Trains-winter 冬のむこう側

白鳥みすず

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第二章 ハル

それは君との始まり

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______本気で生きたくなった。君の隣で。




一言で言えば暇だった。
砂時計の前で寝転んで、時間を持て余してるようなそんな人間。
時間が過ぎていくことも焦りもせず、ただじっと待つだけ。
なんだ、今日はこれだけしか落ちなかったのか、なんて。
この退屈で気怠い日々を、むしろ終わることを望んでいるのかもしれないね。
ああ、もう暗い。この暗闇の中でただ落ちていく砂を見つめてる。
大きく伸びをした。もう保健室の常連かもしれない。
白いベッドであくびをする。
最初は俺を追い出していた先生も根負けしたのか何もしてこなくなった。
談笑する仲にまで発展した。おかげで快適、気楽、楽しいの三拍子だ。
黒髪も少し飽きてきたなあ、と思う。
目立たないように渡されてつけてきたカラーコンタクトもそろそろ飽き飽きしていた。
保健室で寝ていると時々、物静かそうな同級生とすれ違った。
確か・・・澤木貴之だっけ。いつも何処か遠くを見ているような目は俺の興味をひいた。
いつか話しかけてみようと思う。
俺は数ヶ月経つと髪をグレーに染め、制服を着崩した。つけていたカラーコンタクトもとった。
元の目は青色だ。思いっきり遊んでやろうと思った。
暇なら楽しいことを自分から積極的に探しにいくしかない。
暇だと時間を持て余すのはもう嫌だった。
いつものようにさぼろうと保健室に行くと苦しそうな声が扉の向こうから聞こえた。
俺は先生、いないのー?と声をかけながら中に入った。
熱で澤木が苦しそうにしていた。
「どーうしたの、また熱?澤木くん」
「またって・・・どうして知ってる?」
彼の目は熱で潤んでいたが、俺の方をじっと見つめていた。
「いやいや、だって常連でしょ。せんせーも言ってたよ」
俺は笑ってベッドの端に腰掛けた。
あらあら、俺のこと警戒してるなとその探るような視線からはっきりと伝わってきた。
髪染めたのは最近だけどさ、黒髪の時からよくすれ違ってたじゃん俺ら。
もしかして他人に興味ないタイプ?クラスの人の顔と名前一致してる?
「ここ、先生も優しいし静かで落ち着くし。澤木くんも気持ちいー方が好きでしょ?」
俺が笑みを浮かべると彼は目を逸らした。
熱のせいで額に汗をかき、前髪が張り付いている。
辛そうだね、まあ俺にはどうにもできないけど。
棚からシップを出すと彼の枕元に置く。
「シップ、あげるよ。じゃあね、澤木君」
ひらひらと手を振ると保健室を後にする。
扉を閉めると向こうからため息と少しすると寝息が聞こえてきた。
そっと扉を開ける。彼は案の定、冷えピタは貼らずに寝入っていた。
「しょうがないなー澤木くんは」
俺は小声で言うと彼の前髪をかき分け、冷えピタを貼り付けた。
よしっと言って離れようとすると彼の手が俺の腕を掴んだ。
目が点になる、とはこのことかもしれないね。
まさか起きてた?狸寝入り?
本当に柄にもなく動揺した。
「・・・せんせい、かと思った」
俺の腕を掴んだまま薄く目を開けて澤木は呟くように俺に言った。
焦点があまり合っていない。おそらく偶然起きてしまったのだろう。
「残念だったね、先生じゃなくて」
動揺をごまかすようにおちゃらけて言うと澤木は潤んだ目のまま
「・・・ありがとう、浅野」
と言った。
その顔ははじめて見たはずなのに何処か懐かしく儚く思えた。気のせいかもしれない。澤木が少しだけ笑ったように見えた。


それから保健室に行くとたまに澤木とすれ違う日が増えた。
意外なことに保健室で会うと澤木は自分から話しかけてきた。
「・・・おまえも体調悪いのか?」
「いつも通り、元気いっぱいかな、俺は。貴之くんこそ、また寝込みに行くの?」
へらりとして笑って返す。
おかしいな、俺が黒髪の時は他人に興味ないタイプの人間に見えたけど。
保健室の一件以来、俺には普通に声掛けてくるんだよなあ。
あれで心の距離が縮まったってやつなのかなあ。たいしたことしてないけど。
・・・いや、全然いいんだけどね。
それまで教室で話すようなこともあまりなかったからさ。
もっとこう・・・クールな感じだと思ってたんだけど。
拍子抜けしながらもさぼりがちだった授業の時間を使って彼の教室を
見に行くと真面目に授業を受けているようだった。
丁寧にノートに書き、手をあげ、質問までしている。
珍しい。ここの生徒なんて真剣に授業を受ける人間なんて一握りだ。
あそこまで熱心に受けれるものか?
ふーん・・・澤木くんは根っからの真面目人間なわけだ。それとも相当の馬鹿か、どちらかだ。
こんなことしたって無駄なのになあと思いながらも彼の姿を眺める。
・・・どうして、こんなに澤木くんのことを気にしてるんだよ、俺は。
あの時の顔がやけに記憶に残っていて頭から離れないんだよ。
ほんと俺の方がどうかしてる。
自分の髪をわしゃわしゃとして呻く。
ま、とりあえず俺も貴之くんに興味あるし、適当に関わっていこうかな。
他人と関わったって仕方がない、それはフールの生徒の大半が思っていることだろう。
でも、俺は他人と関わることで楽しいに記憶が塗り替えられるならそれでいいと思うんだよね。外部の人間には関わってもいいことないだろうけど。
ここにいる生徒なら立場は同じだ。
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