経った。
おかしい、心から連絡がこないし、図書館でも見かけない。
何かあったのだろうか。
僕は教室の机の上に突っ伏したまま携帯を見た。
何度開いても新しいメールは届いていない。
心配でいてもたってもいられない。
彼女の学校まで見に行くしかなさそうだ。
「落ち着け、って貴之。彼女の学校、俺たちと違って最新式だろうし、いけても門までで中には入れないって。部外者は立ち入り禁止」
明らかに落ち着きをなくしているそんな僕を見てジュースをストローで飲みながら浅野は言った。
「もうテスト前だから追い込みしてて忙しいだけかもしれないよ?」
呑気にチョコレートの包みを剥がし、口に放り込む。
お菓子の甘い匂いが教室に満ちている。
「浅野くーん、私にもちょうだい」
「はいはい、あーん」
珍しく昼休みも教室で食べていた浅野は女子に囲まれていた。
「はは、みんな俺と同じで甘い物好きなんだねー」
・・・たぶん、あーんされたいだけだと思うぞ、と心の中で突っ込みを入れつつ、僕はため息をついた。
・・・気にはなるが、もし勉強しているだけだったら邪魔になるだけだ。
テストが終わったら会いに行ってみよう。

しかし、事件はテストが終わってから起こった。
今回のテストは今までの人生の中で驚くほど解けた。これが勉強の成果というものだろうか。
生まれて始めてテストをまともに受け、チャイムが鳴り終わった時だった。
校庭から見覚えのある声が聞こえてきた。
「ユキくーん!!!!そして、ユキくんのお友達さーん!!心です。聞こえてますか!!」
え。僕は驚いて窓までいくと校庭を見た。制服姿のユキが大声を張り上げていた。
走ってきたのか彼女の息は乱れている。全身で叫ぶように彼女は言った。
「私は、ユキくんの側を離れません。ずっとずっと離れません。
誰に何を言われても、ずーっと側にいます!!これが私の覚悟です!!」
彼女は言い終わるときゅっと目を瞑った。
そして、ダッシュで走り去っていく。
なに、今の子誰?告白?ユキって誰?と教室はざわざわし始める。
僕は顔だけでなく全身が真っ赤になるのを感じた。
・・・心、何やってるんだ。
「ユキくん、告白されちゃったの?」
後ろからからかうように言われて僕は瞬時に振り返った。
「そ、そんなことは・・・ない」
「なるほどなーあの子。そうきたかー。全校生徒の前で意思表明ね」
くすくすと浅野は笑った。
「今度紹介してくれるって言ってたよね」



図書館に行くと久しぶりに心に会えた。
「私、ユキくんから離れないからねっ」
僕を見つけた途端、駆け寄ってきて僕の両手をぎゅっと握り言われて僕は戸惑いつつ、頷いた。心がなんだか変だ。
携帯は修理に出していたのと勉強が忙しく連絡できなかったことを彼女から聞いた。
校庭でのことは聞きそびれてしまったが、一言目から察するに本気らしい。
「えっと、浅野は同じクラスの友達だ。最近仲良くなったんだ」
僕は浅野を心に紹介した。
「初めまして。俺は浅野春。よろしくね」
着いてきた浅野が言うと心は僕の後ろに何故かさっと隠れ、心です、と挨拶した。
・・・。・・・なんだ、この妙な空気。
心が怯えているというか、威嚇・・・?
初対面の時はそんなことなかったのに。
「・・・。・・・浅野、まさか心に何かした?」
「まさかーこれで会うの二回目だよ。ね、心ちゃん?」
読めない表情で彼は笑う。
「そ、そう!そうなの。ユキくん、ごめんね。
ユキくんの友達だと思うと緊張しちゃって」
そういう声が既にうわずっていた。
「でも前はそんな感じじゃ・・・」
「挨拶すると思ったら、本当にあがってしまって」
必死の彼女を見て、僕は納得がいかなかったが渋々頷いた。
そして、更に妙なのが心が前よりも僕と距離が近いことだ。
一体何があったのか聞きたい。いや、来てくれるのは嬉しいけど。
「ユキくん、そんなことより提案が」
僕の表情を見て話題を断ち切るように心はチラシを両手で掲げた。
「花火大会?」
そのチラシを見て僕は問いかけた。
お祭りがあってその中で花火もあがるらしい。8月だった。
「そう!ユキくんと一緒に花火が見たいの」
チラシを持ったまま熱心な目で僕を見つめてくる。
「えー?花火見たいだけなら俺が一緒に行ってあげようか?」
心が持っているチラシを奪い、浅野がどれどれと内容を見る。
「返してくださいっ」
奪い返そうと浅野は飛び跳ねる。チラシをなんとか奪い返すと
「浅野さんは結構です!」
と言い切った。
「つれないなー」
・・・強気な発言とは裏腹に心は僕の後ろにまた隠れていた。
「夏休みの宿題、全部終わらせたらぱあっと遊びましょう。
ね、ユキくん」
背中から僕に声を掛けてくる。
・・・花火大会か。人混みだけ気になるけれど・・・最近は熱も出していないし、多分大丈夫かな。今まで人が多い場所に行くことは避けていた。
「・・・うん」
僕が短く返事をすると嬉しそうに彼女は身体を揺らして笑った。
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